- コラム
実は建造ラッシュ? 世界の新造空母BEST5
2017/09/20
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2018/01/19
菅野 直人
日本では尖閣諸島沖を航行する海警局の船舶(報道では「公船」)や空母「遼寧(りょうねい)」の話題が多いものの、実は新型艦を続々と就役させ、急速に勢力を拡大しつつあるのが中国海軍です。いわば「遼寧」が目立っている隙の軍拡と言えますが、現在建造中、あるいは計画中の空母が全て就役すれば、少なくとも中国近海には米海軍並の空母機動部隊複数が存在することになりそうです。今回はその中国海軍から注目の最新鋭艦をいくつか紹介します。
かつて“001A”型と呼ばれ、ウクライナから購入した旧ソ連の未成空母“ワリヤーグ”を購入、改装して2012年9月に就役させた001型こと“遼寧(りょうねい)”のリバースエンジニアリング&改設計型です。
2013年11月に起工、2017年4月に進水した際に正式には002型であることが明かされ、1番艦は2020年就役とされてはいますが、艤装が急ピッチで進められていることから、就役の前倒しや、少なくとも試験航海はかなり早まるかもしません。
基本的には遼寧やその1番艦、ロシア海軍のアドミラル・クズネツォフ同様のSTOBAR(短距離発艦・通常着艦)式航空母艦で、艦首の飛行甲板前端にそびえるスキージャンプ台の角度がやや緩められています。
モントルー条約で空母の通航が認められていない、黒海と地中海を結ぶボスポラス海峡(トルコ)を通過するため、飛行甲板に対艦ミサイルなどVLS(垂直発射機)を埋め込んで「航空巡洋艦」を名乗っているクズネツォフとは異なり、中国海軍ではその必要性がありません。
そのため、遼寧でも飛行甲板のVLSは撤去されていますが、まだ艦名不詳の“002”型では設計当初からVLSをもたない代わり、飛行甲板下の格納庫を拡張して搭載機を増やしています。
既に2番艦も起工されたと伝えられており、2隻が揃う2020年代前半には、練習空母として運用されている“遼寧”で養成されたパイロットと、開発の済んだ艦載機によって本格的な空母機動部隊を編成するようになるでしょう。
さらに、“003”型と呼ばれる原子力空母も計画中で、これはCATOBAR(カタパルト発艦・通常着艦)式空母となるほか、大きさもアメリカの原子力空母に近いか、同等になる見通しです。
“003”型のテストのため、“002”型就役後は“遼寧”がカタパルトを実験的に運用するため改装に入り、そのまま“002”と“003”双方の練習空母機能を持つことも考えられます。
2隻建造とも言われる“003”型が戦力される2030年代には、東シナ海および南シナ海で、常時各1つの中国空母機動部隊が運用可能となりますから、直接対峙する米第7艦隊や日本の海上自衛隊などは、空母など洋上航空戦力の強化を検討中です。
By 海防先锋 – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, Link
1番艦の名称から“昆明(クンミン)”級とも言われるのが052D型ミサイル駆逐艦で、2014年から就役を開始し、年間2隻のペースで2018年1月現在6隻が就役、ほどなく7番艦も就役予定で、それを除き6隻が建造中、最終的に17隻建造予定とされています。
これはアメリカ海軍の“アーレイ・バーク”級や海上自衛隊の“こんごう”級、“あたご”級より一回り小さいものの、フェーズド・アレイ・レーダーと同時多目標捜索・攻撃能力、ステルス性を持った「中華イージス」と呼ばれており、無視できない戦力です。
既にソマリア沖で海賊対策を行う有志連合(海上自衛隊も参加)へも派遣されて実戦運用可能な姿をアピールしており、その数だけで海上自衛隊による対処が困難になりつつあります。
SAM(対空ミサイル)、SSM(対艦ミサイル)、SUM(ロケット発射式対潜魚雷)を発射可能な合計64セルのVLSを主兵装とするほか、対潜ヘリも1機搭載可能で、空母機動部隊の護衛艦としてだけでなく、単独でも十分に脅威。
しかも、それに続いてより大型で「ミサイル巡洋艦」と類別されることもある055型も2014年から建造開始され、5番艦までの建造が確認されていることから、この種の近代的最新鋭イージス艦隊の出現で、中国近海はかつてなく海上軍事力の密度が高まっています。
By U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Tiarra Fulgham – http://www.dvidshub.net/portfolio/1182796/tiarra-fulgham#.U-jKyqNQmfg, パブリック・ドメイン, Link
