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2018/02/9

菅野 直人

軍事学入門「核兵器は最強の反戦兵器なのか?」

ニュースなどで日常的に流れるキーワードから、軍事学の入門的知識を紹介する企画、今回は抑止力として注目される日本の核武装論などから、「核兵器は最強の反戦兵器たりうるのか?」というテーマで紹介します。

歴史上2回のみ行われた核攻撃

Atombombe Little Boy 2.jpg
By 不明https://www.archives.gov/research_room/arc/, パブリック・ドメイン, Link

まず戦争の歴史において、核兵器がどのように使われてきたか?
核兵器の実戦使用例は現在までたった2回。

皆さんのほとんどはご存知かと思いますが、第2次世界大戦末期の1945年8月6日に広島市へ、最初期の核兵器、原子爆弾「リトルボーイ」が投下されたのが人類史上初の核攻撃であり、8月9日に長崎市へ同「ファットマン」が投下されたのが、現在まで最後の核攻撃です。

それ以降、核兵器はアメリカやソ連をはじめ世界の超大国、あるいは軍事技術の高い国や、隣国が重大な軍事敵脅威となっている国で、数多く開発・生産・配備されてきました。
もちろん、長崎以降も大きな戦争があるたびに核兵器の使用が考慮され、その小型化による「戦術核兵器」の登場や、あるいは小国で開発が成功するたびに、その使用が割と手軽に論じられるようになっていきます。

最初期の核兵器は大型爆撃機にしか搭載できない割に威力の限られる、大型の原子爆弾しかありませんでしたが、その使用手段が多様化し、威力も大きなものから小さなものまで様々なものが登場すると、選択肢に上ることが増えるのは当然です。

しかし、現実には長崎以降現在までの73年間、使いやすくなったにも関わらず、核兵器が使用されることはありませんでした。

先進大国によるコントロール

おそらく、歴史上もっとも核兵器の使用が懸念されたのは、1991年のソ連崩壊からの数年間だったと思います。
40年以上続いた東西冷戦の一方の雄、「赤い帝国ソヴィエト連邦の崩壊は、連邦国家のみならず、その巨大な連邦軍勢力の崩壊も意味しました。

その軍事力はソヴィエト連邦を構成した15の共和国が独立していく中で再構成され、大部分はロシア、ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナといった比較的大きな国に吸収されていきますが、その過程では軍事力のコントロールが困難な時期もあったのです。

具体的には、給料が払えないので兵器の横流しが多発したと言われていますが、その過程で核兵器も狂信的なテロ組織などに渡るのではないかと、深刻な懸念がありました。
実際、核兵器開発技術は拡散した可能性がありますが、ソ連崩壊から25年以上が経過した現在でも核兵器を用いたテロは行われておらず、ひとまずその脅威は去ったと言えるかもしれません。

このように大国がそのコントロールを失うと核兵器拡散が懸念される一方、大国がそれを維持する限り、核兵器もまたコントロールされていると言えます。
大国以外の核兵器保有国も、むしろ大国との交渉手段という政治的役割を核兵器に求めてきたフシがあり、やはりこれも慎重にコントロールしていると言えるでしょう。

コントロールされず安易に使用されるような兵器であれば、政治的役割を持たないのですからある意味当然です。

懸念されるテロでの使用

UA Flight 175 hits WTC south tower 9-11 edit.jpeg
By UA_Flight_175_hits_WTC_south_tower_9-11.jpeg: Flickr user TheMachineStops (Robert J. Fisch)
derivative work: upstateNYerUA_Flight_175_hits_WTC_south_tower_9-11.jpeg, CC 表示-継承 2.0, Link

大国以外による核兵器開発は、そのための資金調達的な意味合いもあって、いつどのような勢力に核兵器が流れていくかという懸念が常にあります。
かつてフセイン政権時代のイラクがイラク戦争でアメリカを中心とした有志連合に叩き潰されたのは、「大量破壊兵器を保有し、その査察に応じないため」が直接的な理由でした。

現実には、当時のイラクにそのような兵器は無かったと言われていますが、アメリカにとってはどっちでも良かったのかもしれません。
どちらかと言えば、「核兵器など大量破壊兵器を保有し、それを用いてアメリカに敵対しようとすれば、断固としてアメリカはこれを叩き潰す」という、見せしめの側面もあったからです。

その頃のアメリカは2001年9月11日のアルカイダによる「911テロ」でニューヨークの世界貿易センタービルと多数の人命を失い、怒り狂うと同時に、核兵器や核物質テロが行われた場合、たとえアメリカであろうと国家の維持が困難になりかねないと、恐怖していました。

