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2018/01/12

菅野 直人

ステルスばかりが能じゃない!好評のスウェーデン製最新戦闘機、グリペン

現在、世界中で販売されている戦闘機の中でも、ステルス戦闘機に次ぐ性能を誇り現実的な価格で購入できる第4.5世代戦闘機。その中でも西側の技術で安価、整備などもしやすく短距離離着陸性能も高い「高性能軽戦闘機」として注目されているのが、スウェーデンのサーブ39グリペン”です。今回は採用国が拡大している理由をご紹介しましょう。

基本的には中立国スウェーデン防衛用ガラパゴス戦闘機

JAS Gripen a (cropped).jpg
By Ernst Vikne – originally posted to Flickr as JAS Gripen, CC 表示-継承 2.0, Link

スウェーデンの航空機メーカー、サーブによって、21世紀まで戦う新型戦闘機の開発が始まったのは1980年、まだ米ソ東西冷戦真っ只中の時代です。
当時のスウェーデンは、裏ではアメリカ寄りで有事にはNATO(北大西洋条約機構)に加入して対ソ戦を戦うとされていたものの、少なくとも平時は表向きスイスと同様、武装中立政策を取っていました。

そのため軍事力の整備はあくまで独力で戦い抜くことを想定し、特に戦闘機に関しては航空基地が破壊されても、山の中などに隠されたシェルターから高速道路などを使って離発着できるよう、東西どちら側の陣営とも異なる性能を求められていたのです。
そうした「スウェーデン特有の国情に最適化された戦闘機」を整備すべく、サーブでは1930年代から戦闘機の自力開発を進めており、伝統的に国産戦闘機を開発、配備してきました。

特に1950年代に開発したマッハ2級ジェット戦闘機、J35ドラケン”以降は、STOL(短距離離着陸)性能と、夏休みにはアルバイトの理系学生が整備していたほどの整備性の良さを持ちつつ、列強の高性能戦闘機と同等の戦闘力を持っていたのです。

J39グリペン”も基本的にはその延長線上にあり、開発思想的には「スウェーデン防衛用のガラパゴス戦闘機」でした。

輸出に失敗した先代ビゲンの反省

AJS 37
By Alan WilsonSaab AJS-37 Viggen ‘37098/ 52’ (SE-DXN)
Uploaded by High Contrast, CC 表示-継承 2.0, Link

ただし、日本の携帯電話産業を例に出すまでも無く、あまりに自国での使い勝手だけを優先しすぎた「ガラパゴス製品」は、どのような製品であれ国際的な競争力を持ちません

J37ビゲン”は、戦闘機でほかにパナヴィア トーネードくらいしか持たないスラストリバーサー(逆噴射装置)まで使ってSTOL性能を追求した高性能機だったにも関わらず、1機も輸出できませんでした

これらはスウェーデンの国情に合わせすぎた「ガラパゴス戦闘機」だったことが大きな一因で、至るところに使用されたスウェーデン製部品が、いざ戦争という時に中立国であるスウェーデンから輸入できるのかという大きな問題があったのです。
さらに、少なくとも表向きは自陣営に組み込まれることを拒否したスウェーデンの兵器産業が国際市場で幅を利かせることは、アメリカやイギリスなどにとって許せることではなく、外交的圧力がかけられたことも大きな要因でした。

似たような問題はグリペン開発時にも発生し、1988年に初飛行したグリペンは各国の航空ショーで熱心なデモフライトや、地上で360度旋回可能な狭いところでの取り回しの良さなどアピールを行ったものの、あまり各国の気を引けなかったのです。

1992年にスウェーデンが中立政策を放棄して以降は、明確に他国と連携した軍事・外交を行うようになったため、グリペンのセールスには有利に働き、地理的条件の似た東欧や経済的余裕は少ないものの高性能機を欲する各国で採用され始めています。
2017年現在での主な採用国は、南アフリカハンガリーチェコタイなど。

一応ステルス性やスーパークルーズ性能もあり

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By © Milan Nykodym, Czech Republic, CC 表示-継承 2.0, Link

