- コラム
北朝鮮最新情勢・弾道ミサイル今後の発射予想と、北朝鮮漁船団の「海賊化」問題
2018/01/10
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2018/04/25
菅野 直人
いよいよ南北首脳会談を目前に控えた4月20日、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が、「中距離・大陸間弾道弾の発射実験と核実験の必要性が無くなったのでもうやらない」と一方的に宣言しました。これを受けて平和を感じる人から北朝鮮だから信じられないという人までさまざまですが、そもそも事態は何も変わっていないことが肝心です。今後も何かサプライズがあるのでしょうか?
2018年になってから急激に態度を軟化させて平昌五輪に南北合同チームを派遣したかと思えば、五輪外交で一気に韓国との距離を詰め、トランプ大統領との米朝首脳会談まで決めてしまったウルトラCを見せる北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長。
4月27日に予定されている南北首脳会談を前にした4月20日、突然「中距離弾道弾、大陸間弾道弾の発射実験と核実験は終了したので、もうやりません!」と宣言しました。
南北首脳会談と米朝首脳会談が決まって高官級協議も進む中、就任以来始めて訪中して習近平総書記と会談、関係回復をアピールするなど動きが活発ですが、韓国の文大統領がどれだけ動いても空騒ぎ気味に取られるのとは対照的です。
最近では夫人を公の場で紹介したり、「北朝鮮の3代目はこれまでと違う」という面を見せ続けていることもあって、「今度こそ、もしかしたら」と喜びかけている人もいるかもしれません。
しかし、肝心な事を忘れてはいけないのです。
金正恩委員長の宣言を見ればわかりますが、IRBM(中距離弾道弾)とICBM(大陸間弾道弾)の発射実験、および核実験については、「もう完成したので実験の必要は無い」という意味のコメントを出しています。
ただしこれは、何のことは無い2017年11月29日の「核武力完成宣言」を言い換えただけで、その後ミサイル発射も核実験も行われておらず、ただ現状を改めて宣言しただけなのです。
むしろ、これまでの発射実験で弾頭部分の再突入が確認できていないことから、射程などロケットとしての性能は確認されたものの、大気圏再突入に耐えて地表、あるいは目標上空で弾頭を炸裂させる能力に関しては、大いに懐疑的に見られていました。
そのため、それを確認する目的でも2017年末にもう1度発射実験が行われる可能性があったものの結局行われず、現状のまま「完了宣言」されると、結局北朝鮮はロケットを弾道ミサイルとして使えるのか使えないのか? 誰にもわからないままなのです。
むしろ、ヘタに大気圏再突入までやって失敗するより「実際に撃たれてみないとわからない」という方が、ハッタリとしてはよほど有効なわけで、またもや北朝鮮は巧みな瀬戸際外交に成功しようとしています。
また、金委員長が終結宣言をしたのはあくまで
この3つであり、いずれも「アメリカへの直接打撃」を考慮したものです。
これが「実際に撃ってみて再突入と大気圏内核爆発まで確認した」となると、さすがにアメリカも、というよりトランプ大統領も重い腰を上げざるを得ず、2発目を準備される前に即時に攻撃したかもしれません。
あるいは、「太平洋のどこかに落としてみたが分解し、大気圏再突入能力の無いのが証明された」ですと、やはり今のうちに潰しておこうとアメリカの攻撃を招いたかもしれない、というかなりギリギリの状況で、アメリカもいつでも攻撃できる能力をアピールしていました。
しかし、「結局本当はドッチかわからない」ですと、何とも踏ん切りがつきませんし、何よりできれば自国を戦場にしたくない韓国の腰が定まりません。
唯一、既にMRBM(準中距離弾道弾)や短距離弾道弾の射程に収められつつ、地上からの直接侵攻だけは受けにくい日本は民意も「北朝鮮攻撃やむなし」に傾いていたように見えましたが、韓国とアメリカが腹を決めない以上、できることはありませんでした。
つまり、「これ以上やると戦争になる」というギリギリのところまでやって韓国を慌てさせ、アメリカが爆発寸前のところでピタっと止めて見せ、日本を空回りさせて孤立させるという「一石三鳥」をやってのけたのです。
おまけに米中が経済戦争や南シナ海問題で対立する中で中国も喜ぶでしょうから、一石四鳥かもしれません。
一体どんなブレーンがついているのかわかりませんが、北朝鮮の瀬戸際外交はもはや伝統職人芸の域に達しています。
しかもこの「やめます宣言」、あくまで前項に書いた3つだけですから、他の制約はありません。
MRBM以下の射程が短い弾道ミサイル、巡航ミサイルなどは日本を射程に入れても実験終了宣言はしていませんし、対艦ミサイルやその他兵器もまたしかりです。
おまけに、発射実験をやめると言ったのは「ICBMによる核戦力」ですから、ロケットの打ち上げをしないとは言っていません。
「人工衛星を打ち上げます。もちろんICBMではありません平和目的ですよ?」
と言ってしまえば、実際に過去には人工衛星打ち上げにも成功していることもあり、公式には誰も文句がつけられないわけです。
仮に約束を守ったところで堂々とロケット実験はできますし、「軍事転用できるからダメだ」と文句を言おうにも、「日本だって立派な衛星打ち上げロケットを持っているが、それいいのか?」と言われても困ります。
しかも、開発放棄はすると言いましたが、作ったものを放棄するどころか、今後の配備を止めるとも言っていません。
仮にそれを要望すれば、「国家体制の安全が保証されない。その原因を作ったのは我が国では無い!」と、これまた堂々と開き直る可能性が高くなります。
それだけ意味のない今回の「核・ミサイル開発放棄宣言」ですから、もちろん関係各国の関係者一同、間に受ける人間は誰ひとりいない……と言いたいところですが、何でもいいから自国で戦争をしてほしくない韓国の文大統領だけは信じるかもしれません。
その文大統領ですが、4月27日には金委員長との南北首脳会談に臨みます。
とにかく戦争したくない一心なのに、北朝鮮からは脅され、中国からは冷たくされ、アメリカからは何をしてるんだと叱責され、日本からは……もうどうしていいかわからない中、金委員長の差し出した手を熱く握る気持ちはわからないでもありません。
おそらく会談そのものは和やかに進むのかもしれませんが、そこで何かとんでもない約束をしてしまわないか、隣国としては少々心配になります。
トランプ大統領も「数週間内には米朝首脳会談を開くが、成果が見込めそうに無いならそもそもやらない」とも言っており、まず第1ラウンドの南北首脳会談で文大統領のお手並み拝見ということになりそうです。
その結果次第では、東シナ海で中国の脅威の脅威が増している我が国にとっても新たな防衛正面が増える可能性もあるだけに、最低でも現状維持以上の結果を残してくれるよう祈ります。
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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