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2018/05/23

菅野 直人

空自はいつまで対抗できるのか?増強続く中国空軍とその歴史

中国と日本の軍事的摩擦といえば、尖閣諸島を巡る中国海軍や中国海警局(日本の海上保安庁に相当)も目立ちますが、空軍の近代化も進んで近年は防空識別圏に近づく中国軍機へのスクランブル(緊急発進)が激増しているほど。航空自衛隊も那覇基地の戦闘機隊を2個飛行隊に増やして第9航空団を新設するなど増強していますが、いつまで対抗しきれるでしょうか?







実は日中戦争で戦った中国空軍は、今の台湾空軍

ご存知の通り、現在の中国(中華人民共和国)は中国共産党の国家として、激しい内戦の末に1949年に成立、それ以前に中国大陸を支配していた中華民国は台湾に逃れて現在に至ります

第2次世界大戦やそれ以前、日中戦争の時代は中華民国が国民党と中国共産党がタッグを組む『国共合作』体制にあり、中国共産党もソ連に要員を派遣してパイロットを育成していたものの、当時の中国空軍とは『中華民国空軍』、つまり現在の台湾空軍です。

中国共産党配下のパイロットも加わった『中華民国空軍』が、第1次上海事変(1932年)から第2次世界大戦終結(1945年)まで日本の陸海軍航空隊と激しく戦いますが、最初に戦った相手は日本海軍の空母『加賀』航空隊でした。

第1次世界大戦後に運用可能となった空母はそれまで実戦参加の経験が無く、『加賀』が世界で初めての実戦参加となりましたが、それゆえ中華民国空軍も『初めて空母と戦った空軍』と言えます。
2017年に海上自衛隊のヘリコプター護衛艦『かが』が就役した時、中国政府が不快感を示したのにはそういう歴史的経緯があったわけです(中国から見れば、初めて中国を侵略した空母名)。

ただし、何度も書くように当時の『加賀』航空隊と戦ったのは現在の中華民国(台湾)であり中華民国空軍(台湾空軍)であって、現在の中国空軍(中華人民解放軍空軍)とは異なります。

今の中国空軍は敗戦後の日本陸軍航空隊が育てた

それでは、現在の中国空軍のルーツはどこにあるのでしょうか?

日本との戦争中は『国共合作』体制の下、国民党とともに中華民国を形成していた中国共産党ですが、1945年8月に第2次世界大戦および日中戦争が終結すると、同年10月には中国は国民党側と中国共産党側に分かれた武力衝突(第2次国共内戦)が再開します。

この時点ではまだ、紅軍(中国共産党軍)は中華民国に対するゲリラ的な反乱軍であり、国府軍(中華民国軍)のようなまとまった空軍を持ちませんでした。
もちろん、国共合作時代の中華民国空軍で戦った中国共産党員はいましたし、彼らによって紅軍に勧誘された空軍兵士もいたのですが、紅軍から人民解放軍への改称(1947年9月)、中華人民共和国建国(1949年10月)を経て人民解放軍空軍設立(同年11月)はもっと後の話です。

それまでの間、当初は国共内戦を調停しようとして断念、中国から手を引いたアメリカに代わって中華民国はソ連に接近、紅軍(中国共産党軍)は危地に陥りますが、巧みな戦術で1949年1月までには逆に中華民国の国府軍を殲滅しました。
ここで空軍設立前ながら、紅軍 / 人民解放軍の航空部隊も活躍しますが、その過程で大きな役割を果たしたのは中国大陸に残留していた旧日本軍人です。

彼らの中でも、八路軍(紅軍の中国北部方面軍)に協力した者の協力を得て、1946年3月に通化(現在の吉林省通化市)で『東北民主連軍航空学校』が設立、一式戦闘機『』や九九式高等練習機、国府軍から鹵獲したアメリカ製P-51戦闘機を使った訓練が始まりました。

対ソ断絶で東側の、天安門事件で西側の技術を受け損なった歴史

J-8II
By KampfflugzeugF-8China.jpg: User Wikifreund on de.wikipedia
derivative work: Guinnog (talk) – KampfflugzeugF-8China.jpg, パブリック・ドメイン, Link

東北民主連軍航空学校を巣立った航空要員が活躍する一方、いつの間にやら中国共産党への協力を強化していたソ連からの援助も増え、人民解放軍空軍設立の頃にはソ連式の装備を持つ空軍が誕生しました。
1950年10月には、義勇軍という体裁をとった人民解放軍空軍が『人民志願軍空軍』として朝鮮戦争に介入、ソ連空軍パイロットも含む多数のパイロットと最新鋭ジェット戦闘機Mig-15は国連軍を震え上がらせます

その後も台湾に逃れた国府軍空軍(台湾空軍)との戦闘などで活躍しますが、1950年代後半にソ連でスターリンに代わりフルシチョフ首相が就任すると中ソ関係は冷え込み、1964年以降は事実上断絶状態になります。

