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2018/04/11

菅野 直人

時代の波に乗れなかった無駄な兵器5選

兵器開発というのは難しいもので、構想段階では「絶対必要!」、計画段階では「現実的に手直しして予算をとろう」、開発段階では「予算の都合もあるから何とかしなきゃ」、そしてようやく配備しても「え、もう必要無いの?」となることはよくあります。今回はそんな時代の波に乗れなかった兵器から、5つほど抜粋してご紹介!

「最後の有人戦闘機」ロッキードF-104スターファイター

アメリカ空軍所属のF-104A(1957年)
By 不明http://www.dfrc.nasa.gov, パブリック・ドメイン, Link

ジェット戦闘機は1950年代に飛躍的に発達し、航続距離や武装も満足いくものとなり、信頼性もある程度以上獲得した上で、高性能なものが続々登場します。
その中でもマッハ2級の迎撃戦闘機は、敵国の爆撃機が襲来するや緊急発進、持ち前の高速性能と上昇力で高高度にダーッと駆け上がり、ミサイルをぶっぱなして帰還する、という任務に特化する限り、究極とも言える戦闘機が登場していました。

それがロッキードF-104スターファイターで、機体そのものがエンピツに短い翼をつけたようなアッサリしたもので、軽量ハイパワーなことから米本土用迎撃機には最適と思われたのです。
その姿からそれ自体がまるでミサイルのようであり、「これ以上はもう人を乗せる時代じゃないだろう」という意味で“最後の有人戦闘機”とまで呼ばれます。

しかし! その小型軽量ぶりから拡張性に乏しく、当時の技術では米本土の半自動防空システム“SAGE”に組み込むための電子装備を持てなかったほか、スパローAAMのようなレーダー誘導式ミサイルも運用できませんでした。
これでは迎撃戦闘機としては致命的で、一応配備された量産型F-104Aは、ベトナム戦争でちょっとロケット弾なぞ使った対地攻撃に使われただけでオシマイとなります。

ただし、そこで気を取り直したアメリカ政府とロッキード社はF-104を輸出用戦闘機として売り込むことに成功し、主だった国だけでも西ドイツ(当時)では戦闘爆撃機F-104Gとして、日本では防空用バッジ・システムに組み込めたので本来の防空用F-104Jに。

そしてイタリア空軍にF-104Sを売り込む頃には技術の進歩で電子装備をコンパクト化できたので、スパローAAMも運用できる戦闘爆撃 / 迎撃機として売り込むことができました。
最終的にそれらが退役後、中古機が台湾にかき集められて長らく使われています。

本来の北米大陸防空用としては全く時代の波に乗れていませんでしたが、輸出用兵器として大いに役立ったのは救いでした。

「最初の無人戦闘機」ボーイングF-99ボマーク

BOMARC.jpg
By US Air Force – https://www.patrick.af.mil/45SW/PA/MEDIA/multimedia.htm (cropped and converted from TIFF), パブリック・ドメイン, Link

F-104が「最後の有人戦闘機」として次期迎撃機は無人戦闘機になるだろう、と言われていた頃、実際に「最初の無人戦闘機」と称して開発されていたのがボーイングF-99ボマークです。

発射用の液体燃料ロケットブースターと、飛行の大半を担うラムジェットエンジンの2段式で、垂直に打ち上げられた後はマッハ2.8で飛翔して米本土防空用SAGEシステムに誘導され、その射程距離実に400km。
目標に近づくと自身のレーダーで目標を捉え、アクティブレーダーホーミングモードに移って敵機の至近距離で核弾頭か大型通常弾頭を炸裂させる……って、それミサイルじゃないですか!と思うのは、たぶん誰しも同じでしょう。

結局「何が戦闘機だ、要は地対空ミサイルでしょ?」とF-99という型式は取り消されてCIM-10というミサイル用型式を改めて割り振り、米空軍とカナダ空軍で北米大陸防空ミサイルとして、いつか北極海を越えて現れるかもしれないソ連爆撃機に備えたのでした。

そういう意味では一応時代に沿っていたことになりますが、21世紀になってもまだ「無人戦闘機」なんて実用化されていませんから、時代の波に乗れなかったというより、最初から予算獲得のための看板倒れ、と考えるのが正解かも?

