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2018/01/26

菅野 直人

それは本当に必要なのか!? 「イージスアショア」

これまで日本はアメリカなどとの開発に参加した防衛システム、イージス・システムの対弾道ミサイル版「BMD」を海上自衛隊のイージス護衛艦に搭載してきましたが、それが軍艦である以上常に洋上で待機するわけにもいかず、また他の任務だって抱えています。それを解決するにはBMD対応イージス護衛艦の建造というのもひとつの手ですが、重要地点の陸上にBMD対応イージスシステムを建設する「イージス・アショア」がにわかに脚光を浴びてきました。

対北朝鮮「防衛」最後の切り札


現在、日本において、核弾頭を搭載したものを含む弾道弾(宇宙空間を含む高高度弾道飛行で弾頭重量と射程を伸ばしたミサイル)迎撃能力を持つのは、海上自衛隊のイージス護衛艦のみ。アメリカ海軍のアーレイ・バーク級イージス駆逐艦をベースに海上自衛隊版への改設計を行ったこんごう級4隻と、その発展型あたご級2隻、2020年から就役するべく建造中の新型艦2隻の計8隻です。

元々は旧ソ連軍の軍艦や航空機から一度に大量に対艦ミサイルを発射される「飽和攻撃」へ対処するため、同時多目的迎撃能力を持つものとして開発(さらに元をたどれば、日本軍による神風特攻隊対策にまでさかのぼる)されたのが、イージス・システム。

たまたま優れた索敵・高速目標処理・兵器誘導能力を持つため、弾道弾迎撃システムとしても実用化された中で最適とされたため、海上自衛隊でも全てのイージス護衛艦にBMD対応能力を持たせるか、そのための改装中です。

しかし所詮は最大8隻、現在では6隻のため、北朝鮮が弾道弾を着々と実用化に近づける中、発射後の上昇段階にせよ着弾前の落下段階で迎撃するにせよ、常時2隻程度を日本海に展開させねばなりません。残りは交代のため整備をしなくてはいけませんし、太平洋への配備も欠かせない状況から、新型艦を加えた8隻でも足りないくらい。

さらに、弾道弾防衛体制に入ったイージス護衛艦は対艦ミサイルや潜水艦による攻撃へは通常より脆弱なことから、対潜・対空・対艦戦闘力にバランスのとれた汎用護衛艦数隻による支援が欠かせません。最近では尖閣問題や北朝鮮の漁船対策で、海上保安庁の巡視船不足が問題になっていますが、実のところ海上自衛隊の護衛艦も決して余裕があるわけではないのです。

そのため、こんごう級、あたご級ともにBMD対応後はDDH(ヘリ護衛艦)の援護をしながら演習に派遣されるのも容易ではなく、北朝鮮のために海保のみならず、海自もかなりの戦力を拘束されています。それでも他の任務へつかせないのは、北朝鮮が発射する弾道弾が日本の領海や陸上に落下するとわかった時、被害を生じさせない範囲で迎撃可能な唯一の、そして最後の切り札だからです。

イージス・アショアの存在意義と、陸自所管の理由

Mda aegis.jpg
By Missile Defense Agency – United States Department of Defense – United States Naval Institute News, パブリック・ドメイン, Link

こうした「海上BMDプラットフォームの限界」と共に浮上してきたのが、陸上版イージス・システム、「イージス・アショア」です。

基本的にはイージス艦に搭載するレーダーその他捜索・射撃管制・情報処理・誘導といったシステムと、BMD対応迎撃ミサイルを発射可能な多数のVLS(垂直発射型ミサイル発射基)によって構成されたパッケージを、地上の固定施設で運用します。イージス艦のような機動性は持たないものの、

・発射地点を射程内に収めた場所
・弾道弾の通過地点
・落下されると大打撃をこうむる場所の近く

こうした地域を的確に予想した上で配置すれば、例えば悪天候やイージス艦のエンジン故障など、船舶として致命的な問題からは無縁でいられます。

日本で導入するイージス・アショアの管轄は陸上自衛隊と言われますが、イージス艦を持つ海上自衛隊、BMDで迎撃に失敗した後、地表近くで被害を最低限に抑えるべく迎撃する、パトリオットミサイルPAC3を持つ航空自衛隊がそれぞれの運用で手一杯なこと。

さらに、地上の固定施設として重要な割に脆弱なことから、陸上自衛隊の地上部隊による防衛体制構築も求められた結果が、イージス・アショアを陸自が運用する理由だと思われます。

一説には「弾道弾への対抗手段を持たない陸自にも出番を持たせるための政治的理由」とも言われますが、北朝鮮による弾道弾攻撃、あるいはそれを想定したどう喝が現実のものとなりつつある中、それどころではない、というのが本音でしょう。

