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2018/05/9

菅野 直人

中古ばかりとは限らない、日本からの輸出兵器5選

中国の南シナ海での活動が活発化する中、不安定化する海域を各国共同で監視しようと日本から軍用装備、すなわち“兵器”の輸出(給与)が始まっています。今はまだ中古品ばかりですが、いつかは“新品”も輸出する日が来るのでしょうか?

TC-90やP-3Cなど中古航空機

第202教育航空隊のTC-90
By 海上自衛隊 – http://www.mod.go.jp/msdf/formal/gallery/aircraft/rensyu/details/img/tc-90_04l.jpg, Attribution, Link

日本からの軍用機として輸出されるものとしてはおそらく戦後初なのでしょうか、海上自衛隊の練習機、ビーチTC-90が2017年3月にフィリピン海軍へ有償貸与されました(2018年3月に無償供与に切り替え)。
非武装の練習機とはいえレーダーなどを搭載する改造余裕もあり、既に南シナ海で哨戒飛行に使われています。

フィリピン海軍としては同じ海上自衛隊の中古機でもロッキードP-3C哨戒機が欲しかったようですが、財政難で長らく本格的な航空機をほとんど持っていなかった同海軍航空隊でいきなり大型4発のP-3Cは維持費も含めて荷が重く、まずはTC-90の給与となりました。

四方を海に囲まれて広大な領海を持つ日本はこれまで多数の哨戒機や、乗員訓練用の練習機や連絡機を海上自衛隊や海上保安庁、航空自衛隊で保有しており、特に国産4発ジェット哨戒機P-1の配備で余剰となるP-3Cは中小国で人気が出そうです。

なお、軍用機として日本から直接輸出されたわけではありませんが、ギリシャ空軍で使われていたYS-11(同国のオリンピック航空から譲渡)など、国産旅客機やビジネス機が他国で軍用機として使われていた事例もあります。

巡視船や護衛艦など中古艦船

中小国の海軍や沿岸警備隊では財政難で艦船の調達も大変であり、フィリピン海軍では第2次世界大戦中に就役したフリゲート艦“ラジャ・フマボン”が75年に渡る艦歴を終え、2018年3月にようやく退役したくらいです。

海軍の第一線戦闘艦艇でこれですから、沿岸警備隊のパトロール用船舶となるともっと寂しい現状で、2017年5月にはマレーシアの海上法令執行庁(日本の海上保安庁に相当)に海上保安庁の1,000t級巡視船2隻が給与されました。

日本の海上保安庁も乏しい予算の中でやりくりしている状況であり、不審船や違法漁船などを摘発する高速で装甲や武装も強化した新型巡視船は新造船で就役しているものの、大型巡視船の更新はなかなか容易ではありませんが、新造船で代替えされた余剰船舶だけ巡視船が供与された形です。

また、海上自衛隊では3900t型多機能護衛艦(30FFM)を整備予定で、2022年3月から随時就役予定になっていますが、護衛隊群に所属しない地方防備用(旧地方隊)の2桁護衛隊に配備されている、はつゆき級、あさぎり級、あぶくま級護衛艦合計16隻を更新します。

さらに護衛艦増勢(4個護衛隊群用32隻+22隻)のため、さらに8隻の建造が見込まれていますが、余剰になった旧式護衛艦か、あるいはFFMそのものを海自用とは別に輸出用として新造するやもしれません。
その場合、初期にはマレーシアに引き渡した巡視船のように非武装かもしれませんが、いずれは武装したまま引き渡すようになるのでしょう。

また、短距離離陸 / 垂直着陸型の戦闘機F-35Bの配備と海自護衛艦での運用が検討される中、F-35Bを運用するにはやや小さい“ひゅうが”級護衛艦を早期退役させて、“いずも”級同等、あるいはもう少し大きい護衛艦(空母)を就役させる可能性もあります。
その場合、ヘリコプター3機を同時離発着できる“ひゅうが”級の能力は魅力的なため、取得したいという海軍に売却することも考えられるでしょう。

海外での運用は課題も多いUS-2飛行艇

第71航空隊のUS-2
By Toshiro Aoki – http://jp-spotters.com/6032LL.html, CC 表示-継承 3.0, Link

