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2018/06/6

菅野 直人

軍事学入門「行けたら行くわ」では困る!?予備自衛官の招集

軍事組織の出番といえば大抵は戦争や災害、あるいは日常的な国境警備や治安維持と相場は決まっていますが、割と平和で大災害も起きていない時期だと、大規模な人員をひたすら訓練させ続けるほど予算は無し、しかしいざという時に動ける人員は確保しておきたい……それゆえ活用されるのが「予備役制度」です。自衛隊でも同じような予備自衛官制度があります。







他国の予備役に当たる「予備自衛官」とは?

Flag of JGSDF reserve.svg
By Japanese Ministry of Defense, vectorized by Los688 – http://www.clearing.mod.go.jp/kunrei_data/f_fd/1980/fz19800701_00266_000.pdf, パブリック・ドメイン, Link

平和な国の軍隊では、平時には駐屯地警備や何かあった時の初動など、部隊機能を維持しておく最低限の人員を残しておき、戦争や災害が起きた時のみ、訓練を受けた人員のうち必要な数を招集する「予備役制度」があります。

自衛隊にも同様の「予備自衛官」があり、かつては単純に退役した自衛官のうち、希望する者を予備自衛官として採用する形でしたが、有事に招集した際にも技量を維持するために年間何日と定められた訓練招集に応じられなければいけません。
ただ、有事や災害の際に招集されても応じられる環境、つまり職場や家庭の理解が必要なこともあって意外とハードルは高く、予備自衛官の確保は年を追うごとに困難になっていきました。

そこで、従来の「予備自衛官」(陸・海・空)はそのままとして、招集したとしても駐屯地の警備や後方などで軽微な任務につくに留め、特に年間30日の訓練招集に応じられ、実戦招集時には通常の任務につける「即応予備自衛官」(陸)を創設。
さらに、自衛官未経験者でも応募できる「予備自衛官補」を創設し、所定の招集訓練期間を修了した予備自衛官補は予備自衛官として任官可能としました(公募予備自衛官)。

それでも予備自衛官の定員不足は著しく、しかも「予備自衛官として任官しているし訓練招集なら何とか応じられるけど、実戦招集は行けません」という『幽霊予備自衛官』のような存在が問題になっています。

有事はもちろん、大災害でも招集

予備自衛官が招集されるのは、有事(戦争)の時とは限りません。
自衛隊がその使命としている国家と国民の防衛、それは災害に対しても同様で、大災害が起きた時の自衛隊の活躍は、もはや語るまでも無いでしょう。

かつては災害派遣で予備自衛官の招集はありませんでしたが、近年は国連の平和維持活動などで海外に派遣されて不在の自衛隊員も増える一方、国家危機レベルの大災害が多発していることもあって、自衛隊の出番が否応無しに増えてきました。

そのため、2010年代に入ってからは災害時に実戦招集されることが増え、災害派遣の現場で活動する予備自衛官の活躍がクローズアップされたことで、良くも悪くも注目される制度となっています。

初招集! 東日本大震災での活躍

1954年の防衛庁発足・自衛隊創設とともに立ち上がった予備自衛官制度ですが、実のところ本当に実戦招集されるようになったのはごく最近のことで、2011年3月に発災した東日本大震災が、その初招集でした

マグニチュード9.0、大津波により東日本太平洋側の広い地域、特に東北地方太平洋沿岸の壊滅と福島第一原子力発電所の炉心溶融事故により、自衛隊はただちに可能な限りの組織人員装備をもって被災地の救援に当たります。
創設以来最大級の災害は自衛隊の既存人員が対処できる規模を大きく超え、ついに制度創設以来57年間実戦招集されることの無かった予備自衛官の実戦招集が行われました。

とにかく人手が必要なことや敵弾飛び交う有事でないこともあり、ガレキの山となった被災現場の最前線で多くの予備自衛官が復興支援活動に従事。
その様子は被災地を取材する多くのメディアの目に触れ、国難を象徴する出来事として紹介され、その献身的な様子が紹介されます。

その一方、作業服(一般的に言えば「戦闘服」)の不足かジーパン姿で活動する予備自衛官もいるなど、『実際に招集してみたら不足する衣服や装備への配慮が不足していた』という課題も浮き彫りになりました。

熊本自身で露呈する「会社があるので行けません」

また、被災地に福島第1原発の事故による立ち入り制限区域も含まれていたこともあってか、招集を受けたものの応じられなかった予備自衛官も相当数いたようで、現場で不足する人員を補うべく150人程度の追加招集も満たせない状況でした。

もっとも、必要な業務に対応できる予備自衛官不足という一面もあったようで、招集に応じられるものの、最後まで招集されなかった予備自衛官もいたと言われており、ただ数がいればいいというわけでもありません。
それでも、「必要な時に、必要な場所へ、必要とされている隊員を送り込もうとしたができなかった」ことは事実で、いざという時に予備自衛官制度が機能するのか、深刻な疑問を持たれるようにもなります。

早速その問題が再発したのは2016年の熊本地震の時で、防衛大臣はただちに300名の予備自衛官招集の意向を示し、地元の陸上自衛隊第8師団は予備自衛官450名に招集を打診するも、実際に応じられると回答があったのは165人、うち実際に招集されたのは160人に過ぎませんでした。

呼んでも3人に1人しか応じないというのでは何のための予備自衛官なのか、ここでさすがに問題の大きさに誰もが気づき始めています。

有事の招集を促進する対策とは

年間に定められた訓練招集は予備自衛官なら5日、即応予備自衛官なら30日ですが、通常勤務している職場などの環境に配慮し、「分割招集」が認められています。
つまり、スケジュールを調整して都合のいい日にだけ訓練に行けばいい、というものであり、それは確かに予備自衛官の数をある程度維持する役割を果たしてきました。

しかし、災害や有事がスケジュールに合わせて発生するわけもなく、職場環境によっては仕事を離れられない、あるいは「招集解除されて仕事に戻ろうとしたら自分の席が無いでは以後の生活が成り立たない」では、とても応じられないという現実がそこにはあります。
もちろん、いかに災害とはいえ突然人員を引き抜かれたはたまらない、という企業の事情も配慮しなければならないところです。

ならば最初から予備自衛官など志願しなければいいではないか、と言っても、それでは予備自衛官がますます減少してしまい、さりとて常勤自衛官に応募してくる者を全て採用、任官させて平時から人員を確保しておく予算もありません。

では予備自衛官に招集拒否ができないよう罰則を定めればいいかと言えば、実は防衛出動には拒否すると「7年以下の懲役または禁錮」という罰則があるものの、災害出動では条件付きながら招集拒否が可能になっており、そこまで罰則を設けると志願する者が減ります。

企業へは「雇用した予備自衛官へ、招集などによる待遇面などの差別をしてはいけない」という法律があるものの罰則は無く、仮に罰則を定めたら企業はそもそも予備自衛官を雇用してくれないかもしれません。

まさに手詰まりもいいところで、せめて予備自衛官への月々の手当や訓練手当、平時に予備自衛官を雇用する企業への給付金を増やすなど対策をしては、という声も高まっています。
そもそも予算削減のために予備自衛官制度があるのに、予備自衛官のために予算を増やしていたら本末転倒ではありますが、背に腹は変えられないところでしょう。

現在、自民党内で防衛費をGDP2%まで拡大するよう検討されているようですが、その中に装備充実だけでなく、予備自衛官への手当や企業への給付金拡大、あるいは平時の予備自衛官が安心して勤務でき、有事には即座に招集に応じられる職場の創設など、予備自衛官制度の改善策が含まれているのを祈るばかりです。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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