そのため、現在の視点から見れば過剰とも言える軍事力の投入が許容されましたが、テロの恐ろしいところはその先の話。
国家間戦争と違って明確な終わりの無い対テロ戦争では、予算に限りのある国家の方が体力切れを起こし、今やアメリカの軍事力はすっかり息切れし、かつての「世界の警察官」としての役割は果たせなくなっています(実際に果たしたことなど無いかもしれませんが)。

テロ組織にとってはこの状態こそ「待ってました」というもので、むしろこれからが危ない時期でしょう。

北朝鮮が示す、維持運用の難しさ

しかし、核兵器の難しいところは、「開発・生産すること」ではなく、「その維持・運用」にあります。
核分裂反応、あるいは核融合反応による「核爆発」というのは一種の芸術であり、それを起こすためには緻密な計算と、その計算通りの作動する装置が不可欠なのです。

その装置が計算通りに作動しなければ、場合によっては単に信管が爆発するだけで核爆発そのものが起きないかもしれませんし、起きたとしても狙った威力が出ません。
おまけに兵器として実用に供するには可能な限り小型化しないといけませんし、それに失敗すると、単に「核爆発を起こせる装置を持っているが、敵に対して使用する手段が無い」ということになります。

核兵器を保有していると言われ、その脅威が叫ばれながらも、同時にその脅威に対する懐疑論が尽きない北朝鮮は核兵器保有の難しさを示す典型的な例です。

自らの開発した核爆発装置が正常に作動するか、コンピューター上のシミュレーションだけでは現実味が無いので近く実験を行っていますが、そのたびに起こる地震波からは、北朝鮮が未だに核爆発装置を安定作動できていない、威力がマチマチだとされています。
さらに、発射実験を行うたびに射程を伸ばしている弾道ミサイルも、その弾頭に搭載できるほど核兵器が小型化されているかは実証されておらず、さらに核弾道ミサイルとして必要な大気圏再突入技術も証明されていません。

強化された経済封鎖の中で、開発はともかくその維持メンテナンスができるのかという問題もあり、北朝鮮の核兵器は脅威とみなすべきか否かで言えば現実的には否定的要素の方が多くなっています。
ただ、「核兵器を開発し、それに成功し、いざとなれば使用する」と断言する以上、それを無視できない状況を作り出すのが、北朝鮮による核開発、その最大の目的です。

核兵器は最強にして最高の反戦兵器なのか?

Operation Upshot-Knothole - Badger 001.jpg
By Photo courtesy of National Nuclear Security Administration / Nevada Site Office – This image is available from the National Nuclear Security Administration Nevada Site Office Photo Library under number XX-34.
This tag does not indicate the copyright status of the attached work. A normal copyright tag is still required., パブリック・ドメイン, Link

さて、このように核兵器保有国によるコントロールで、現状はどうにかバランスが取れている可能性の方が高く、安易に使用されることも無いだろうという核兵器ですが、日本でも核攻撃されるのを抑止するため、自らも核武装するのを「少なくとも否定はせず」という核武装論が活発になりつつあります。

こう書くと、結果的に核兵器があれば戦争は起きにくい、ある意味反戦兵器に近いという意見があるのも確かです。
実際、「戦後の日本はアメリカの核の傘のおかげで平和が守られてきた」という理屈がありますし、それはある程度事実でもあります。

ただ、多数の核兵器を抱える米ソがバックについた代理戦争、朝鮮戦争やベトナム戦争はどうだったか?
いずれも米ソ直接対決を避けるため核兵器の投入まではされなかった、と言われますが、その結果としてかえって当事国へダラダラと煮え切らない援助を続け、戦争を続けさせることになりました。

ベトナム戦争は北ベトナムの勝利による南北統一で終わって今に至りますが、朝鮮戦争など現在でも正式には終わっていないのです。

それでも第2次朝鮮戦争が始まらないのは核兵器のおかげかと言えば、そもそも朝鮮戦争は米ソ両国が核兵器を持っている中で始まって終わりましたし、北朝鮮が核兵器を持つ持たないに関わらず、軍事的緊張は続いています。

そしてアメリカの核の傘の下にいるはずの日本では領土に関わる紛争が絶えませんし、核兵器を使わない武力衝突が将来的に起こる懸念も常にある状況では、核兵器を持ったからといって何だ、という話です。
偶発的な核戦争の可能性を下げるために大国同士の直接対決「世界大戦」は避けられるものの、核兵器は小国同士、あるいは大国対小国の紛争を回避する反戦兵器としては、全く機能しない、そう断言していいでしょう。

政治的なブラフとしてはともかく、反戦兵器としての役割を期待した核武装論であれば、それはもうバカバカしいとしか言いようがありません。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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