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2018/05/25

菅野 直人

あゝ憧れの自衛隊!若き日の体験入隊記

ごく短期間で終わるためか、参加する企業や個人・団体が増えてもあまり話題になりにくいのが自衛隊の『体験入隊』。筆者も20年ほど前に参加した経験がありますが、当時はまだ自衛隊の海外派遣への理解が少なかったり、東日本大震災など大災害への派遣前でしたから、「自衛隊を見る目」がだいぶ違う時代でした。それでも体験入隊そのものは現在の企業のそれとあまり違わないと思うのですが、最近参加された方、いかがでしょう?







「公務員だから戦争したくない」のショック

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By Sturmvogel 66投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, Link

1990年代後半、大学を卒業して九州のとある企業に新卒入社した私は、陸上自衛隊第40普通科(歩兵)連隊の駐屯地、小倉駐屯地の門をくぐりました。
そう、現在でも新入社員研修の一環として実施されることの多い『体験入隊』です。

もっとも、新入社員研修そのものが朝早くに起きてジョギングなど運動、昼は座学という、企業の研修所での閉鎖された日々だったので、そこから自衛隊に体験入隊する意味がどこにあるのかは、よくわかりませんでした。
入社後も体験入隊で得た何かが仕事に生きた……という経験は皆無だったので、単なる『社会見学』のひとつだったのか、あるいは『学生気分を抜く』(これまた無意味でしたが)という理由があったのかもしれません。

そんな感じで自衛隊と聞いてビビる者、無関心な者、私のようにミリタリーマニアでひたすらワクワクしている者まで同期の反応は様々でしたが、当の自衛隊員はといえばどうせ3日ほどしかいない『お客様』に対して、本気になるわけも無く。

いくつかの班に分かれてグラウンドで班長(陸上自衛隊員の曹クラス。私の班はO野二曹)と顔合わせして、軽い運動をしてから少し話をする機会がありました。

ナマの自衛隊員』と接触する初めての機会に興奮していた自分は早速、
自衛隊員はやはり、有事とあらば国防のため頑張るのでありますかッ!?」
などと、今思うと間抜けな質問をしたものですが。

いやー、ボクら軍人じゃなくて公務員だし、できれば行きたくないなー
と、若きミリタリーマニアにとってはショッキングな、ある意味では気の抜けた答えが返ってきました。

グラウンドの隅にブルーシートを被せられた車高の低い装軌車両が放置されていたので、あれ60式(106mm)自走無反動砲ですよね? と聞いたら、
あー、壊れて動かないよアレ。」
体験入隊とは、時と場所によってはミリタリーマニアの幻想がガラガラ崩れる機会なのかもしれません。

ファミ○ンウォーズがでーるぞッ!

軍隊の風呂と言えば、丸刈りの集団が入浴する様を指して『芋洗い』などと言うもので、旧陸軍の回想記など見ていると「湯船に浸かるだけ浸かったらお湯が溢れるから」と、足首から膝くらいまでしか湯が張られていないイメージ。

しかし小倉駐屯地の大浴場は、見た感じ普通の銭湯と変わらない雰囲気で湯量もたっぷり、清潔で広々としており、当時はロシアのタンカーが島根県沖で沈没した際に起こした重油流出事件の対応で隊員の多くが災害派遣出動していたこともあって、ゆったりしたものでした。

隊員全員が普通にいる時だったら違ったかもしれませんが、まるで保養施設のようでこらまた拍子抜け。
唯一違ったのは、寝起きする隊舎と風呂の間の移動が常時駆け足だったことくらいです。

それも班長のモチベーションに左右され、班長がレンジャー(厳しい訓練を乗り越えた精鋭隊員)出身と噂されたある隊など、単に走るだけでなく全力疾走させられていました。
というか、レンジャーも新入社員の体験入隊の班長とかやるもんなんですね……?

我らが班長のO野二曹は温厚な人物だったので非常にユルかったものですが、そうした余裕もあってか同期生の一人、朝の『ポンキッキーズ』をこよなく愛するムードメーカーN君が、いきなり唄いだしました。

ファミ○ンウォーズがでーるぞッ!」
乗るしか無い、このビッグウェーブに。同期全員が続きます。
(ファミコンウォーズがでーるぞッ!)

コイツはどえらいシュミレーション!」
(コイツはどえらいシミュレーション!)
のめりこめッ!」
(のめりこめッ!)
のめりこめッ!」
(のめりこめッ!)

TVでさんざん有名になったファミコン名作ゲームのCMソング(元ネタは映画『フルメタルジャケット』のオマージュ)を歌いきるも、隊舎はまだまだ遠く、さてどうするのかと思っていると……

ゲーム○ーイウォーズがでーるぞー!」
(そう来たか)
ちなみに陸自の新隊員訓練だと、こういうの歌うんでしょうか?

