- コラム
実戦配備直前! など惜しかった試作機BEST5(米軍機編)
2017/10/11
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2017/12/13
菅野 直人
そのコクピット装甲や機体のしぶとさ、重火力と兵器搭載力によって「空飛ぶ戦車」「悪魔の十字架」などさまざまな異名を持つ、米空軍の攻撃機フェアチャイルドA-10サンダーボルトII。幾度も退役勧告を受けつつその都度復活し、今やいつ引退するのかすら誰にもわかりません。
制空権を獲得した戦場で地上部隊の上空を常に舞い、無線一本で荷物を届けるかのように爆弾やロケット弾を敵に叩きつける近接支援攻撃機。
小型機でも高性能の無線を搭載して前線やその上空の観測員とのリアルタイム交信が可能になり、搭載力にも余裕の出てきた第2次世界大戦で盛んになり、最初は専門の攻撃機が開発されていました。
そのうち、敵機に遭遇した時や攻撃終了後に空戦も可能な戦闘機がそれに代わり、「戦闘爆撃機(ドイツ語だと「ヤーボ」)」としての活躍が増えていきます。
ドイツ軍や日本軍の戦闘機と滅多に出会わなくなった連合軍機で多かったのですが、ドイツ軍でも東部戦線で、日本軍も零戦に爆弾を搭載した「爆戦」といった例がありました。
その後朝鮮戦争では中国軍のMig15ジェット戦闘機を除けば戦闘機の脅威はほとんど排除されたため、あらゆる戦闘機がこの任務に従事して地上部隊を援護。
その頃まではA-1スカイレーダーやB-26(A-26)インベーダーといったレシプロ攻撃機、F-51ムスタングやF4Uコルセアといったレシプロ戦闘機も数多く残っていたので、航続距離が短く、速すぎて小回りの効かないジェット戦闘機より活躍しています。
しかし、その後の米軍では「地上攻撃機や戦闘爆撃機とは、戦術核兵器で押し寄せるソ連軍やワルシャワ条約機構軍を吹き飛ばすもの」と定義された戦力整備がなされ、朝鮮戦争まで大活躍した「小回りの利く攻撃機や戦闘爆撃機」はほとんど無くなっていました。
かろうじて残っていたダグラスA-1スカイレーダーが米空海軍、海兵隊、南ベトナム空軍で使われたものの老朽化が激しく、さりとて有力な後継機も無かったので一時はA-1やF-51の再生産すら考慮されたほど。
いくら高性能のジェット戦闘機や攻撃機があっても「友軍地上部隊上空で、大量の爆弾などを抱えて長時間待機」をするには速すぎ、航続距離(滞空時間)が短すぎ、コストが高すぎ。
さりとて急場しのぎに投入した輸送機や練習機改造のガンシップやCOIN機(対ゲリラ戦機)は敵が有力な対空火器を持たない場合にしか投入できなかったり、爆弾などの搭載力が不十分でした。
そのため、高性能機を多数擁する有力な航空部隊を持ちながら、ベトナム戦争で米軍や同盟国軍は大いに苦戦することとなります。
ベトナム戦争での思わぬ苦戦から、自軍の装備計画の誤りを認めざるを得なかった米空軍では、新たな攻撃機計画を1967年から開始します。
検討の結果、A-1のように長時間の滞空性能と搭載力、優れた低空機動性に、ソ連のイリューシンIL-2“シュトゥルモビク”、ナチスドイツのユンカースJu87G、ヘンシェルHs129が持っていた大口径機関砲を組み合わせたものが最適と判断。
この検討結果を引き出すにあたっては、ナチスドイツ空軍で多数のソ連戦車を撃破して回ったJu87Gの名手、ハンス・ウルリッヒ・ルーデルの記録が大いに参考とされました。
これにより、生存性と大搭載力、機動性、前線での整備性、短距離離着陸能力を持ち、新型の30mmガトリング砲GAU-8“アヴェンジャー”を搭載する重攻撃機の仕様が固まります。