そこまで人民解放軍空軍はソ連からMig-15 / 17 / 19といった当時の最新鋭ジェット戦闘機やTu-16ジェット爆撃機の供与、あるいはライセンス生産の許可を受けており、それに続くマッハ2級超音速戦闘機Mig-21のライセンス生産の準備もしていました。

しかし、中ソ対立でソ連側技術者が引き上げてしまい、残された中国側技術者は何とか独力でMig-21国産型『J-7(殲撃7型)』を完成させて実戦配備するも、自力で新型機を開発する技術力の無かった中国はそこで航空技術が停滞してしまいます。

J-7を双発化した拡大発展型J-8(殲撃8型)の開発に着手(1964年)したものの、文化大革命(1966-1976年)による混乱で停滞、実用型J-8Iが1984年に完成するまで20年を要し、その間に関係を改善した西側諸国からの技術を取り入れたJ-8IIを開発開始。

しかし、それも六四天安門事件(1989年)による西側との関係悪化で技術協力を打ち切られ、国産技術で開発続行、配備されたものの、何とも中途半端な性能になりました。
この2度に渡る外部からの技術断絶は中国の航空技術発展に大きな影響を与え、特にジェットエンジンは今でも信頼性の高いものの量産が困難で、ロシア製エンジンに多くを頼っています。

2000年代以降の大躍進

六四天安門事件の影響で、新型機の開発・更新のままならなくなった人民解放軍空軍は、陸海軍ともども停滞期を迎えます。
おそらく、多くの人がイメージする『中国軍』というのはこの時期の「数は多いが旧式兵器ばかり」というものではないでしょうか?

しかし、1990年代後半以降、関係を改善したロシアからSu-27シリーズの新型戦闘機やそのライセンス生産型J-11(殲撃11型)、独自改良型J-11Bなどが導入され、陸海軍ともどもアップグレードを開始。
ロシア製エンジンや電子装備輸入のメドがついたことで、国産新型戦闘機J-10(殲撃10型)の開発に成功、配備も始まるなど、主に制空 / 迎撃戦闘機の更新が進みました。

爆撃機こそ1950年代以来のH-6(轟炸6型。ソ連のTu-16ライセンス生産・独自発展型)や、1980年代後半に開発成功した超音速戦術爆撃機JH-7(殲轟7型)と旧式機の改良に留まるものの、それ以前と比べれば「量だけでなく質も向上」と、大躍進を遂げています。

現在の中国空軍最新鋭機と、将来の新型機

J-20 at Airshow China 2016.jpg
By Alert5投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, Link

そうした『空軍大躍進』の開始から既に20年ほど経過し、その初期に輸入された戦闘機Su-27Sの退役が既に始まるなど、人民解放軍空軍は既に「質的充実と、その更新による時代に適合した能力強化」という、良質なローテーションに入っています。
いわば充実期というわけで、2017年にはステルス戦闘機J-20(殲撃20型)の部隊配備も始まりました。

爆撃機も旧式のH-6やJH-7に最新のエンジンや電子装備を搭載した最新型が生産されており、特にH-6爆撃機は東シナ海や南シナ海だけでなく、対馬海峡や宮古海峡上空を通過してみせるなど、かつてのソ連軍さながらの活発な動きを見せています。

まだ実用的なAWACS(早期警戒管制機)や空中給油機など、中国本土を遠く離れた空域での作戦に不可欠な支援用途機の数は少ないものの、それらが揃うと「ある日突然、中国軍機の大編隊が出現し、地域紛争に介入した」という事態も起こりえるでしょう。

もちろん、それら十分な支援能力を持った航空戦力の充実は、尖閣諸島はじめ南西諸島を最前線とする航空自衛隊にも、大きな影響を与えます。

現在の航空自衛隊は沖縄の那覇基地にあった戦闘機隊を増やし、F-15J2個飛行隊からなる第9航空団(2016年新編)の配備など、対策を講じ始めました。

さらに、今は三沢基地で編成中の新型ステルス戦闘機F-35A飛行隊を優先配備したり、同じく三沢基地や築城基地にしか配備されていない、高い対艦攻撃力を持つF-2A戦闘機の追加配備など、増強を余儀なくされるかもしれません。
また、増強先は那覇に限らず、アグレッサー飛行隊『飛行教導群』や、旧式のF-4EJ飛行隊を2016年に他基地へ移動させ、F-15J1個飛行隊のみ手空きになっている新田原基地(宮崎県)の可能性も大です。

航空自衛隊の増強も進む中、人民解放軍空軍の増強に拍車がかかっていることは、同空軍がかつてのソ連軍と違って挑発的な行動が目立つこともあり、いつか偶発的な軍事的衝突が起きないか、あるいは既に起きているのではないかと心配されています。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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