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2018/03/30

菅野 直人

動き出した米朝韓、そして日本は?何もかも変わりそうで、変わらなそうな北朝鮮情勢

平昌オリンピック直後、まだパラリンピックも終わらないうちから大きく動き出した北朝鮮情勢ですが、それを「従来に無い大きな変化」と捉えるか、「新たな時間稼ぎが始まっただけで、結局は何も変わらない」と見るかは人それぞれです。結局これからどうなっていくのか、何が何にどうリンクしていくのか、簡単な分析を試みます。

予想通り奔走した韓国と、動き出す「米朝韓」


かねてから、このシリーズの記事では「平昌オリンピック(2018年2月9日~25日)と同パラリンピック(同3月9日~18日)の間に、外交的に大きな動きがあるだろう」と書いてきましたが、予見通りのことが起きました。

それが3月5日に平壌に派遣された韓国からの特使と、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長との会談であり、そこから一挙に南北首脳会談、さらに2018年5月にアメリカのトランプ大統領まで乗り出す米朝首脳会談がパタパタと決まっていきます。

2017年中には弾道ミサイルの発射実験をくり返し、核戦力の完成と、いつでも米国を攻撃できる体制が整ったと恫喝的表現を連発しては、その度に国際的な経済制裁を強化され続けてきた「北朝鮮の変節には誰もが驚いた」かもしれません。

ただし、活発に動いているのはあくまで北朝鮮、韓国、アメリカの3ヵ国、それに加えて会談を仲介するであろうスウェーデンやフィンランドなどの第三国のみです。
それまで北朝鮮の後ろ盾とされてきた中国やロシア、そして拉致問題で独特の立ち位置にある日本は蚊帳の外にあり、このままでは何ら問題解決にならないどころか、新たな火種を産みかねません。

北朝鮮は、そして関係各国は何を望もうとしているのでしょうか。

国土が戦場になるのを避けたい韓国が飛びついた「融和」

一見すると「五輪外交の成功」、もし何もかもがうまくいった場合はそう表現されるであろう、韓国による北朝鮮への特使派遣とその「成果」は、それほどインパクトのあるものでした。

そもそも北朝鮮は2018年に入り、平昌五輪が目前に迫ったところで弾道ミサイルの発射実験を中断、核開発も事実上開店休業の状態として、五輪開催に合わせた(結果的には開催されなかった)南北合同行事、そして五輪の南北合同チーム化などに尽力しています。
その極めつけが、金委員長の実妹を含む特使団の五輪への派遣でした。

祖国統一は夢見るけれども、そのために戦争して「自国が火の海」になるなど絶対避けたい韓国としてはまさに「渡りに船」な話ばかりで、文字通りそれに飛びつくようにして「五輪をキッカケとした南北融和ムード」の醸成にこれ努めます。

統一半島旗へ竹島が記載されないことに北朝鮮選手団が反発、五輪閉会式での行進が南北別になる「竹島記載問題」を見ればわかる通り、この南北融和はあくまで北朝鮮が主導権を握っており、その「演出」によって韓国が踊らされているに過ぎません。

悪化する一方の北朝鮮情勢の中で自国が戦場、それも国家の存続に関わる大激戦が予想される中で焦燥感を強める一方、誰にすがればそれを回避できるのかと右往左往していた韓国は、当面の危機を回避するために喜んで踊らされているフシすら感じられます。

結局、韓国が求めていたのは自主性やリーダーシップではなく「手を取り導いてくれる誰か」だったのでしょう。
それだけに、「北朝鮮が差し伸べた手を放してしまう」ことを極度に恐れているはずで、そのためであれば、「北朝鮮のために」多少どころではない譲歩を各方面で行うことも容易に予想できます。

「遠慮無しの周辺外交」に利用したい米国

一方、以前から批判とは別に「もしかしたら金委員長とは友達になれるかもしれない」と優羽を匂わせ、南北外交の活発化に「様子を見てみよう」と好意的な感触を伝えていた、米国のトランプ大統領。
南北特使のやり取りの果て、金委員長からの米朝首脳会談の呼びかけに「アッサリ」と言って良い態度で応じ、2018年5月中にも首脳会談が開かれる見通しとなっています。

