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2018/03/12

菅野 直人

軍事学入門「なぜ武器は輸出されるのか?日本が武器輸出大国になることはあるのか?」

今回の軍事学入門、軍事や戦争には欠かせない(と思われている)「武器」について。武器は小銃(ライフル)など小火器程度のものであれば、簡単な工作機械しか無いような環境でも作れます。しかし大砲やミサイル、戦車に戦闘機に軍艦に……となると、そう簡単には作れません。従って国際的な輸出入「武器取引」が行われるわけですが、そんなものが無ければ戦争も無い平和な世の中に……なるのでしょうか?

国際的商品である「武器」


世界中にはいろいろな国があり、いろいろな製品を輸出して稼いだお金で食料などを輸入して経済は成り立ち、各国の国民は生きています。

その製品は国によって得意なものはさまざま、農産物であったり工業製品であったり……日本であればかつては繊維製品、今ならだいぶ減ったとはいえ自動車でしょうか。
中にはもちろん兵器産業が盛んな国もあり、そうした国は主要産業のひとつに兵器が上がることが多いのです。

いわば果物や野菜、自動車と兵器は、こと「国際的商品」という観点で見れば同列であり、食料に困っている国の場合は、食料はあるけど兵器の生産力に乏しい国から肉や野菜と引き換えに、戦闘機や戦車を引き渡すことさえあります。

実戦に使われて人を殺さない限りにおいては、兵器は単なる工業製品のひとつに過ぎないのです。
問題は、それを「作られた目的通りに、効果的な活用」をされてしまうことなのですが。

安くするならたくさん作る、たくさん作るなら輸出する


兵器を作る国の中には日本も含まれるのですが、日本は第2次世界大戦後長らく、拳銃や猟銃、ライフルなどを除き、「純粋にそれ単体で兵器として完結する工業製品」をほとんど輸出しない、数少ない国でした。
そんな日本という国は人類が作る兵器の歴史においてかなり異状で、生産される兵器のほとんどは自国の公的な武装組織(自衛隊、海上保安庁、警察など)か、狩猟や競技でしか用いられません。

中には三八式歩兵銃や九九式短小銃など、ビンテージライフルとして好評な戦前の兵器や、狩猟用のライフル、散弾銃など、戦後も作られてプラザ合意(1985年)以降の円高ドル安が定着するまで積極的に輸出され好評だった「日本製兵器」もあります。

しかしその多くは「内需」だったわけで、その上で防衛力を国家予算の規模からすれば安く、安く抑えていた日本という国は、非常に特殊でした。

なぜなら、兵器も工業製品である以上、大量に効率よく作る体制が無ければ高価になります。
これは何かの「生産」に携わった人であれば、常識以前の問題でしょう。

そして高価になった兵器は、防衛費の安い国ではあまり数多く購入できず、購入数が少ないのでさらに高くなり、高いのでさらに購入数は減り……と、「負のスパイラル」が止まりません。
戦車や装甲車など、アメリカ製を買うよりひどく高く、高いがゆえに最新装備への更新も進まず、高性能最新鋭の装甲戦闘車や対空自走砲など、年間生産台数1~2両などとバカらしい事態になります。

それでも日本が兵器を自力生産しないのは、「兵器開発・生産能力を維持しないと、いざどこからも供給されなくなった非常事態に困るから」という防衛産業保護という観点があるからですが、普通はありえない話です。

では普通はどうかと言えば、自国向けだけでなく世界中のあらゆる国からまとまった注文のくるような兵器を開発し、それをたくさん売り、量産効果で安くなった装備で自らも武装します(ただし、自国向けはちょっとばかり高性能なことが多い)。

輸出のうまくいかない兵器など自国向けにも採用せず開発中止にしてしまうほどで、兵器産業の育成などは輸出用兵器の開発でまかなう場合も多いほどです。
つまり、兵器が輸出される最大の理由は、よほど特殊なものでない限り、経済的制約による必然ということになります。

銃やミサイルばかりと限らない、日本の輸出兵器

では日本では全く兵器を輸出していないのか…と言えば、先の項で書いた通り、「それ単体で成り立つ兵器」は、拳銃や猟銃などを除き、輸出していないと思って構いません。
ただし、その枠から少しハミ出るものに関して「軍用」で使われるものは多いのです。

何も弾丸や大砲の弾、ミサイルが発射されたり、爆発したり、刃物で傷つけるばかりが兵器ではありません。
その最たるのものが自動車で、トヨタのランドクルーザーやハイエースは世界中の公式、非公式な軍隊の装備として機関銃などを据えられて活躍することから「トヨタ戦争」などという言葉があるくらいです。