陸上自衛隊には、海自の汎用護衛艦に匹敵する特科高射部隊(機動性の高い防空部隊)があり、広域防空が可能な03式地対空誘導弾(中SAM)や短距離防空用の11式地対空誘導弾(短SAM)で空からの脅威を、即応旅団で地上からの脅威をカバーすると思われます。

イージス・アショアを海自や空自の部隊とした場合、演習ではともかく実戦での迅速なカバーはチームワーク面から見ても難しいことを考えれば、納得の配置です。

設置候補地の懸念


ただし、「固定施設などで動けない」「それゆえ攻撃対象になりやすく、本腰を入れた防衛も求められる」となれば、それはすなわち配備地が攻撃にさらされる可能性が高いことを意味します。しかも、実際に目標となりそうな場所ではなく、秋田県と山口県にある陸上自衛隊演習場が有力な配備候補地として選定されたことで、問題がちょっとばかりややこしいことになりました。

配備候補地近くの住民からすれば、「ウチに弾道弾が攻撃されるわけでも無いのに、大都市を守るための施設に敵弾が飛んでくる」わけですから、面白いわけもありません。何しろ誤射でも無ければ、いずれも本来攻撃されるような場所では無いからです。

それなら例えば東京のど真ん中にイージス・アショアを建設すればいいかと言えば、そんな土地も無いので裁判などで争った挙句、強制収用するなどして完成までにヘタすれば数十年かかりかねず、「泥棒が来てから縄を結う」どころの話ではなくなります。

目前に迫った脅威に対して待った無しで、一刻も早く整備しなければならない一方、そのために危険度の上がる住民の反対意見ももっともなもの。日本全体に寄与するか、そのために自分たちの平和を犠牲にできないか、どちらの言い分も間違ってはいないだけに、国としてはよほどのネゴシエーター(交渉者)を準備して、誰もを納得させる必要があるでしょう。

攻撃兵器への転用は可能なのか

なお、反対意見の中に「そんなものができたら、攻撃にも使えるだろう、そんな片棒を担ぐのはごめんだ」という意見もあります。これはあながちトンチンカンな話でも無く、イージス・システム自体は高度な捜索・誘導・電子攻撃手段を持っていますし、VLSをBMD対応ミサイル(スタンダードSM-3など)以外にも巡航ミサイルへ対応させれば、立派な攻撃拠点になるでしょう。

自衛隊は巡航ミサイルによる敵地攻撃能力獲得を真剣に現実のものとしようとしているので、そこでイージス・アショアを使えば……という話は荒唐無稽ではありません。ただ、問題は2点ほどあります。

・純戦術的に見た場合、攻撃兵器に機動力が無いと、相手がその射程外に重要目標を移すのが容易になるし、防衛兵器を減らしてまで攻撃能力を持たせては、敵からの攻撃に弱くなって意味が無い。
・財政的に見た場合、イージス・アショアへ下手に攻撃能力を持たせて施設の防衛に要する部隊を増加させたり、BMD能力を低下させたり、コストパフォーマンス的に引き合わない。

こうしたことから、攻撃能力付与は不可能ではないものの、あくまで航空機や護衛艦の活用が正解と言えます。

誰を防衛するのか?

さて、イージス・アショアに疑問を持つ人の中には「一体それは誰を防衛するものなのか?」という意見もあります。確かに、アメリカを狙うICBM(大陸間弾道ミサイル)やSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を迎撃するために、日本へ攻撃されやすい迎撃施設を設けるのか? という意見もあるでしょう。

さらに国内だけでなく、国外からも端的に言えば「そんな防衛兵器を作られたら、ウチの攻撃兵器の価値が下がるじゃないか! どうしてくれる?」という、日本からすれば「そんなこと知らんがな」的な意見もあります。

要はどちらも「アメリカの番犬として生きるのが平和につながると本気で思うのか?」と、それぞれの立場から似たようなことを言っているわけですが。

何も日本へ向けているのはICBMだけではなく、日本そのものを射程に収めたIRBM(中距離弾道弾)、MRBM(準中距離弾道弾)や短距離弾道弾だっていくらでもあります。むしろまだ実用化の目処にまで至っていないICBMに狙われるアメリカより、確実に飛んでくることがもうわかっている日本の方がよほど危ないわけで、自国のためにもイージス・アショアは必要です。

そりゃ同盟国としてアメリカ防衛に手を貸すのはもちろんですが、地理的にアメリカを攻撃しようと思えば絶対邪魔なのが日本というのが地理的宿命ですから、いろいろと言い分はあるでしょうし、理解すらもできますが。まず自分の身を守るためのイージス・アショアだと思った方が良さそうです。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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