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2018/02/22

笹木恵一

ダメ人間大集合映画!僕らはみーんな『許されざる者』なんだ!

許されざる者』は1992年公開のクリント・イーストウッド監督による西部劇だ。脚本は『ブレードランナー』のデビッド・ピープルズ。今作は第65回アカデミー賞で作品賞を受賞した。
出典:Amazon Prime Video

大まかなストーリー

アメリカ、ワイオミング準州の小さな町ビッグ・ウィスキーの娼館で、独りの娼婦が客のカウボーイとのいざこざで全身を切りつけられる事件が起きた。娼婦は一命をとりとめたものの、傷だらけの体はもはや売り物にはならなくなってしまう。この街の保安官で、ほぼ独裁ともいえるやり方で街の統治をしているリトル・ビル・ダケットが加害者のカウボーイ2人に下した制裁は馬7頭を娼館の主に引き渡すこと。これに対し他の娼婦たちはもっと重い刑罰を望むが聞き入れられることはなかった。
娼婦たちは自分たちの持てる全財産を出し合い、2人のカウボーイを殺した者に1000ドルの賞金を懸ける。しかし、己の敷いた法に例外を許さないリトル・ビルは、話を聞きつけてやってきたガンマンを捕らえ、民衆の前でまるで見せしめのように銃を奪い袋叩きにしてしまう。そのころ同じく賞金の噂を聞きつけたスコフィールド・キッドという若者が、カウボーイ殺しの相棒にと伝説の殺し屋ウィリアム・マニーを訪ねてカンザスの田舎を訪れていた。しかしマニーは11年前に妻と出会い、殺しの稼業からも足を洗い、3年前に妻に先立たれたが残された2人の子供たちと農場を営んでいた。一度はキッドの誘いを断るも、農場経営はうまくいっているとは言えず、子供たちの将来の為にもキッドに同行することを決意する。途中かつての相棒でスペンサー・ライフルの使い手ネッド・ローガンを訪ねる。彼もまた足を洗い現在は妻と農場を経営し慎ましく暮らしていたが、賞金を三等分するということで彼も同行することになる。しかしウィリアムにとって11年のブランクは予想以上に大きかった。馬に乗るのもスマートにはいかず、射撃も思ったように命中させることができない。そうかと思うとネッドも敵を前にして突如やりきれない思いに駆られ戦闘不能に。さらに自分はかつて5人殺したと大口をたたいていたキッドも人殺しの経験が全くないどころか、近眼で50メートルより先が見えないという事実が発覚。かくして伝説の強者たち、現実にはすっかりダメダメになってしまった3人のあまりにも無謀な戦いが始まった!

レビュー

デビッド・ピープルズがこの脚本を執筆したのは実際に製作される10年以上も前のことで、監督兼主演のクリント・イーストウッドが自身がウィリアム・マニーと同じ年齢になるのを待っていたという経緯がある。
イーストウッドといえば数々の西部劇、またそれを現代に置き換えたような作品群で、絶対的な強さを誇るアウトローを演じ、彼自身にもそのイメージがついているが、この作品はまるでそのアンチテーゼのように主人公のマニーはすっかり落ちぶれてしまった男として描かれている。物語の中盤が過ぎてもまともに馬にまたがることすらできないのだ。ご覧になった方はこう思うだろう、『イーストウッドがこんなにカッコ悪いなんて!』。しかしこれこそがこの作品のテーマなのだ。劇中では数々の伝説、武勇伝を持つ男たちが現れるが、実際の彼らは伝説で語られるような英雄ではなく、女を寝取られた腹いせに相手が酔っぱらったところを一方的に撃ち殺してしまうような、なんとも情けない連中なのだ。法を守り自分こそが正義だと豪語するリトル・ビルも同様。保安官としての権力を振りかざし逆らうものを一方的に弾圧するファシストでしかないのだ。傷ついた人の心を蔑ろにし、弱者から誇りも生きる意味も奪い去る彼の何処に正義があろうか。
この作品の登場人物には誰一人として清廉潔白な人物などいない。誰もが正しさの裏側に汚れた顔を持っている。誰もが“許されざる者”なのだ。

ここまで完膚なきまでに希望を奪っていく物語だからこそ、ラストシーンのマニーの叫びには汚れきった人間の、それでも奥底に眠る普遍的な“正義”を感じることができるのではないだろうか。彼が叫ぶ正義とは何か? その答えは是非実際にご覧になって見つけていただきたい。

笹木恵一

幼稚園時代からレンタルビデオ屋に足しげく通い、多くの映画や特撮、アニメ作品を新旧国内外問わず見まくる。
中学時代に007シリーズにはまり、映画の中で使用される銃に興味を持ちはじめる。
漫画家を目指すも断念した過去を持つ(笑)。

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