- コラム
北朝鮮最新情勢・全ては北朝鮮の計算済み?!平昌五輪で得られる一時休戦と、そこからの利益
2018/02/15
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2018/03/9
菅野 直人
どうやら平昌(ピョンチャン)冬季五輪は無事に終わり、続くパラリンピック終了までは何も無さそうですが、皆さんオリンピック盛り上がりましたでしょうか? 筆者はほとんど興味が無いので中継も見ず、裏番組もつまらないのでTVを見る機会がめっきり減ってしまい本ばかり読んでいますが、それでも「つまらない日常」こそが貴重なのかもしれません。空母3隻、強襲揚陸艦3隻からなるアメリカ海軍水陸両用戦艦隊が朝鮮半島に向かうとなれば、なおさらです。
2018年2月の平昌(ピョンチャン)冬季オリンピックは、無事に閉会式を迎えました。
続けて3月9日から18日までパラリンピックが開催されるため、その開始までは若干波風もあると思いますが、終了までは基本的に何事も起きないでしょう。
2017年は景気よく弾道ミサイルの発射実験を何度も行い、年末には衛星打ち上げロケット(実質的な中距離弾道弾)による衛星打ち上げまで示唆していた北朝鮮は、2018年に入ってから急速にその動きを沈静化させました。
2月8日の北朝鮮軍創建70周年パレードこそ予告通り平壌で行ったものの、経済制裁の影響かあまり派手ではなかったようで、外国人をホテルから外に出さないようにしてから行われたパレードの様子が、朝鮮中央通信によって録画放送されるに留まっています。
それどころか開会式には北朝鮮のトップ、金 正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の妹、金 与正(キム・ヨジョン)党中央委員会宣伝扇動部第1副部長や、対外的には国家元首に当たる同国No.2、金 永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長が参列。
閉会式には、2010年に韓国海軍の哨戒艦「天安(チョナン)」沈没事件に関わったと言われる金英哲(キム・ヨンチョル)中央委員会副委員長をわざわざ派遣してきました。
この超豪華な顔ぶれの参加は“融和”で開会(休戦開始)し、半ば“恫喝”で閉会(休戦終了)するという、「オリンピック休戦」を象徴するような出来事です。
しかも、この北朝鮮代表団は韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に南北首脳会談を提案する一方、アメリカのペンス副大統領との階段を予定2時間前にキャンセルするなど、南北会談は積極的なものの、米朝会談は必ずしもそうではない、という姿勢を見せました。
まさに競技そっちのけの「激しい外交戦」が行われていたのですが、その主な内容は韓国に対する「太陽政策」によって、アメリカや日本と韓国を切り離すのが中心です。
しかも韓国の文大統領はまんざらでも無い、という雰囲気で、五輪閉会式後は中国との関係改善に向けた動きまで見せているのですから、韓国首脳部への“工作”はうまくいった、と言えるかもしれません。
一方で、3月18日に閉幕するパラリンピック後、オリンピックとパラリンピックの開催期間を通じて自粛していた米韓合同軍事演習について、アメリカ政府は当初「再開は3月に入ってから発表する」としていました。
しかし、北朝鮮による外交戦を見てか、2月20日には早々に「再開しない理由は無い」とコメントを出し、北朝鮮への牽制と韓国へのメッセージ双方を同時に打ち出します。
さらには、その演習に関連してか、アメリカ海軍は大艦隊を朝鮮半島近海に集結させることが明らかになりました。
もっとも、一部報道で「空母6隻展開」と報じられるほど衝撃的な内容ではありません。
さすがにそれでは、「これから北朝鮮に大規模な上陸作戦を行いますよ」と言っているようなもので、本気で空母6隻など展開させたら朝鮮戦争以来の事態になります。
実際には、横須賀を母港とする「ロナルド・レーガン」に加え、フィリピンのマニラなどを巡っている「カール・ビンソン」、ほかにアメリカ西海岸を出港した「ジョン・C・ステニス」と、原子力空母は3隻。
それに加えて、佐世保を母港とする「ワスプ」と、タイで“コブラゴールド”合同演習に参加した「ボノム・リシャール」、さらに極東に向かう「アメリカ」、強襲揚陸艦3隻。
「強襲揚陸艦3隻もF-35Bを運用できるのだから、実質的に空母です」と言い切ってしまうメディアもありますが、それは言いすぎというもので、実質的には3月下旬以降に行われる米韓合同軍事演習で、模擬的な上陸戦を行うため展開するに過ぎないと思われます。
