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2018/02/12

菅野 直人

使ってる当人は至って真面目! ブリテンの珍なる対空兵器5選

第2次世界大戦でバトル・オブ・ブリテン(英本土航空決戦)を戦って勝利したイギリス。本土だけでなくアチコチで敵機の脅威にさらされたため対空兵器が発達し、レーダーやミサイルの無線誘導の先進国でもあったことから、戦後も数々の兵器を生み出しました。ただ、それが世界中のアチコチで採用されたわけでないため、中には「いかにも英国面に堕ちた兵器」も……今回はその代表的な例をいくつか紹介しましょう。

大迫力!(でもそれだけ)対空火炎放射器!

1941年、英国のとある飛行場に、コカトリスという装甲車が止められていました。

前年の英本土航空決戦「バトル・オブ・ブリテン」に勝利したとはいえ、RAF(英国王立空軍)は多大な損害をこうむりましたし、にっくきナチス・ドイツはそれ以上の損害を被ったので空挺部隊や上陸部隊は来なかったとはいえ、また攻めて来るかもしれません。

ならば飛行場防衛のための装甲車も当たり前……と思いきや、このコカトリス装甲車は対空戦闘用でした。
しかも武装は火炎放射器1門。そう、コカトリスは世にも珍しい「自走対空火炎放射器」だったのです。

装甲車の名からコカトリスとも、あるいはザ・シング、ラゴンダとも呼ばれる対空火炎放射器は、砲身を上空に向ければ、実に高度200フィート(約61m)に達する火柱を吹き上げたました。
これでナチ野郎がスツーカ(ユンカースJu87)で急降下爆撃機をかけてきても、黒焦げにしてやるぜHAHAHA……!

なお、飛行機から投下される爆弾には、自らが爆発に巻き込まれないため信管に安全装置があり、あまり低空から爆弾を落とした場合は不発です。
さらに上空から真っ逆さまに急降下して爆弾を落とすスツーカは、爆弾を投下して引き起こすのに結構高い高度を要するので、そんな高度まで降りてきません。

つまり、ブリテン自慢の対空火炎放射器は、見てくれこそ凄まじいものの「射程が短すぎて使い物にならない役立たず」だったのでした。

なお、だったらカモメでも焼いて食おうと思ったのか、ムルマンスク航路(対ソ連支援航路。主に北極海)で暖を取ろうとしたのか知りませんが、対空火炎放射器を艦船にも搭載してテストしますが、停泊中はともかく、航行中に使うと風で火の玉が艦橋に飛んできたりして、大変な代物だったようです。

結局、対空火炎放射器は「何だかよくわからないけどスゴイ」という見た目のインパクトだけを残して、歴史から消え去ったのでした。

本体はどれでしょう? 空対空ミサイル「ファイアフラッシュ」

Fireflash missile.png
By Emoscopes – self made using XaraXtreme, CC 表示-継承 2.5, Link

皆様ごらんください、こちらが「サンダーバード」に登場した原子力旅客機、ファイアフラッシュ号でございます……って、名前は同じですしサンダーバードに出てきそうな形してますが、旅客機じゃありません

ついでに「通常弾頭だから安心! 原子力ミサイル」なんて、あさりよしとおが漫画で描きそうなミサイルでもありません(「ラジヲマン」が東日本大震災の影響で復刊中止になったのは残念)。

形からして怪しいのでなかなか話が先に進みませんが、1949年開発開始、1955年から初期のジェット戦闘機ミーティアやスイフトで発射テストが行われ、1958年に少数が配備されたAAM(空対空ミサイル)です。
誘導方式は発射母機からのレーダー波をたどるビームライダー方式で、命中まで母機が目標にレーダー波を当て続ける必要がありましたが、問題はそんなところにありませんでした。

もしかして、ロケットの噴射煙に含まれるイオン化粒子がレーダー波に影響を与えて、ビームライダー誘導方式がうまく作動しないんじゃないか?」と、いかにも英国面らしい余計な心配をした技術者が、ミサイル本体とロケットモーターを離す必要にかられたのです。

そう、見た目は3本のミサイルに見えますが、外側2本は純粋なロケットモーター、真ん中の1本はロケットモーターを持たない誘導部および弾頭部という、後年になって「全く意味不明で無用」という設計をしていたのでした。

おかげで運動性も射程も劣悪、「レシプロ爆撃機ならもしかして役に立つかも」程度の能力しかないとみなされ、さすがのRAFも少しはマトモなファイアストリークAAMを配備することにしたのですが……。

イギリスで晴れた日に使えます! 空対空ミサイル「ファイアストリーク」

Firestreak AAM - Elvington - BB.jpg
By Brian.Burnell, CC 表示-継承 3.0, Link

さて、RAFがヘンテコAAMのファイアフラッシュをさっさとお蔵入りにできたのは、後にファイアストリークとなる新型AAMの開発を、1951年に始めていたからです。

その当初、「ブルー・ジェイ」と名付けられた新型AAMはファイアフラッシュと同時期の1955年からジェット戦闘機ベノムに搭載されて空中発射テストに挑み、標的となったファイアフライの撃墜に成功
誘導方式は発射前までは母機のレーダー管制を受けますが、発射後は敵機の発する赤外線を負う赤外線誘導でしたから、ジェット機ほどの高熱排気を吐かないレシプロ機にも有効だったのは、確かに当時のミサイルとしては優れていました。

どうにも役立たずなファイアフラッシュに代わり本格採用、めでたく「ファイアストリーク」という制式名称を得て1957年から配備、超音速迎撃機ライトニングなどに搭載されます。
しかし、悲しいかな、ファイアストリークの赤外線シーカーは雲の中などで氷が付着すると、マトモに赤外線シーカーや近接信管が作動しなかったのです。