「蜂の巣砲」ミトラィユーズ

Reffye mitrailleuse Le General Hanicque.jpg
By PHGCOM, photographed at Musee de l’Armee – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, Link

多銃身で短時間に多くの弾丸を発射する」といえば、アメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック社)が商標を持つ“バルカン砲”か、あるいは同様の構造を持ち、機械力または人力で数本束ねた砲身を回転させながら順に発射していく“ガトリング砲”が代表的です。

通常のガス圧や電動で給弾する機関銃 / 機関砲などと違って発射速度が高速で銃身過熱による問題が置きにくいのなどの利点があって、発射プラットフォームを選ばず主に対空用として用いられます。
ただ、それとよく似た形をしていながら、特に銃身が回転するわけではなく、よりたくさん束ねられた銃身の脇に備えられたハンドルを回すと、立て続けに弾丸を発射する多銃身砲ミトラィユーズというものがありました。

正確に言うと、“ミトラィユーズ”とはフランス語でライフル弾を高効率で連続射撃行う兵器(ガトリング砲や機関銃も含まれる)の総称なのですが、狭義では19世紀に開発された最大50本もの銃身を束ねた多銃身砲を指します。
これは束ねた銃身を斉射(一度に撃つ)ではなく、順番に連続発射していき、撃ち尽くすと銃身と同数の弾がはめこまれた板を交換して、再び射撃するというもの。

実際にフランス陸軍が普仏戦争(1870~1871年)で使った13mm25連装、または30連装ミトラィユーズは、熟練した射手なら1分間に4~5回の射撃が可能だったと言われており、大砲と違って反動で砲身がズレることもないため、集中的に弾丸の雨を降らせることが可能でした。

ただし、問題は「あまりに重かったこと」で、敵が真正面からバカ正直に攻めてきた場合は有効なものの、機関銃のように「振り回して素早く向きを変える」ことが不可能だったことです。
これは人力ハンドル式のガトリング砲でも同じような問題が起きて、後に機力化されるまで廃れているのでミトラィユーズだけの問題ではありません。

しかし、あまりに期待外れですぐに廃れた、という意味ではミトラィユーズの活躍した期間はあまりに短く、得られた効果も非常に限定的でした。
それだけではなく、この種の自動火器への不信感を増幅させてしまい、オチキス機関銃など優れた火器を開発していながら、フランス軍などヨーロッパ各国の期間重装備を遅らせる原因にもなっています。

最終的に彼らが機関銃の威力の恐ろしさを知るのは、1914年に始まる第1次世界大戦を待たねばなりません(その10年前の日露戦争での教訓を、ヨーロッパ各国はあまり重視しなかった)。
なお、ミトラィユーズの情報は幕末期から明治初期にかけての日本にも伝わっており、その砲口形状から「蜂の巣砲」と呼ばれていたそうです。

「高価な王室ヨット」タイ海軍の空母、チャクリ・ナルエベト

Chakri Naruebet 2001.JPEG
By PH3 ALEX C. WITTE, USN – http://www.defenseimagery.mil/assetDetails.action?guid=007c5b2e32f38080020a5d9c708f1ddb765c0d05, パブリック・ドメイン, Link

1980年代後半から1990年代中盤にかけて、東南アジアや南米などの新興国で好景気を謳歌していた時代がありました。

その中で「この機会にいっちょ空母でも持つか!」と考えた国がいくつかあり、元から持っていた対潜空母ミーナ・ジェライスを攻撃空母化した上で、後継艦にフランスから中古空母を購入してサンパウロと命名、2017年まで現役にあったブラジルはその典型的な例。

ブラジルを含むBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)は中国を除いて景気大幅交代により軍事予算が大幅に削減されてしまいましたが、それでも一時は国威発揚に役立ちましたし、ロシアなど今でも自国を大国と位置づけて、少々無理をしながら軍拡しています。

しかし、ちょっと景気が良くなったので、V/STOL機(垂直 / 短距離離着陸機)を運用できる小型空母をスペインに発注し、同国から中古のV/STOL攻撃機マタドール(ハリアーのスペイン名)まで購入したものの、就役した頃には不景気に突入しちゃった!という例も。

それがタイ海軍の空母(同海軍での公式名称は「外洋哨戒ヘリコプター母艦」)“チャクリ・ナルエベト”で、スペインが初めて建造した軽空母「プリンシペ・デ・アストゥリアス」をさらにコンパクトにしたような艦は、マタドールとS-70B哨戒ヘリを各6機搭載可能と、小さいながらも多用途的に使えそうな空母でした。

しかし、就役した1997年にタイを中心とした急激な通貨価値下落を起こした「アジア通貨危機」が発生、タイ海軍は空母保有で喜ぶどころか、深刻な打撃を受けた国家経済のため運用予算を捻出するのにも一苦労。
後日装備のSAM(対空ミサイル)など防空システムも簡易的なものを2001年にようやく搭載できましたが、基本的にはほとんど活動できない状態になりました。