もちろん中立政策の放棄ばかりがグリペンのセールス成功に貢献しているわけではなく、グリペン自体のコストパフォーマンスの高さが大きくモノを言っています。

基本的にはアメリカ製F404、またはF414をベースとした、スウェーデンのエンジンメーカー、ボルボ社製ターボファンエンジン1基を搭載した単発の軽戦闘機。
ベースエンジンが同じで3機のみの試作で終わったノースロップF-20タイガーシャーク”のスウェーデン版、あるいはアメリカの双発戦闘機F/A-18ホーネットシリーズの単発軽戦闘機版と言えます。

デルタ翼の主翼と、コクピット左右のエンジン用空気取り入れ口の脇には運動性を高めるカナード翼を持ち、エンジンノズルの向きを変更する複雑な機構こそ持たないものの、コンピューターによるデジタル制御で高い運動性能を持つのが特徴。
複合素材などを使って輸出のためのコスト削減と軽量化のため滑走距離こそやや長いものの、J37ビゲンより軽量化されたことで、使用可能な滑走路はむしろ多くなったほか、アフターバーナーを使わない超音速巡航性能(マッハ1.1)も有しています。

もちろんF-22やF-35といった本格ステルス戦闘機ほどではありませんが、RCS(レーダー反射面積)はそれ以前の戦闘機より大きく低減されており、超音速巡航性能と併せ、第4.5世代戦闘機としての要素は全て備えました
電子装備も最新のものを搭載しており、しかもユーロファイター・タイフーンのようにソフトウェア上の制約などありません

それでいてスウェーデン製戦闘機らしく整備性は非常に優れ、空対空装備なら10分、空対地装備でも20分で給油と再装備を行い、再出撃が可能な上に、エンジン交換すら小型クレーンと台車があれば3人で1時間程度。
ステルス機のような「見えない」能力より「実際に出撃できる能力」という意味でははるかに優れている上にコストの安い軽戦闘機ですから、ノースロップF-5やミコヤン・グレヴィッチMig21など東西の輸出戦闘機後継としては最適な選択肢と言えます。

採用国はあるのか? 艦上戦闘機シーグリペン

初期のマルチロールファイター(迎撃、戦闘爆撃、偵察までこなす多用途戦闘機)JAS39A以降、発展強化型JAS39E/FグリペンNGまでさまざまなバリエーションが開発されましたが、STOL性や整備性の良さを生かし、なんと艦上戦闘機型まで提案されています。

もちろんスウェーデン製戦闘機としては初で、“シーグリペン”または“グリペン・マリタイム”として、ハードな着艦に耐えるよう降着装置の強化や、海水による腐食に耐えるよう素材の変更、アレスティング・フックの追加などが改良内容です。

最初はインド海軍の空母「ヴィクラマーディティヤ」や「ヴィクラント」用に提案されたものの同国ではロシアのMig29Kを採用。
次いでカタパルト発進対応型がブラジル海軍の空母「サンパウロ」用に提案されたものの、同艦の退役決定で頓挫(ただし空軍がグリペンNGを採用)。

そのため現状で艦上戦闘機型グリペンを採用しそうな国はありませんが、インド海軍がMig29Kとともに運用予定だった国産戦闘機テジャスの開発が難航、艦上戦闘機型はキャンセルの可能性も高く、まだグリペン採用の可能性はゼロではありません

何と非武装のアグレッサー仕様まで?

さらにユニークなことに、2017年9月には非武装の「グリペン・アグレッサー」まで提案されました。

これは初期仕様の輸出型JAS39Cをベースにしたもので、最近は退役した軍用機を使った仮想敵機役など、訓練支援を委託された民間軍事会社が増加していることから、そうしたユーザーへ向けて「安価な高性能非武装機」を使わないか、というもの。

そうした企業ではイスラエル製のIAI クフィル、フランス製のダッソー ミラージュF1といった2~3世代ほど古い超音速戦闘機のほか、イギリス製のホーカー ハンターといった初期の亜音速ジェット戦闘機すらまだ使っています。
ハンターなど輸送機に積まれて日本でも沖縄などで使われていますから目にすることはありますが、いずれにせよどれもいささか古い機体なのは間違いありません。

中古機とはいえあまり古すぎると整備運用のコストが増えますし、何より性能不足で十分な訓練支援ができず、かつ最新鋭機のシミュレートまで難しい……となると、グリペン・アグレッサーにも案外需要はあるのではないでしょうか
民間企業向け最新鋭戦闘機」など前代未聞ですが、時代が変わったということかもしれませんね。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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