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2018/02/23

菅野 直人

自衛隊が空母保有!?F35B導入と「いずも級」発着可能化で、できる事。

海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」級、F-35B発着能力追加改修で、ついに空母化へ!? という報道により、にわかに「空母マフィア」が活気づいています。ある意味海軍ファンにとって空母とは、「戦艦無き今、最大のロマン」なわけですし、かつて我が国は世界最強の空母機動部隊で世界を席巻した事もあるのですから、無理もありません。ところで現実問題、「いずも」級のF-35B発着能力追加で、何ができるようになるのでしょうか?

いずも級DDH、飛行甲板改修へ

DDH-183いずも型護衛艦.jpg
By Kaijō Jieitai (海上自衛隊 / Japan Maritime Self-Defense Force) – http://www.mod.go.jp/msdf/formal/jmp/201612.html, CC 表示 4.0, Link

海上自衛隊ヘリコプター護衛艦「いずも」級(「いずも」「かが」)。
全長248m、満載排水量2万6千トンは第2次世界大戦前に就役し、ミッドウェー海戦で全滅するまで太平洋戦線をところ狭しと暴れまわった、南雲機動部隊(第1機動部隊)の一翼を担った中型空母「蒼龍」「飛龍」すら上回ります。

これのどこが護衛艦なんだ、というツッコミに対しては、海上自衛隊には「航空母艦」という艦種が無く、ヘリコプター多数を搭載し、5機同時発着可能という高度な運用能力を持ったヘリコプター運用艦だから、ということで、一応納得しておきましょう。

しかし、その就役時からあまりに大きいので「将来的に空母化を狙っているに違いない!」という声は尽きません。
そもそも海上自衛隊はその創設期から護衛空母やハリアー搭載のV/STOL空母を保有したいという意向はあり、その都度予算や政治的問題で実現してきませんでした。
ですから、一部報道で「海上自衛隊、いずも級の空母化へついに着手!」と言われても、そう違和感は無いわけです。

飛行甲板の改修が必要とされますが、どのみち護衛艦のスペックなど正確なところは防衛機密ですから、実際には既に、F-35Bの発着に何の問題も無いのだと言われても不思議ではありません。
「いずも」の試運転では出航時に「空母が通りますからご注意を」などと港内放送で案内されたらしいと逸話も残っていますが、ついにその時が来たのでしょうか?

これまでのオスプレイ運用実績

「キアサージ」から発艦した海兵隊所属のMV-22
By この画像データはアメリカ合衆国海兵隊が ID 120131-M-AF823-086 で公開しているものです。
これはライセンスタグではありません!別途、通常のライセンスタグが必要です。詳しくはライセンシングをご覧ください。
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ちなみに、いずも級護衛艦でF-35BのようなSTOVL(短距離離陸・垂直着陸機)を運用するには、単に平らで短距離ながら滑走可能な全通式飛行甲板を持てば良い、というわけにはいきません。

F-35Bは、コクピット直後に下向きの開閉式リフト・ファンと、機体最後部の下に向けることも可能な可変式ジェットノズルを使って、離着陸時に浮き上がるための推力を確保しています。
基本的にジェット排気ですから猛烈な熱気が飛行甲板に吹き付けられるわけで、よほどの耐熱素材で表面を覆っていないと無理なわけです。

そのため、米海軍でも海兵隊のF-35Bを運用するに当たってワスプ級強襲揚陸艦の飛行甲板改修に着手しており、岩国基地へ米海兵隊のF-35Bが配備された直後、それまで佐世保を母港としていた同級6番艦ボノム・リシャールから、改修済の1番艦ワスプに交代しました。

これはF-35Bだけでなく、やはりエンジン排気を垂直離着陸時に甲板に吹き付けるV-22オスプレイでも問題になり、当初「いずも」級ではオスプレイを運用できないとも言われたものです。
しかし、実際には「いずも」級で米軍のオスプレイによる発着は演習などの際に何度も行われており、「おおすみ級」輸送艦で使われたような、甲板を熱気から守る甲板保護パッドなども必要無いことがわかっています。

それが就役時から既にそうだったのか、あるいは後から改修したのかは不明です。
オスプレイはそのティルト・ローターによるダウンウォッシュ(下降気流)によってブラスト(エンジン後方からのジェット排気)を冷却するとも言われますから、単純にオスプレイが大丈夫だからF-35Bも、とは言えません。

しかし、オスプレイを運用できるけどF-35Bを発着させられないような仕様で、わざわざ建造するだろうか? という疑問は残ります。
案外、ある日突然米海兵隊機のF-35Bが「いずも」級に着艦し、「実は最初から大丈夫なんだよ!」と、アッサリ種明かしされる日が来るかもしれません。

運用するのは自衛隊機? 米軍機?

さて、「いずも級」の空母化で何が発着するのか……もちろん今までの各種ヘリやオスプレイに加えて、F-35Bということになりますが。

もちろん、海上自衛隊も航空自衛隊もF-35Bを保有していません。
それどころか海上自衛隊は哨戒機や輸送機、連絡機、それらをベースとした特殊用途機以外の固定翼機(ヘリコプター以外)の運用部隊を持たず、ましてや戦闘機など運用したことはないのです。

航空自衛隊にしても、F-35Bどころか陸上通常発着型F-35Aの配備を開始したばかりで部隊編成すらこれからという段階。
現状、F-35Aは日本への導入開始(1971年なので47年前)から旧式化が著しいF-4EJ改の更新用として42機が決まっており、気の早いメディアではこの42機の一部がF-35Bになるのでは、と言いだしています。

あるいは、F-4EJ改よりは新しいものの、予算面から近代化改修が厳しいF-15SJ(初期型F-15J。PreMSIPとも呼ばれる)の更新も、米トランプ政権からの「兵器購入して!」という圧力もあって、これもF-35Aに決まりそうですから、そこに混ざるかもしれません。

ただし、現実問題としてF-4EJ改、F-15SJともに迎撃や制空戦闘を主目的とする部隊に配備されており、領空侵犯機へ対処するアラート(スクランブル発進)待機任務が不可欠です。
そこに航続距離がF-35Aより劣り、領空侵犯機への警告射撃を行うための固定武装を持たない(ガンパックの装着は可能)F-35Bをわざわざ後継機として配備するでしょうか?