新型兵器の輸出と言えば、オーストラリアに潜水艦を売り込むなど、既に「武装前提での新増刊の輸出」は商談が始まっており、残念ながらオーストラリアの件はフランスに負けてしまいましたが、今後も推進されていくことでしょう。

もうひとつ注目なことがあります。インドが興味を示している最新鋭の救難飛行艇US-2ですが、日本からの輸出ではなくインドでのライセンス生産を希望しているようで、話がまとまるかはわかりません。

US-2について言えば他にも問題があります。
US-1Aではライセンス生産していたエンジン(T64-IHI-10J)が輸入エンジン(ロールスロイスAE2100J)に変わったこともあって、輸出の際にそのエンジンを装備できるかは、エンジンの製造国と機体の輸出先の関係が良好で無くてはいけません。

他にも、そもそも日本での救難任務に特化して作られた飛行艇だけに、各国軍で求める仕様、つまりオーダーメイドが可能かどうかや、輸出後のアフターケアが可能かどうかという点で、戦後の日本には実績が無さすぎます。
旅客機やビジネス機など国産民間機の輸出もそうした営業やアフターサービスといった面で躓いているので、インドが完成機の輸入ではなく自国での生産を希望しているのもそれが大きな理由かもしれません。

艦船や車両はともかく、新造の航空機については地道に信用を得ていかなくてはいけない分野です。

島の多い海域で有効なミサイル艇

Hayabusa and Umitaka.jpg
By 80cc – Transferred from ja.wikipedia
〔Transferred to Commons by Tabercil.〕, CC 表示-継承 3.0, Link

先に巡視船や護衛艦の話をしましたが、南シナ海など東南アジア周辺海域は大小の島が多く、小型高速の艦船も需要が多そうです。
そこで注目したいのが海上自衛隊の“はやぶさ”級ミサイル艇6隻で、これもFFMで代替えしていく予定なのですが、具体的にいつ頃更新するかはまだこれから。
フィリピン海軍など“はやぶさ”級の供与を希望している最右翼で、小型ながらも76mm砲1門や対艦ミサイル4発を持ち、最高速力44ノットで疾走する高速性能と、冬の日本海にも耐える航洋性能には大きな期待がかかります。

そもそも、地中海での運用を目的としたイタリア海軍のミサイル艇を参考にした“1号”級ミサイル艇が航洋性能不足で苦労した挙げ句に早期退役したのを反省して建造されたのが“はやぶさ”級だけに、台風の多い東南アジアでも活躍できそうです。

同様に、海上保安庁の保有する350t型巡視船のように35ノット以上の最高速を誇る小型高速巡視船も、高速化する漁船や海賊船対策として注目されます。

世界屈指の軽オフローダー“ジムニー”は軍用でも通用

Suzuki Jimny Sierra JB43W-Y9 0249.JPG
By DY5W-sport投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, Link

最後に航空機や艦船以外で有望なもの、日本が誇るスズキ製の軽オフローダー“ジムニー”です。
輸出の場合は国内名“ジムニーシエラ”と呼ばれる排気量アップしたワイド版になりますが、ジムニーは既にインド軍で採用されるなど軍用としても実績があります。

トヨタの“ハイラックス”や“ランドクルーザー”も軍用として数多く使われており、特にアフリカや中東などではテクニカルと呼ばれる武装4WD車として活躍していますが、ジムニーの優れたところは、それらと同じ本格的なオフロード性能を持ちつつはるかに小型な事。
つまり険しいジャングルや地形的に厳しい沢などが連続する地域での運用に適しており、重武装や装甲を施すにはやや小さすぎるものの、後方での部隊連絡用などにはうってつけ。

しかも2018年のモデルチェンジでよりタフな姿になりつつ、オフロード性能は健在なようですから、軍用としても期待したいところです。
その場合、日本から直接輸出するパターンもありますが、インドのマルチスズキなど海外生産工場から輸出しても良いでしょう。

なお、三菱や小松などで生産している戦車や装甲車、機動戦闘車(装輪戦車)など、装甲・装軌車両については、国産こそしているものの“技術の温存と継承”という意味合いが強いため、単価が非常に高く、輸出はなかなか見込めません。
仮に「量産効果で安くなって自衛隊の調達にもいい影響が出るから、輸出を推進しよう」と思っても、そもそも職人の手作り工芸品のようなもので大量生産できる体制にも無いですから、輸出しようと思えば生産ラインから検討しなければならないのが難点です。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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