軍用機メーカー各社から提出された、いくつかのプランの中からノースロップYA-9とフェアチャイルドYA-10が実際の試作に進み、テストの結果、生存性が高く最低限の改修で量産に進めるYA-10が採用されました。
1973年1月、フェアチャイルドA-10“サンダーボルトII”の誕生です。
A-10最大の特徴は機首下面に固定装備された30mmガトリング砲“アヴェンジャー”で、主翼や胴体下面に多数用意されたハードポイント(兵器搭載ステーション)に最大7tも搭載可能な爆弾やロケット弾、ミサイルと合わせ、恐るべき火力を発揮しました。
さらにチタン装甲が施され、東側の代表的な対空火器である23mm機関砲どころか、57mm機関砲にすら耐えるコクピットをはじめ、機体各所に装甲が施され、大きな主翼は地上の対空火力からエンジンへの「盾」となります。
操縦系統は二重化されて被弾時にも操縦できる可能性を高め、機体の多くの部品が左右共通で作られていて、「右側の部品が被弾して壊れたけど左側の部品が無い」という事態を減らし、前線での修理を容易に。
未舗装や状態の悪い前線の滑走路でも運用できるよう低圧タイヤの使われた主脚は「半引き込み式」で車輪下部が露出しており、胴体着陸時の損傷を少なくする工夫も。
高速性能は要求されなかったため、最高速度はジェット機としては異例に低速な700km/h台に留まりますが、500km/h台の巡航速度で友軍上空に長時間滞空可能です。
こうしたA-10の特徴は、後に戦場でいかんなく発揮されます。
初の実戦となった湾岸戦争ではイラク軍から猛烈な対空射撃を浴びせられる中、数百発被弾して一時操縦不能になるものの、結局帰還して数日後には修理を終えて再出撃した例。
対空ミサイルに2基あるエンジンの1基を吹き飛ばされながら帰還した例など、数々の伝説を産みました。
湾岸戦争は多国籍軍の一方的勝利という印象がありますが、その一方でイラク軍防空部隊も奮闘しており、「戦闘爆撃機による低空攻撃による猛烈な損害」が目立ったのも事実です。
その中で、A-10は驚異的な生還率を誇り、「地上攻撃にしか使えないドン臭い低速攻撃機」という評価を一変させ、ことに友軍地上部隊からは圧倒的な信頼を得ました。
ただし、結果的に低速で緊急出撃的な任務に間に合わないことや、戦闘機や対空ミサイルといった脅威に弱いのではという危惧、誘導爆弾があれば他の飛行機でも任務をこなせる、地上攻撃しかできないのでコストパフォーマンスが悪い、という指摘が常にありました。
そのため1976年の配備当初から存在が疑問視され続け、冷戦末期にはF-16戦闘機にアヴェンジャー機関砲を搭載したA-16攻撃機などに更新され、1990年代には退役も決まっていたのです。
退役の決まったA-10は前線観測機OA-10に順次格下げを受けていましたが、前述のように湾岸戦争で通説を覆す大活躍を示す一方、A-10以外の戦闘爆撃機や攻撃機の大損害で価値が見直され、結局A-10の存続が決まりました。
確かに冷戦時代のような米ソが全力で激突する第3次世界大戦が起きていれば、A-10はあやふやな制空権の中、ソ連軍やワルシャワ条約機構軍の戦闘機によって大損害を受けていたかもしれません。
しかし、現実に冷戦終結でそのような事態は発生せず、代わって起きたのはイラクやアフガニスタンを相手にした、かつてのベトナム戦争のような地上攻撃任務でした。
そうした戦場で活躍するために作られたのですから、A-10が活躍するのは当たり前。
その後も対戦車ヘリがあればA-10より近くで大火力が投入されるので無用、と言われればイラク戦争で対戦車ヘリの損害が続出、陸軍からは「やっぱりA-10」と言われ。
さらに武装UAV(無人攻撃機)が台頭すれば「戦場から遠く離れたパイロットに何がわかる」、最新鋭ステルス戦闘機F-35に誘導爆弾を積めば解決と思われれば、「とにかく戦場上空に何かいないと落ち着かない」と、陸軍に反発され続けたのです。