また、インド軍ではスズキのジムニー(軽自動車ではなく小型車版)を正式に軍用車両として採用していますし、シリアの内戦では日本製の中古ダンプカーの荷台にロケット弾を搭載し、発射角度を自在に設定できる自走ロケットランチャーとして利用しています。

民間向け旅客機のYS-11やビジネス機の三菱MU-2が軍用輸送機や連絡機として用いられることもありますし、そうした「人や物を運ぶ機械」は容易に兵器へと転用できますし、転売されていけばそれがどこで何に使われても、メーカーには止められません。

もちろん、あまりにも高度な輸出機械やコンピューター部品を、冷戦時代に共産圏に輸出しない規制などは存在しましたが、規制が無い製品でも転用可能なものはいくらでもあるというわけです。
もっとも、その事実をもってして、それら製品を輸出しているメーカーや商社を批判することはできません。

必要とあらば、人間とは石を投げ、拳をふるってでも戦争をする生き物だからです。
むしろ、戦争で人の命を奪うより、救う方が多ければ仕方ない、と思うしか無いでしょう。

自国防衛に役立つこともある武器輸出

また、兵器輸出は自国防衛に役立つためという理由で行われることもあります。
最近の日本でも実例があり、(厳密には兵器ではありませんが)海上保安庁から退役した巡視船をマレーシアに輸出したり、海上自衛隊のTC-90練習機をフィリピンに輸出するケースなどが出てきました。

これらは中古品の放出であり、直接的な軍事利用につながるレーダーや武装、高度な電子装備などは撤去して引き渡されてはいるものの、その後に再武装や再整備を受け、南シナ海で哨戒任務につく以上は、立派な兵器の輸出です。

その大きな理由としては、南シナ海で勢力を広げ、日本の生命線であるシーレーン(海上交易路)にとって脅威となる中国への警戒感がありますが、そこで日本が自衛隊を派遣して直接的行動に出るのは、政治的にも軍事的にも問題があります。
それよりは、シーレーン上に存在する国を支援して同盟国とし、それらの国の防衛に役立つ兵器を輸出することで、日本を間接的に防衛するというやり方です。

これは特に目新しい方法というわけではなく、日本が冷戦時代に再武装し、自衛隊で使う最新鋭兵器をアメリカがバンバン売ってくれたのも、貿易赤字解消だけでなく旧ソ連や中国に対し、日本を防波堤として扱っていたからでした。
その関係は現在も続いており、北朝鮮の弾道ミサイルからアメリカを防衛する最前線として、そしてもちろん日本自身を防衛するためでもありますが、アメリカから各種兵器を購入しています。

将来、日本製武器が多数輸出されることはありえるか?

前項のように、中古品ながらわりと大物の「兵器輸出」を始めた日本ですが、今後も中古、あるいは最新の日本製兵器が多数輸出されることはありえるでしょうか?
その答えは、YesともNoとも言えます。

まず売り込みそのものは、オーストラリア海軍への潜水艦、インド海軍へのUS-2飛行艇などの売り込み実績があり、イギリスで開催された軍用機の売り込みも兼ねた航空ショーには、海上自衛隊のP-1哨戒機も派遣されました。

ただし、そこで問題になるのが「戦後数十年間、マトモに兵器輸出をしてこなかった」という事実で、当然過去に戦争に使われたこともありませんから、要するに日本製兵器は実力未知数マイナーなキワモノ扱いなのです。

おまけに、いわゆる「アフターケア」的な部分も未知数なので、兵器に問題が生じた時、すぐにメーカーが対応してくれるのかもわからないのでは、とても国防に役立つものとは言えません。

それゆえオーストラリア海軍への潜水艦の売り込みはフランスに負けましたし、インド海軍はUS-2を完成機の輸入ではなく、インド国内でライセンス生産させろと言ってきます。

これまでマレーシアやフィリピンへ売り込みが成功したのも、地理的に日本が一番近くて技術的にも優れた友好国だからであって、戦前に日本製の軍艦や飛行機を輸入していたユーザーがタイや中華民国くらいだったのと、状況的には全く変わらないのです。
地理や気候的な条件がもっとも日本に近いのは韓国ですが、歴史的経緯から日本製兵器などそうそう使いたがらないでしょう。

つまり、「日本としては兵器の輸出をする気はあるが、ユーザーになりそうなのは東南アジア各国、それにせいぜいオーストラリアかインドくらい」となります。
日本が兵器輸出を始めた、やれ軍国主義だと騒ごうにも肝心の商談が決まりそうに無いので、少なくとも日本製兵器が世界中で戦争に使われる未来は、当面無さそうです。

その理由が「製品の優秀性が認められず、商売もヘタだから。」というのは、ちょっと情けないところではありますが……。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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