その上で対北朝鮮政策穏健派の政府高官のクビを次々に飛ばし、強硬派へとすげ替えるという「アメとムチ」を使い分けているのがトランプ流と言えますが、韓国に対しては握れた北朝鮮の主導権を、対米政策でも握られまいと人事面から動いている状況です。

さらに経済制裁は手抜きをせず、状況の変化が固定されるまでは北朝鮮の要求を飲まない、むしろ要求などさせまいという態度は明確で、北朝鮮もこれには今までのように挑発ばかり繰り返してはいられません。
トランプ大統領としては、単なる首脳会談というより「北朝鮮が降伏交渉のテーブルにつきそうだ」という感覚なのでは無いでしょうか。

そこで参考になっているのは、おそらく「国体さえ維持されるならば降伏もやむなし」と戦争を止めた、かつての日本の姿かもしれません。
現在の国家体制の維持が保証されるなら、弾道ミサイルも核実験もこれ以上はやめる」と言っている北朝鮮のセリフは、そのままポツダム宣言を受け入れた日本にダブります。

そこで余裕が出たと見たのか、トランプ大統領は中国や日本に対して貿易政策で打撃を与えようと経済戦争に討って出てきています。

日本などはトランプ政権の高官交代で関係構築のやり直しを迫られ右往左往していますが、元から緊張した関係にある中国など「米国がその気なら最後まで付き合う」と、真正面から激突する姿勢を示し、今や日本などその間で漂う木の葉のようです。

対北朝鮮政策で足並みを揃える必要性が薄れたことで、トランプ政権は今までに無く強気に、そして2018年11月の中間選挙で有利な材料を揃えようとしています。
あるいはその「材料」が欲しいトランプ政権に対し、やはり北朝鮮が主導権を握っていると言えるのかもしれません。

「体制維持」とは北朝鮮に何をどこまで許すのか?

激しい経済制裁の果てに困窮を極めているとも言われ、「瀬取り」と言われる公海上の船舶間でのやり取りという「密貿易」で維持されているように見える北朝鮮が見せた融和政策は、見方によっては「無条件降伏」かもしれません。

体制が維持されるならば」という唯一の条件のみでそれ以外は何も要求せず、米韓軍事演習にすら理解を示す姿からは、ついにアメリカに屈したかと考える人もいるでしょう。
ただし、かつて日本が第2次世界大戦で「国体(天皇制)が維持されるならば」とポツダム宣言を受け入れたのと比べれば、北朝鮮の出した条件にはかなりの幅があります。

裏を返せば「体制を維持するためならば何をしてもいい」と北朝鮮が考えているかもしれず、そうなると弾道ミサイルにせよ核弾頭にせよ「自主的な停止」以外の全てを受け入れるかどうかが問題です。
つまり、国際的な機関による各施設や弾道ミサイルの査察や管理を要求された場合、「体制に対する内政干渉」だとして、骨抜きにされることを拒否する可能性も非常に高いと言えます。

自分たちが主導権を握って状況を完成する能力の保持、つまり体制の危機が訪れればいつでも弾道ミサイルや核開発を再開できるし、それを妨げるような海外からの介入や報道は全て拒否するのではないでしょうか。

もちろんアメリカがそれを許すわけも無い、と言いたいところですが、前項で書いたように、11月の中間選挙の前の成果こそ大事なトランプ政権にとって、北朝鮮に強硬な態度ばかりとって態度を硬化させるのは得策ではありません。
結果、「何となく平和になりそうなイメージ」あるいは「せめて米国が譲歩するような結果を急がない」という形で、ズルズルと協議ばかり進む可能性が高くなります。

その間、北朝鮮は既にある程度メドのついた技術開発は小休止して力を蓄えたり、これが無いと兵器として有効とは言えない「弾道ミサイルの大気圏再突入技術」の開発に取り組む時間も作れるので、「何の成果も出ない」時間が長いほど北朝鮮に有利です。