困り果てた空軍は、いっそ「そんなに必要なら陸軍にA-10を譲るから」と言い出しますが、1948年に空軍が陸軍航空隊から独立した際のキーウエスト合意で「低速の連絡機や観測機、ヘリ以外は空軍機」と決めてしまっていたので、それも叶いませんでした。
結局、A-10は米陸軍からの熱烈なラブコールを受けて米空軍がいつまでも運用しなくてはいけないハメになり、「本当はF-35に全部統一したいんだけどな……」と愚痴をこぼされつつ、運用が続けられています。
1990年代半ばからはA-10AからA-10Cへの近代化改修が始められ、製造元のフェアチャイルド社が航空産業から撤退していたため、ロッキード・マーティン社が改修を手がけました。
アナログ計器からディスプレイパネルへ変更するグラスコクピット化や誘導兵器運用能力の向上、エンジン換装など改修を受けたA-10Cの能力はもちろん飛躍的に向上。
それでも2015年には国防予算削減で再び退役論が浮上しますが、IS(イスラミック・ステート)という強敵相手の果てしない戦争が始まり、またもやA-10が大活躍。
結局、A-10に代わる有力な後継機が無く、何より米陸軍からの同意も得られないので、米空軍はA-10運用の無期限延長、すなわち「いつ退役させていいものやらわからない」状態となっています。
幾度も退役の危機にさらされながら、その度に都合良く活躍できる戦争が勃発して延命してきたA-10は、まさに「戦争に魅入られた飛行機」なのかもしれません。
「米陸軍の将兵が最も愛する米空軍機」であり、本来のニックネームではなくウォート・ホッグ(イボイノシシ)の愛称で呼ばれることが多いA-10は、戦争が無くならない限り、いつまでも飛び続けるのでしょう。
「お早うクソッタレ共! ところでジョナスン訓練生、貴様は昨夜ケンカ騒ぎを起こしたそうだな? 言い訳を聞こうか?」
『ハッ! 報告致します! 磯臭いF-18乗り共がアヴェンジャーを指して『バルカン砲』と抜かしやがったため7砲身パンチを叩きこんだ次第であります!!』
「よろしい。貴様の度胸は褒めておこう。いいか、低空で殴りあうには1にも2にもクソ度胸だ。曳光弾をクラッカー程度に感じなければ一人前とは言えん。今回のジョナスン訓練生の件は不問に処そう。
だがアヴェンジャーを知らないオカマの海軍機乗りでも士官は士官だ。訓練生の貴様はそこを忘れないように。ではA-10訓、詠唱始めッ!!!!」
何のために生まれた!?
–A-10に乗るためだ!!
何のためにA-10に乗るんだ!?
–ゴミを吹っ飛ばすためだ!!
A-10は何故飛ぶんだ!?
–アヴェンジャーを運ぶためだ!!
お前が敵にすべき事は何だ!?
–機首と同軸アヴェンジャー!!!
アヴェンジャーは何故30mmなんだ!?
–F-16のオカマ野郎が20mmだからだ!!
アヴェンジャーとは何だ!?
–撃つまで撃たれ、撃った後は撃たれない!!
A-10とは何だ!?
–アパッチより強く! F-16より強く! F-111より強く! どれよりも安い!!
A-10乗りが食うものは!?
–ステーキとウィスキー!!
ロブスターとワインを食うのは誰だ!?
–前線早漏F-16!! ミサイル終わればおケツをまくるッ!!
お前の親父は誰だ!?
–ベトコン殺しのスカイレイダー!!
音速機とは気合いが違うッ!!
我等空軍攻撃機! 機銃上等! ミサイル上等! 被弾が怖くて空が飛べるか!!(×3回)
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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