そして英国上空は曇っていることで有名であり……つまり、英本土防空用としてはまたも役立たずなのが判明したのでした。それも、採用後に。

結局、今度こそもっとマトモな「レッドトップ」AAMが開発されるのですが、ファイアストリークはなぜか1988年まで使用されました。
理由は「ファイアストリークを搭載すると、ライトニング戦闘機の空力性能が向上するから」で、機体を改修するより安上がりだったからとかナントカ……。

ジョイスティック誘導! 歩兵用対空ミサイル「ブローパイプ」

Javelin surface to air missile launcher.JPEG
By SGT D.A. GARTEN – http://www.defenselink.mil/; exact source, パブリック・ドメイン, Link

歩兵携帯式のSAM(地対空ミサイル)としてはアメリカ製の赤外線誘導ミサイル「スティンガー」が有名どころですが、その前身「レッドアイ」が何となく能力不足でアメリカ軍も困っていた頃、イギリスでも似たようなミサイルが開発されていました。

ただし、いかにも英国面らしく似ているのは歩兵携行用対空ミサイルという点だけで、「ブローパイプ」と名付けられたこの小型SAMは、驚いたことに「歩兵がジョスティックでミサイルを操作する」という誘導方式が取られていたことです。ファミコンか

もっとも、対戦車ミサイルなど低速あるいは固定目標向けとしてはそう無茶な誘導方式でもなかったのですが、ブローパイプの相手は航空機。つまり、高速で飛んでますし左右に旋回もすれば上昇も下降もします。

それに対して射手の歩兵は発射後にチマチマとジョイスティックでミサイルを操作し、直撃させられなくても「エイヤ、このへんだろう!」と自爆させられるスイッチつき……つまりマトモな近接信管すら無かったようです。
日本でこんなゲーム出したら発売一週間後にはクソゲーとしてワゴンセールに並びそうですが、無料のスマホアプリとかならアリでしょうか。やっぱり無しで。

しょうもないSAMを作ったものだと思いますが、1975年から配備を始めた7年後にはフォークランド紛争が始まり、イギリス陸軍と海兵隊により約100発が発射されたブローパイプは、アルゼンチン空軍のMB339攻撃機1機を撃墜したそうです。
命中率1%はまあ、この種の対空ミサイルとしては優秀というか、奇跡的というか、マグレでしょう。

なお、イギリス製兵器も配備していたアルゼンチン軍もブローパイプを持っており、こちらも英海軍の空母を発進したRAFのハリアーGR.3を1機撃墜したそうです。トホホ。

なお、後にアフガニスタン紛争でもレッドアイやスティンガーとともにアフガンゲリラに供与されたそうです。
しかし、ロックオンすれば当たるかどうかはともかく勝手に飛んでいくそれらアメリカ製SAMと異なり、ブローパイプはメンドクサイことこの上なく、「こんなもん使ってられるか!」とブン投げられたそうな。まあそれが普通の反応だと思います。

なお、後継SAMのジャベリンも「射手の目視誘導」という点では変わりませんでしたが、射手がランチャーのカメラで捉え続けた目標に自動で誘導する仕組みだったので、少なくともジョイスティック誘導からは解放されました。相変わらず変な誘導方式ですが。

またもやジョイスティック誘導! 艦対空ミサイル「シーキャット」

Seacat Seawolf IWM Duxford.JPG
By 英語版ウィキペディアDesmohさん, CC 表示-継承 3.0, Link

ここまで航空機用のAAM、地上用のSAMと「珍対空ミサイル」を紹介しましたが、それなら艦対空ミサイル(これもSAM)にも変なのがあるだろうと思うでしょう。
それが昔ながらの40mm艦載対空機関砲に代わる艦対空兵器として開発された、シーキャットSAMです。

艦対空ミサイルでも、大型爆撃機などを長距離で撃破するためのものは大層なレーダー誘導・管制システムを持つものが開発されていましたが、対空機関砲の代替えになる近距離用ミサイルは簡素なものが求められました。
そこでマラカATM(対戦車ミサイル)をベースに4連装発射機から発射する短距離SAMシーキャットが開発、1962年から配備されたのですが、問題はその誘導方式。

射撃指揮装置は対空機銃用を流用して「目標このへん!」と指示する程度ですが、発射してから誘導すればいいので、まあそれは良しとしましょう。
しかし、発射後はミサイルの尾翼に取り付けられた発光体を目安に、ジョイスティックでミサイルを操作……って、コレ、後のブローパイプと同じじゃないですかこっちが元祖クソゲーか

その後シーキャットは改良を受け、射撃指揮装置はレーダー式で自動追尾可能に、ついでにミサイルの追尾も目視ではなく(目視でもできた)レーダーで可能になり、全天候運用能力を手に入れたものの、誘導方式そのものは最後までオペレーターによる手動でした。

なお、フォークランド紛争に参戦した英海軍艦艇に装備されたシーキャットSAMは低空を果敢に突撃してくるアルゼンチン空軍機を目標に発射され、8機を撃墜したとも言われます。ホントか?

ただし、アルゼンチン側ではシーキャットをあまり脅威とみなしていなかったようで、まずはマトモなレーダー誘導式SAMシーウルフを搭載した駆逐艦から攻撃しました。
フォークランド諸島に上陸していたアルゼンチン陸軍も地上発射型タイガーキャットSAMを使用していますが、こちらの戦果は確認されていません。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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