おまけに、韓国と米国の態度を軟化させている間に日本には何のアメも与えないことで、「米韓と日本の温度差」すら生み出し、さらに中国も局外で「勝手に米国と関係悪化してくれていて、ありがたい」状況を生んでいます。
もしかすると、北朝鮮はまたしても「高度な綱渡り外交」に成功しているのかもしれません。

そして日本はどうすればいいのか

そうした各国の中でもっとも困ったことになっているのが日本で、韓国は微妙な敵対的関係を続けて、少なくとも同盟国とは言い難い状況ですし、米国とも一方的に貿易不均衡だと攻撃され、株式市場は一喜一憂のくり返し。

おまけに中国の軍事力が急速に強化されているおかげで米国と敵対的関係になるわけにもいきませんし、東南アジア各国が経済的に中国の影響下に入る中、日本寄りと言えるのは人権問題で国際的に不評なフィリピン、国際的に認める国の少ない台湾くらいです。

そんな中で外交的に強気になろうにも手駒は無く、南北、米朝首脳会談が行われるなら日本も参加して拉致問題の解決をと願っても、北朝鮮から「ウチに不利な条件要求するなら首脳会談など絶対しない」と突き放される始末。

もはや経済大国と言えない現在の日本、それも経済制裁のためかえって影響力の低下している日本は北朝鮮にとっても、他のどの国にとっても利用価値が無く、何もさせてもらえない状況が続く上に、国内政策も混乱中で外交どころではありません。

もはや拉致被害者の家族でさえ日本政府に大した期待もしていない状況に見えるほどで、北朝鮮に関しては場当たり的にならざるをえない状況です。
敵地攻撃能力や憲法9条改正など長期的な政策はともかくとして、短期的には「偶発的状況に対応できるよう、米国以外の国連各国と連携した邦人救出のための有志連合の編成」を水面下で行うくらいしか、今できることはありません。

これは金委員長の「最後の賭け」ではない?

最後に、今回決まった、ただし実現するかどうかはまだ不透明の南北首脳会談と米朝首脳会談について、「これは北朝鮮の金委員長にとって最後の賭けであり、ここでしくじればいよいよ次は戦争だ」という論調が存在することについて。

今回の記事で書いたように、現状はあくまで米朝の主導権争いであり、韓国に至っては主導権や周辺国との関係はさておき、とにかく自国を戦場にしたくない、そのためなら現状を受け入れるという姿勢になっています。
もちろん日本が勝手に戦争を始められるわけもなく、中国は漁夫の利を得られるなら何でも良く、米朝はこの先どうなるにせよどちらが主導権を握るかという鍔迫り合いの真っ最中。

おそらく、米朝両国が「自国が主導権を握った」と宣伝することになるでしょうが、双方にとって望ましいのは「緩やかな敵対関係の継続」、つまり当面の戦争回避とお茶を濁す程度の北朝鮮に対する査察、その代償として経済制裁の緩和といったところでしょう。

仮に北朝鮮が弾道ミサイルや核開発施設への全面的査察など認めて、「実際、北朝鮮は米国への脅威ではなかった」などという結果が出ては、北朝鮮だけでなく米国の方でも、「いつか討たざるを得ない敵」として強硬な姿勢をとりにくくなります。

つまり、ある程度時間を巻き戻すだけで何も変わらないのがお望み、ということになるので、人によっては「今のこの時間はいったい何なのだ?」と思うかもしれません。
そういう意味では、今後行われる南北首脳会談、米朝首脳会談は単なる通過点であり、特別何が変わるということは無いでしょう。

ひとつ難点があるとすれば、5月の米朝首脳会談と11月の米中間選挙の間にある半年という時間が若干長すぎることで、4月下旬までの間に北朝鮮が挑発的言動などで一時的に態度を硬化させるなど、何らかの形で首脳会談の日程を2~3ヶ月ずらす可能性もあります。
その間にさまざまな報道や憶測でがなされると思いますし、弾道ミサイルの1発も飛ぶかもしれませんが、皆さんはそのたびに一喜一憂して振り回されないことが肝心です。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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