母艦がこのような状況では搭載機も使い道が無く、スペインから輸入された中古のマタドールはロクに飛ばないまま倉庫に補完されているうちに、いつしか飛行不能になっていたと言われます。

多用途艦として建造されたため艦内には車両甲板や陸戦部隊の居住区も設けられていますが、それとは別にタイ王族用の居住区もしつらえてあったため、実質的には「だいぶ高額な王室ヨット」のようになってしまいました。
それでもヘリコプターの海上発着プラットフォームとしては役に立つので、2004年のスマトラ沖地震など災害派遣の出動例がありますが、それくらいしか実績が無いのは少々寂しいところです。

やはり、貧乏国はよほど経済が安定するか、「ツケのきく」経済体質(まあ日本です)でも無い限り、空母など持つべきでは無いのかもしれません。

「アトミックキャノン」M65 280mmカノン砲

VWM240mmAtomicAnnie01.jpg
By en:User:Mytwocents – Taken by en:User:Mytwocents
Originally uploaded to en Wikipedia as en:Image:VWM240mmAtomicAnnie01.jpg by en:User:Mytwocents 15 March 2006, パブリック・ドメイン, Link

最後に紹介するのは、核兵器の主導権争いの末に作られたものの、配備された頃にはすっかり意義の無くなっていた原子砲、その代表格たる米陸軍のM65 280mmカノン砲“アトミックキャノン”です。

ご存知の通り、核兵器は第2次世界大戦末期にまずアメリカが開発に成功、米陸軍航空隊のB-29から投下された2発の原子爆弾による核攻撃で、広島と長崎に大打撃を与えました。
戦後もソ連を中心とした東側と、アメリカを中心とした西側による東西冷戦が始まり、いずれくるであろう決着の時のため、核兵器の開発はより推進されます。

しかし問題はその運搬、あるいは発射手段で、その当初、核兵器を使用した上で、その発射装置が核爆発までの間に安全圏に離脱可能な兵器は、米陸軍航空隊の爆撃機しかありませんでした。

何しろB-29でさえも初期の原爆だけでアップアップ、防御武装を最低限にして航続距離を稼ぐため燃料タンクを増設した特殊改造機を用いる必要があったくらいです。
それだけ巨大な核兵器を扱える爆撃機は限られ、米陸軍航空隊(1948年に米空軍として独立)は超重爆撃機コンベアB-36の配備や、さらに強力なジェット超重爆撃機B-52の開発に着手。

米海軍も戦艦用の核砲弾を開発する一方、空母からも核爆弾を搭載したP-2V哨戒爆撃機をロケット・ブースターで無理やり発進できるようにしたり、専用の双発艦上攻撃機を開発しています。

問題は陸軍で、航空隊は独立してしまうし、地上を走る何かで核兵器を運搬するわけにはいきません。
さりとて大口径火砲は第2次大戦中に開発した240mmカノン砲か、日本本土決戦用の914mm迫撃砲リトル・デービッドしか無い状態で、前者は射程23,100mを誇ったものの、それでも核砲弾の発射には不足とされ、後者に至っては射程8,987mで問題外。

そこで、より強力で核爆発の影響を受けない距離まで核砲弾を撃ち込める、M65 280mmカノン砲“アトミックキャノン”を開発、1953年に行われたただ1度の発射事件は成功し、20門製造されて韓国とヨーロッパから東側にニラミを効かせました。

しかし! その実験が行われた前年、米陸軍初の戦術核弾道ミサイル、MGM-5コーポラルの運用が始まっていたのです

何しろ初期のミサイルですから信頼性や命中率に疑問があったとはいえ、最大射程130kmのコーポラルの前では、同23.1kmのアトミックキャノンなど、敵の目前で発射するのと同じ。
発射場所への到着から発射まで9時間かかるコーポラルと比べ、15分で発射できるアトミックキャノンは即応性には優れていましたが、155mm榴弾砲でも核砲弾を発射できるほど核砲弾が小型化されると、「だからどうした」という話になります。

それでも作ってしまったものは仕方ないので1963年まで配備されていましたが、アトミックキャノンこそまさに「作ってみたらもう意味が無かった」という典型的な例でした。
唯一の救いは、発射後の視界内(地平線は約40km先なので、それよりはるかに手前)で盛大に原子雲が上がるので、「核兵器の脅威」を紹介する資料としてよく引き合いに出されるくらいでしょうか。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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