関連記事:ミリタリー偉人伝「まるでそびえ立つ○○だ!」リー・アーメイ一軍曹よ永遠に

とにかくメシがウマイ

朝6時、隊舎のスピーカーがザザッと鳴ってマイクのスイッチが入ったことを知らせ、
起床せよ
と無愛想に告げます。

昔の話なので忘れてしまい、「起床」だけだったかもしれませんが、とにかく駐屯地内の放送は全てが命令調であり、そのへんは普通の世界との違いを感じさせました。
その後は点呼を取ったような、取らなかったような? 寝ぼけているので定かではありませんが、すぐに朝食です。

学生や社会人生活では「朝からメシなんて食ってられないよ」と朝食を抜いたり軽く済ませる人も多いと思いますが、自衛隊では当然のごとく朝からたらふく食えますので、食いしん坊にとっては万々歳!
しかも食事のクオリティ、それも見た目はともかく味の方はソコソコ高く、少なくとも企業の研修所よりはるかに美味であり、研修所である程度は日々の時間のサイクルを整えてから来るので、朝からガツガツ食えました。

これだけよく食べて運動してよく食べてを繰り返していけば、確かに頑強な体が出来上がることでしょう。
体験入隊で一番不満が無く、できればもう1度味わいたいと思うのが食事です。
もっとも、中年の域に達して運動不足の身では、もしかするとコッテリしすぎるかもしれませんが。

なお、隊舎でのベッドメイク(シーツの角は豆腐のごとくキレイにしろなど)は『お客様』ゆえか、なにか言われた記憶はありません。

就寝前点呼で笑わない自衛隊員

昼はジョギングや行進訓練などの軽い運動、体力測定程度でしたが、学生のうちに不摂生の過ぎたものか? 同期が1人ケガをしただけで、特に問題も無くほどよく体を動かす程度で済みました。
それから昼食、また運動、入浴、夕食ときて就寝前の点呼を受けるわけですが、ここで他の企業も含めた体験入隊同期の全班が一堂に介し、当直の自衛隊員へ班員の現状報告を行います。

○班何名、異常無しッ!」
とやるわけですが、初日の晩にどこかの班で
○班何名、○○君腹痛ッ!」
と申告した時から雰囲気が変わりました。

班の状態を健全に保つため、そして体験入隊では『お客様』を無事に返すためか?班員に体調不良のものがあれば、どんな些細なことでも報告するように言われていたのですが、そこに目をつけた者がいたようです。

○○君、水虫ッ!」
に始まり、その手があったかと面白半分に適当な申告が相次ぎ、ついにはこんなものまで。

○○君、歯グキイタッ!」
(は、歯グキ痛って何だよ……)
整列する体験入隊員一同、ついにクスクスと笑いが漏れるようになりますが、それにしても当直の自衛隊員は大したものでした。

硬直した鬼軍曹のように直立不動でクスリともニコリともせず、
申告は真面目に行うように……」
と、表情も口調も変えずに告げたのも訓練の賜物か?『バラエティ番組の笑ってはいけない企画』に自衛隊員を出したら、ブッチギリで優勝するのではないでしょうか。

ジープは男の乗り物だった

JGSDF Type 73 Light Truck 3259.JPG
By まも投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, Link

さて、短いながらも思い出深い自衛隊への体験入隊もいよいよ終盤、シメとなるマラソン大会が開催されました。
マラソン大会と言っても単なる体力自慢、勝ったわけで特にいいことがあるわけでも無し。
ましてや運動、さらに走ることに関してサッパリ自信の無い私にとっては、完走すら眼中に無く、ひたすら出走前の説明で聞いたことに、心をトキメかせていました。

そしていよいよスタート! ……かと思うと2kmほどで足の不調を訴え、私は早々に手を上げます。
元々私は何が悪いのか、走っているうちに足がシビれて動かなくなってくるので、歩くだけならナンボでも歩けますが、走るのは苦手なので嘘ではありません。

早速目の前に現れたのは73式小型トラック、すなわちジープでした。
当時はまだ2代目73式(現在は1/2tトラックと改称)こと三菱 パジェロの自衛隊版が採用されたばかりだったので、スパルタンなジープがバリバリ現役でしたが、その後部座席に座ってあとは悠々とゴール地点に先回りです。
いやー、乗り心地はともかくとして、仮にも戦闘車両だけあって頼もしい乗り物でした。

お前、ミリオタだから単にジープ乗りたかっただけだろ!」
と、後から同期にからかわれましたが、それに関しては全くその通り。
事前に「限界を感じたら後ろからジープで拾うから合図するように」と言われた通りにしたまでで、おかげで念願の陸自ジープに乗れました。

私にとっての自衛隊体験入隊は以上のようにとっても『ヌルい』もので、事前の噂では「土のうを担いで走らされるんじゃないか」などビクビクしていましたが、何のことはなく自衛隊の雰囲気を味わう程度です。
あれから20年、自衛隊も海外派遣や大災害への災害派遣を経て往時とはかなり違う組織になってはいますし、何かと経験豊富な隊員も増えたことでしょう。

それでも体験入隊で「新社会人たるキサマらに、まずは地獄を味わってもらおうか!」ということは無いと思いますので、今の学生諸君も「内定先で自衛隊に入らされる」と知っても、恐れることはありません。タブン。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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