強襲揚陸艦3隻が上陸戦の演習、空母3隻は韓国海軍との合同演習後、おそらく海上自衛隊とも演習を行うはずですが、同時に演習中「あまり北朝鮮が積極果敢にならないように」という、抑えの戦力だと考えた方が良さそうです。
確かにまとめれば大艦隊ではありますが、これをもって「今すぐ戦争が始まる」と考えるのは無責任というもので、単に演習のため集結しているだけでしょう。
北朝鮮へのアピールももちろんですが、韓国に対して「誰の味方をするの?」というメッセージ性も感じられます。
そのような両国の動きの中で気が気でないのは韓国で、とにかくオリンピック中は融和ムードを演出して、パラリンピック中もそれを続けるつもりでしょう。
しかし、2月26日には訪韓した中国の副首相と文大統領が会談するなど、オリンピックとパラリンピックの間でも外交的な動きを模索しています。
どうも、アメリカの態度は強硬、北朝鮮は「同族だろ?」とすり寄ってきて断りにくいですし、日本は……この際どうでもいいと思っているかもしれませんが、ともあれ誰にどんな顔をしたらいいのか、相変わらず困り果てているフシがあります。
しかも国民は戦争をしたくない一方、北朝鮮がすり寄ってくるのも面白くないという雰囲気で、オリンピックの閉会式に参列した金英哲氏など、哨戒艦沈没事件の下手人扱いで「逮捕だ」「死刑だ」と強硬な意見まで出る始末です。
文大統領は国内向けにも顔向けできる状態に無いということなのか、今や「もう北朝鮮についてウチはあまり関わりたくない」と冷淡になってきた中国と接近、何とか外交的閉塞を打開するところから、活路を見出したいのかもしれません。
案外、急に水を向けられた中国の方が「いや、ちょっと待ってくれよ。そこでウチに話を持ってくるか?」と戸惑っているのではないでしょうか。
ここまで日本の話がほとんど出ませんが、北朝鮮とアメリカは日本の頭上で「政治的空中戦」の真っ最中で、当事国の1つであるはずの韓国はどこを見ているのかよくわからず、中国のように急にメンバーに加えられるわけでもなく、どうもカヤの外です。
さりとて、現時点で積極的に介入してもできることは無く、今まで同様に、経済制裁を破る「瀬取り」(北朝鮮の船へ、他国の船が洋上で石油や物資を受け渡しする行為)の監視と、弾道ミサイル発射に備えた監視を続けるしかありません。
その一方で、気になるのは遠く離れたシリアでの動きです。
悲惨な内戦の続くシリアにはロシアも介入して民間人の被害が想像を絶するものとなり、「この世の地獄」状態になっているそうですが、そのシリアとトルコの国境で、独立を目指す流浪の民、クルド人勢力とトルコ軍の戦闘が激しくなっています。
トルコ軍はシリアに越境してクルド人勢力の拠点を攻撃するとしており、シリアは当然これに反発、クルド人の味方もしないが、トルコ軍との交戦も辞さないという姿勢を見せました。
そうなると、シリアを支援するロシアも黙っておらず、実際、以前には国境線の入り組んだ地域でトルコ空軍機によるロシア空軍機の撃墜事件も起きており、これからもトルコとロシアがシリアで武力衝突の恐れが出ています。
さすがに両国にとってメリットが無いため回避される可能性は高いのですが、問題はそれでもトルコ軍がシリアへの越境攻撃を行った場合です。
昔から、ヨーロッパで何か起きれば極東で、極東で何か起きればヨーロッパで「ガス抜き」とも「間接的な報復」とも言える動きを起こすロシアのことですから、日本人からすると妙なタイミングで、急にロシア軍の動きが活発になるかもしれません。
問題はその極東も、これから北朝鮮を中心にひと騒動起きそうな情勢となっていることで、そこに漁夫の利を得ようとする中国の動きも加われば、偶発的な事件が致命的な事態に発展しかねないという、ちょっと怖い情勢がしばらく続きそうです。
オリンピックとパラリンピックが終わって気がついてみれば、地雷原のど真ん中で米韓軍事演習が始まるようなもので、とりあえずそれが終わるまでは気が抜けません。
演習が終わりアメリカ軍の戦力が一旦解散後、北朝鮮がまた「花火」(弾道ミサイル)の打ち上げを再開すれば、案外それが一番平和な「平常運転」なのかもしれませんが、そのような日々がいつまで続くのでしょうか?
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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