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2018/04/6

菅野 直人

3つの大戦争を戦った攻撃機、ダグラスA-26/B-26/またA-26インベーダー

輸送機や民間の旅客機、軽飛行機などではかなりの長寿を誇る飛行機があり、初飛行が50年以上前というものも珍しくはありません。しかし実際に重爆撃に使われる攻撃機の類となると、第2次世界大戦あたりまでに実用化されたプロペラ機で、ジェット化の波を乗り越えて長く使われたものはそう多く無いものです。ダグラス社製の攻撃機、A-26 / B-26インベーダーなどその数少ない例のひとつでしょう。

ダグラス製の双発重攻撃機

アメリカ陸軍航空軍のA-20G
By USAAF – Official U.S. Air Force photo 051118-F-1234P-041 from the USAF Museum website [1], パブリック・ドメイン, Link

第2次世界大戦前、アメリカの航空機メーカー、ダグラス社(合併を経て現在はボーイングの一部)は、A-20ハヴォックという優秀な高速双発重攻撃機を開発していました。
なぜか日本での知名度は低いものの、米陸軍航空隊のみならずイギリスやフランスなど数多くの国で使われた傑作機で、第2次世界大戦序盤から地中海やイギリス本土で、太平洋戦争が始まると東南アジア方面でも活躍しています。

ダグラスがその後継機として開発、1942年に初飛行したのがA-26インベーダーで、機種に透明な爆撃手席を設けた軽爆撃機型A-26Cもありましたが、主力は強力な前方火力を誇るA-26B
何しろ機首に6~8丁、主翼にも6丁の12.7mm機関銃を装備可能で、機首武装を20mm砲や75mm砲に換装可能なほか、必要ならC型の機首にも交換可能でしたから、味方にとってはまことに便利な、敵にとってはハタ迷惑な機体です。

しかし、軽爆撃機ノースアメリカンB-25やマーチンB-26より小型軽量ながら同クラスのエンジンでハイパワー、運動性も良いA-26は、第2次世界大戦中盤以降に登場したレシプロ軍用機がそうであったように、アップデート次第で長寿を誇れる素養を持っていました。

A-26なの?B-26なの?都合で変わるややこしい制式名

駐機中のA-26B
By AFHRAAFHRA, パブリック・ドメイン, Link

ちなみにA-26インベーダーでややこしいのは、その機体型式名で、米陸軍航空隊時代は「攻撃機を意味するA」でA-26でした。

それが1948年に米陸軍航空隊が米空軍として独立すると、攻撃機という種別が一時的に無くなったようで、A-24(海軍のドーントレス艦爆の陸軍航空隊版)のような単発攻撃機はF-24として戦闘機扱いへ、A-26のような双発重攻撃機はB-26として爆撃機扱いになります。

ここでまずややこしかったのが、米陸軍航空隊には既に“マーチンB-26マローダー”という立派な双発軽爆撃機がいたこと。
B-26マローダーは高速性能と引き換えに着陸速度が高すぎて事故多発、“未亡人製造機”とまで言われた初期型のイメージを払拭できず、空軍独立を機会に全機退役させられていたとはいえ、1948年を境に「全く別なB-26が存在する」事態となります。

おまけに、後にベトナム戦争へ投入された際には、タイ国内の基地から運用する際に「タイ国内には爆撃機を配備しない」という米タイ軍事協定があったため、再び攻撃機カテゴリーを復活してA-26と改称。
さらにはB-26Kを実戦投入前にA-26A(開発時のA-26にも試作機にXA-26Aが存在した)と改称したので、余計にややこしい話になったのでした。

政治的都合でこれほど型式がややこしい方向で変わったのは珍しい例で、予備知識が無いと下記のような事例が発生します。
朝鮮戦争の写真に写っているB-26はA-26の誤植なのそれともマーチンB-26が大改造されて朝鮮戦争に参戦したのでもベトナム戦争には朝鮮戦争のB-26がA-26として写ってるいし、もうワケがわかんない!」

ダグラス・インベーダーの型式は、A-26(第2次世界大戦)→B-26(朝鮮戦争)→A-26(ベトナム戦争)となりますが、米陸軍航空隊 / 米空軍所属機以外の輸出機をどう呼ぶべきかは、考えたくもありません。