仮に配備したとしても、「いずも」級への派遣とアラート待機の両立は難しくなります。
となれば、航空自衛隊へ配備したF-35Bの「いずも」級派遣には、航空隊の新設が必要になるでしょう。

それを見越してか「航空自衛隊、戦闘機隊増強」という報道もなされていますが、弾道ミサイル防衛や長距離ミサイル配備など今の自衛隊は「予算がいくらあっても足りない状況」です。
将来的にはともかく、目下求められているのは「ワスプ」不在時に日本周辺有事が発生した際、米海兵隊のF-35Bを「いずも」級で運用できるような、柔軟性の確保が主眼と考えた方が、健全だと言えます。

具体的な運用はどのようなケースが考えられるか

さてそこで具体的な運用ですが、F-35Bは優れたレーダーと情報処理能力により、複数機で「簡易的な早期警戒機」としても運用可能なことがわかっています。

とはいえ、そのためには空中に常時複数機のF-35Bを滞空させておかなければいけませんし、その故障時のバックアップ機や交代機、さらにそのバックアップ機、脅威が出現した場合の増援とそのバックアップ、飛行予定まで間があり整備する機体……。
そこまで考えると、「いずも級」で運用できる機数(どれだけ頑張っても最大15機程度)では、「とにかく常時何機か上空に上げておく」程度のことしかできなくなります。

それを避けて、運用可能な機体を作戦にフル活用しようと思えば最低限でも陸上から発着する航空自衛隊、または米軍のAWACS(早期警戒管制機)からの支援が不可欠で、AWACSにもまた護衛の戦闘機が必要と考えれば、陸上からそう遠くでの運用はできません。

米海軍の空母と、それに搭載されているE-2D AEW(早期警戒機)に期待しても良いのですが、そちらはそちらで搭載機の管制で多忙を極める可能性もあります。

そうなると、例えば海外で平和維持活動を行う多国籍軍や有志連合に加わるにせよ、あるいは日本近海での有事に対処するにせよ、AWACSとその護衛機の活動範囲内に運用は限られます。
海外での活動は当面時期尚早として、まずは尖閣諸島をはじめとする南西諸島の離島防衛と奪還(対中国)、朝鮮半島有事(対北朝鮮、対韓国)、北海道有事(対ロシア)のいずれかでしょう。

そこで限定的な制空任務や地上支援、海上監視任務に当たるか、それが可能という姿勢を見せることで、対抗勢力に圧力をかける、そのような運用が第一義です。
漫画ではあるまいし、単独で空母決戦や一国の空軍を相手にするような運用は、非現実的と言えます。

20XX年、空母「いずも」出撃!

さて、そのような想定を加味し、現実に航空護衛艦(空母)「いずも」あるいは「かが」が出撃するとすれば、どのようなシチュエーションになるでしょうか。

20XX年、追加が実現した航空自衛隊の戦闘機隊から派遣されたF-35B 12機が、ついに石垣島沖を航行する「いずも」へ着艦。
那覇基地に配備されたF-35AとF-15MJでは対応に時間のかかる地域でのエアカバーを担当するためです。

対峙するのは、尖閣諸島沖を航行した後、宮古海峡を通過しようとする中国海軍北海艦隊の空母「山東」を中心とする機動部隊。
2016年の空母「遼寧」通過以来、哨戒機による監視や戦闘機によるスクランブルのみに留まった自衛隊ですが、空母が航空自衛隊機を搭載しての作戦が可能になったことにより、ついに「いずも」を動員したというわけです。

沖縄本島と宮古島の間にある宮古海峡は、宮古島に配備された陸上自衛隊の対艦ミサイルの射程に収まり、海上自衛隊や航空自衛隊も注視する中、中国機動部隊が戦端を開くことはありません。しかし。

「“山東”より艦載機発艦中!」
AWACSからの報告を受けた「いずも」艦上が慌ただしくなり、発艦事故に備えた救難ヘリがまず空へ。

たとえ戦端は開かれずとも、挑発行動は予想されていたため、飛行甲板上に待機していた2機のF-35Bが即座にエンジンを始動してリフトファン開放、発艦管制士官のGOサインとともに飛行甲板先端へ向け猛ダッシュ!わずかな滑走で空に浮かび、2番機も続きました。

「山東」からの発艦は2機に留まらず続く様子で、バックアップの2機もすぐ滑走開始位置につきます。
その後方では、増援機が後部エレベーターで飛行甲板に上がってきました。

同時に中国大陸からは宮古海峡に向かう爆撃機の編隊が探知され、那覇基地はその対応に忙殺されるため、「いずも」飛行隊が当面は単独で「山東」に対処せねばならないようです。
中国機動部隊が石垣海峡を抜けて太平洋の彼方へ去るまで、自衛隊がどれだけの対処能力を持つかを見せつける1日は、まだ始まったばかりでした……。

こんな日が、いつかやってくるのかもしれません。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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