- コラム
日本海軍航空隊・対艦攻撃のプロBEST5
2017/07/22
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2018/03/26
菅野 直人
何かとお騒がせなアメリカのトランプ大統領が2月2日に声明を発表、戦術核兵器と呼ばれる小型核兵器を近代化し、将来的に柔軟な使用に対応していく、と宣言しました。そこで「小型でも何でも核兵器は核兵器、大反対!」と叫ぶのは世界で唯一核攻撃を受けた日本人として当たり前ですが、その前にひとまず「戦術核と戦略核って何が違うのか」について、説明させてください。
By Shealah Craighead – https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2017/10/31/white-house-releases-official-portraits-president-donald-j-trump-and, パブリック・ドメイン, Link
2018年2月2日、アメリカのトランプ大統領は、近代化の遅れている小型の戦術核兵器を新世代のものに更新し、いわば「使いやすくする」ことを表明しました。
これまでアメリカが力を入れてきたのは、人類の存亡に関わるような世界大戦レベルでしか使えない大型・大威力の戦略核兵器ばかりで、地域紛争では大きな犠牲をはらいながら通常兵器を使い、結果的になかなか効果を得られません。
そこで、「威力ははるかに小さいものの通常兵器より大威力で、いざとなれば小さな紛争にでも使用可能な戦術核兵器の新型を開発することで、紛争への抑止力とする」というものです。
それに驚いたのがロシアのプーチン大統領で、長年アメリカと手を取り合ってきた核軍縮はどうなるんだ、と言わんばかりに対抗する核兵器構想を打ち出してきました。
すなわち、核弾頭を搭載した小型の無人潜水艦、あるいは大型長射程核魚雷とでも呼べる水中兵器を配備して、いざ戦争となれば相手国の港湾や海沿いの施設を片端から吹き飛ばしてやる、というもの。
トランプ大統領としては、北朝鮮のような小さな国に対しても限定的な威力で決定的な効果を発揮する核攻撃を可能にすることで、アメリカに対する攻撃を抑止したい考えなのでしょうが、結果的には“新冷戦”のもとで核戦争の危険を増すような、ヤブヘビになってしまいました。
例によってトランプ大統領お得意の気まぐれ発言かもしれませんが、それでアメリカ経済が動き、世界中に影響が波及するのですから全く困ったものです。
パブリック・ドメイン, Link
さて、そこで疑問に思うのが、「戦術核兵器だの戦略核兵器だのと言っても、核兵器には違いないだろう! そもそも戦術核兵器って何だ!?」ということです。
一応、かつて米ソで、そして現在も米露間で続いている核軍縮協定での定義によれば、「射程距離500km以下」というだけで、弾頭威力などは特に定義されていないため、極端な話をいえば、都市1つを丸々吹き飛ばすのみならず、地形を変えるほどの威力を持っても、その射程が小さければ戦術核、となります。
核兵器の現実的な運用は弾道ミサイルや巡航ミサイルによって行われるので、その射程さえ制限してしまえば必然的に小型のミサイルにしかならず、となれば弾頭運搬能力も限られて、威力も制限される、という理屈です。
第2次世界大戦中に広島や長崎に対して行われたような、戦略爆撃機で核爆弾を投下する方法は、強力な防空網さえあれば目標上空へ到達できる可能性はかなり低いため、今ではほぼ否定されています。
かつては歩兵数人で運用できる程度に小型化された小型核弾頭つきロケット砲「デイビー・クロケット」や、爆撃機を迎撃する空対空・地対空核ミサイル、潜水艦を確実に撃沈する各魚雷や核爆雷もありましたが、結果的にどれも使われること無く、ほとんど消えて行きました。
戦術核兵器による攻撃でも相手が戦略核兵器で破滅的な報復攻撃を行わないという保証も無ければ、防衛用の核兵器による、放射能や電磁波による自国への被害もバカになりません。
トランプ大統領の声明に対して、プーチン大統領が迅速に報復的な声明を出したことでも、「戦術核兵器と言っても、その存在の与える影響は大きい」ことがわかるでしょう。
過去にも台湾と中国による国共内戦や、ベトナム戦争、それ以前のフランス対北ベトナムのインドシナ戦争でも戦術核兵器の使用は考慮されましたが、バックについたソ連が何をやるかわかりませんから、一度も使えていません。
逆に戦略核兵器とは何かといえば、その射程や威力がゆえに、命令ひとつで敵国そのものに致命的な打撃を一撃で与えうる、それが戦術核兵器との大きな違いです。
大量のICBM(大陸間弾道弾)やSLBM(潜水艦用弾道弾)の発射権限を持つアメリカとロシアの大統領は、仮にその気になれば戦略核兵器の打ち合いで世界を滅ぼす能力を持っています。
その一方で、それらが飛んでくる国では、アメリカやロシアでさえもその全てを叩き落とす能力は持ち合わせておらず、「仮にそのまま戦争が続いても有利になるように」報復核攻撃を行うくらいしかすることがありません。
その両国以外では、効果的な迎撃方法など皆無に等しいので、ただ破滅を待つのみです。
では「戦略核兵器と違って、戦術核兵器なら国が滅ぶほどじゃない」と気楽に構えていいのでしょうか?