第2次世界大戦でデビュー

Douglas A-26 Invader.JPG
Public Domain, Link

さて、A-26B / Cとしてデビューしたインベーダーですが、まずは太平洋戦線のニューギニアで試験的に実戦投入されました。

ここではA-20やイギリス製のボーファイターといった双発重攻撃機が活躍していましたが、おそらく密林の戦場で地上目標の搜索が大変なのか、A-26インベーダーは「左右のエンジンが邪魔で視界が悪い」と酷評されます。
それでも末期には沖縄から出撃して日本本土攻撃も行ったとされていますが、この方面での評価はあまり良くなかったようです。

続いてヨーロッパ戦線でも実戦テストを受けますが、こちらは強力な火力と低空での高速性能、運動性能が評価されて、太平洋戦線とはうってかわって大好評でした。
これは密林と異なるヨーロッパの地形や、迎撃戦闘機や対空戦闘機の密度が太平洋戦線とは段違いだったからかもしれません。
結果、A-26インベーダーは主にヨーロッパ戦争向けとして終戦まで飛び続け、連合軍の勝利に貢献しました。

朝鮮戦争では阻止攻撃に大活躍

B-26B-55-MA
By Photo by: Charles E. Brown. オリジナルのアップロード者は英語版ウィキペディアBzukさん, 2007-02-14 (original upload date) – USAAF; Originally from en.wikipedia; description page is/was here, source [1]., パブリック・ドメイン, Link

第2次世界大戦後、空軍独立とともにB-26と改称されたインベーダーは、退役した旧B-26マローダーに取って代わる軽爆撃機として配備され続ける一方、フランス空軍などでも運用されました。

そのB-26インベーダーが脚光を浴びたのが1950年に始まる朝鮮戦争で、米本土の予備部隊までかき集められたB-26B / C型は、F-51ムスタングなどとともに地上への銃撃やロケット弾によるCAS(近接航空支援)に従事し、韓国の崩壊を食い止めます。

北朝鮮軍の攻撃をしのいだ国連軍が反撃に転ずると、敵地奥深くまで強行侵入し、補給拠点や鉄道など重要施設を精密爆撃する任務が増えていきますが、中国が参戦すると昼間行動が難しくなったため、黒色塗装機での夜間任務が大半になりました。

この時期はまだジェット戦闘機が過渡期の時代で、空戦で勝てるほどではないものの、プロペラ機でも高速で低空での運動性のよいB-26のような機体がまだまだ主力だったのです。
特に燃費の悪い初期のジェット戦闘機と違って航続距離や滞空時間も長かったので、それらが必要な任務にはうってつけでした。

リニューアル!ベトナム戦争でもホーチミンルートを攻撃

B-26K 609th SOS in flight.jpg
By USAF – National Museum of the U.S. Air Force photo 110330-F-XN622-004, パブリック・ドメイン, Link

朝鮮戦争後も世界各国の植民地独立戦争で、またキューバ革命後のピッグス湾侵攻作戦のような秘密の戦争支援では、安価で効果的な攻撃機としてB-26は大いに役立ちました

もちろん、ベトナムにもベトナム戦争が始まる以前から持ち込まれていましたが、困ったことに軍事協定でタイには“爆撃機”B-26を配備できなかったので、“攻撃機”A-26へ改称。
ただ、さすがに1960年代も後半となると老朽化が問題になってきたので、再設計した主翼に新型エンジンを搭載、機種も整形してスマートになって、各種センサーを搭載した改造版、B-26K改めA-26Aを投入します。

これらは優れたセンサーを、エンジンを切って滑空すれば無音で目標上空に潜入できるメリットを活かし、隣国からベトナムへの補給線“ホーチミンルート”を夜間攻撃する任務に投入されました。
ベトナム戦争ではプロペラ単発攻撃機のA-1スカイレーダーが米空軍 / 米海軍のCAS任務で活躍しましたが、核戦争に備えた高性能ジェット機の運用コストが高い割にそれに見合った効果が得られないのと比較し、費用対効果の高さで重宝されたのです。

米空軍での運用終了は一説には1969年とも言われますが、何しろ秘密任務のようなものでしたから、実際は判然としません。
公式な記録としては、インドネシア空軍が東チモール侵攻に使っていた機体が1977年に退役したのが最後のようで、レシプロ時代に開発された攻撃用航空機としては、もっとも遅くまで現役にあった例と思われます。

旅客機ではユンカースJu-52/m3やダグラスDC-3のような戦前生まれのプロペラ機、ジェット機でもB-52爆撃機やF-4ファントムII戦闘機のように初飛行から60年以上たっても現役の傑作機もありますが、プロペラ機全盛期に初飛行し、30年以上使われた攻撃機/爆撃機となると、ダグラスA-26/B-26インベーダーくらいでしょう。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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