2000年代以前の中国海軍では沿岸防備用のフリゲート艦を多数保有していましたが、この任務を小型のコルベット艦に受け継ぎ、大型化とシステム化によって、より外洋志向の高い新時代のフリゲート艦として出現したのが“江凱(ジャンカイ)”型こと054A型。
2005年に就役した原型の054型を含め、2018年1月までに25隻が就役、さらに少なくとも4隻が建造中と見られています。
限定的ながら艦隊防空も可能で、対空・対艦・対潜にバランスのよい武装を施し、対潜ヘリすら搭載したステルス・ミサイルフリゲートであり、海上自衛隊でいえば“あさぎり”級に匹敵する今の基準では小型艦ながら有力です。
あくまで空母機動部隊の護衛艦というよりは沿岸防備艦の延長線上にある戦力と言えますが、有力な対艦攻撃能力を持たない国や勢力に対しては十分に脅威であり、より小回りの利く戦力と言えるでしょう。
仮に尖閣諸島沖へ「中国海軍の軍艦」が出現するようになれば(現在は海警局の公船どまり)、このクラスがまず出現し、海上保安庁が海上自衛隊の応援を頼むような事態になるかもしれません。
地味ながら重要な意味を持つのが、2017年8月に就役したばかりの最新鋭大型補給艦“901(呼吸湖)”型です。
2005年から2016年にかけて8隻が整備された“903/903A(福地)”型補給艦で外洋向け艦隊補給戦力を手に入れた中国海軍ですが、あくまで最高速力20ノット程度の2万3千トン級高速タンカーに過ぎませんでした。
それに対し、901型は最高速力25ノットの4万8千トン級と大型高速化しており、アメリカ海軍が保有するサプライ級と同程度の能力を持つ、空母機動部隊向け「高速戦闘支援艦」だとされています。
2番艦も2017年10月に起工済みなことから、前述の“002”型空母2隻による2個機動部隊に対応可能となり、“003”型原子力空母2隻が就役して以降のため、さらに同型艦、あるいはその発展型が建造されることでしょう。
これが何を意味するかといえば、東シナ海や南シナ海といった「中国にとっての内海」で活動する沿岸海軍レベルだけではなく、より遠隔地で空母機動部隊を運用するということです。
インド洋や太平洋、さらに将来的にはアフリカ沿岸や北極海にも出現可能となることを目指すとなれば、その通過国や目的海域の沿岸各国との緊張は高まっていく恐れがあります。
これが戦争なら「世界を股にかけるアメリカ海軍とどちらが強いか」と単純な話で済みますが、戦端を開かず「砲艦外交」的な運用に終始する限り、もはや世界の海はアメリカ海軍のものと限らない、とアピールするには十分かもしれません。
ここまで中国海軍の急速な拡大および外洋海軍化に関係する軍艦を紹介してきましたが、いずれも2000年代以降に「量産体制」に入っており、空母から小型艦まで造船能力と予算の限界に挑戦しているのか、といわんばかりの勢いです。
しかしそれ以上に疑問なのは「そんな急に軍艦を増やしても、乗組員の数が間に合うのか」という問題でした。
特に、沿岸海軍ならともかく外洋海軍なら海外での寄港も増えるため、少なくとも士官以上の乗組員に国際感覚が求められるのは必至です。
これがアメリカ海軍ならアナポリス“海軍士官学校”を卒業してそのまま軍艦に配属してしまえば、あとは自然に世界中を股に活躍するのですから、さほど問題にはなりません。
しかし、海上自衛隊のように日頃は自国近海で行動しつつ、それでもいざとなればシーレーン防衛までを主任務としなければいけない海軍であれば、士官候補生の教育期間のうちに世界各国での航海が求められてきます。
これまでの中国海軍でも“鄭和”や“世昌”という練習艦がその役目を果たしてきましたが、ついに2017年2月、新型の1万トン級練習艦“戚継光”を就役させました。
より小さな“鄭和”でも世界一周航海などを行ってきた中国練習艦隊ですが、“戚継光”により、より多くの候補生を大規模な教育航海に従事させることが可能になります。
ここまで紹介した4タイプの戦闘艦と高速戦闘支援艦も重要ですが、ある意味“戚継光”の就役こそが、中国海軍が本腰を入れて大規模な外洋海軍の創設と維持に乗り出した証明と言えるでしょう。
兵器だけではなく人材の教育にも力を入れ始めたとなると、もはや中国海軍をかつての「大陸沿岸防衛、せいぜい台湾侵攻や南沙諸島防衛戦力」として侮る風潮を、改めねばならないようです。
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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