それが自分に飛んでくれば、国は持ちこたえてもオシマイですし、核攻撃は受けなかったけど放射能が流れてきました、という事態すらありえます。
そのあたり、トランプ大統領の声明は、戦術核兵器に対して「戦略核兵器ほど大被害にならないんだから、相手や周辺国もそれほど怒らないだろう」という、あまりにも楽観的にすぎるとしか考えられません。
あまりに馬鹿げた話なので、その発言したこと自体に意味があり、実際に戦術核兵器を強化したいわけではない、と思いたいところです。
冷戦時代、ヨーロッパにソ連を中心としたワルシャワ条約機構軍が攻め込んできた場合に考えられていた戦争計画の中には、戦術核兵器を多用しまくるトンデモ無いプランがありました。
かつてナチスドイツをT-34戦車など大量の戦車部隊とそれを支援する膨大な火砲による物量攻撃「スチームローラー」で、文字通り押しつぶしてしまったソ連。
冷戦後に東ドイツやポーランドその他、ワルシャワ条約機構に属する東側諸国との連合軍で、同じようにヨーロッパ大陸の西側諸国を瞬く間に壊滅させてしまうと考えられていました。
もちろん西側諸国、すなわちNATO(北大西洋条約機構)軍も軍隊はありますし、戦車部隊に阻止攻撃を行う航空部隊も多数あります。
しかし、東側の物量戦術には多少ダメージを与えても焼け石に水として、「より効果的で確実な方法」が考えれれていたのです。
すなわち、最前線となる西ドイツ(当時)の各所に核地雷を埋めておき、侵攻してくるワルシャワ条約機構軍やソ連軍を、師団や軍団単位で吹き飛ばしてしまえ、というプラン。
後続部隊に対しても同様の打撃を加えるため核地雷防衛線は幾重にも張り巡らされ、何とかNATO軍でも対抗できる戦力まですり減らして膠着状態に持ち込み、その間にアメリカ本土から救援部隊が到着するのを待つわけです。
つまり、西ドイツ中がボロボロになって放射能汚染されても、それより西への侵攻は何としても止めるというもので、核地雷だけでなく、F-104、F-105といった戦闘爆撃機も戦術核爆弾を搭載して出撃することになります。
さすがにそこまでいくと正気の沙汰では無く、そこまでやったら米ソも戦略核兵器の撃ち合いになって増援など来ないのではないかという、冷静かつもっともな意見が出ましたが、一時は核地雷を埋めておく場所が真剣に準備されていました。
結果的に、仮に戦争となっても西ドイツそのものが消し飛ぶような戦術は放棄されましたが、昔の人は実に恐ろしいことを考えたものだと思います。
このように、戦術核と戦略核には、使い方や使う時の想定という面で大きな違いがありますが、結局のところどちらも核兵器である点には違いがありません。
また、韓国と北朝鮮、あるいはインドとパキスタンのように隣り合っている国同士の場合は、定義として「戦術核」であっても、使われたら国家の存亡に関わるという意味で「戦略核」そのものである、というケースもあります。
日本にとってみれば、日本をも射程に収めた北朝鮮の弾道ミサイルはまさに「戦略核」そのものですし、それに対して韓国が核武装でもしようものなら、いつか本格的に韓国が仮想敵になった場合に大問題です。
そのような環境にある日本の立場を考えると、もしトランプ大統領が「戦術核で北朝鮮の各施設を吹き飛ばすくらいなら、アメリカに報復攻撃は来ないだろう」などと考えていたとしたら大変です。
確かにアメリカに核弾頭つきICBMを撃ったりはしないかもしれませんが、代わりにアメリカに同調する同盟国の日本を見せしめに核攻撃してやろう、と思われても迷惑な話でしょう。
おまけに北朝鮮で戦術核兵器を炸裂させたら、偏西風に乗って放射能が流れてくる先でもっとも近いのは日本(東北や北海道)です。
そうした影響まで考えると、「頭につくのが戦術でも戦略でも核兵器には違いないので、安易に強化したり、ためらわず使用できると考えるのはやめてほしい」と、声を大にして言わねばならないでしょう。
核兵器の存在を許すにしても、今まで大威力の戦略核兵器のみを核抑止力としてきた理由は何か、もう一度考え直すべきで、「使える核兵器」など、存在してはいけません。
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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