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2017/12/4

菅野 直人

後ろは戦車、前はオートバイ、ケッテンクラート

その昔、技術的問題で装軌(キャタピラ)式装甲車の実用化が難しかった頃には、前輪が普通のタイヤ後輪だけ装軌式という「ハーフトラック」(半装軌車)が数多くありました。今でも軽トラや農機など民生用の一部に残るこの方式ですが、もっとも小型で空挺部隊向けに開発、近年ではアニメ「少女終末旅行」にも登場し注目されているのが、ドイツ軍の「ケッテンクラート」です。

空挺部隊用の小型牽引車が欲しい!

Bundesarchiv Bild 101I-725-0184-22, Russland, Soldaten auf Kettenkrad.jpg
By Bundesarchiv, Bild 101I-725-0184-22 / Reimers / CC-BY-SA 3.0, CC BY-SA 3.0 de, Link

ケッテンクラートが生まれたのは1940年。
ドイツ軍では空挺部隊用にグライダーへ搭載して強行着陸、歩兵の火力支援を行う無反動砲や迫撃砲など軽火砲の牽引が可能な、小型牽引車を求めていました。

もちろん、空挺作戦が行われる場所が舗装路ばかりではない、むしろそうした場所を守る敵陣地への攻撃や迂回を行うためには不整地へ降下して使用できなければいけないため、装軌車両である必要があります
(装軌車両とは、タイヤではなく一般的な意味での「キャタピラ」で走る車)

ただし、当時はまだエンジンや操縦装置が未発達の時期で、操縦や整備が容易で小馬力のエンジンでも十分な走行性能を持ち、ある程度は不整地でも行動可能で戦車にも追従できるハーフトラック(半装軌車)が全盛期です。
なおかつ、小型の輸送グライダーにも積める軽便な半装軌車ということで、前輪は通常のハーフトラックが左右2輪なのに対して、オートバイのように1輪式となりました。

これが1940年から試験的に生産の始まった制式名Sd.Kfz.2「ケッテンクラート」です。

見かけはオートバイ版ハーフトラックだったケッテンクラート

前輪が1輪式なことから「前はバイク、後ろは戦車」のように思われるため、戦前戦後の日本で多かった「オート三輪」のハーフトラック版にも見えるケッテンクラートですが、実際のメカニズムはオートバイともオート三輪とも、戦車とも全く違います。

すなわち、駆動力を路面に伝える履帯(キャタピラ)で不整地でもガンガン走るのは戦車と共通ですが、左右の履帯を逆回転させる超信地旋回(その場転回)はできないという意味で、戦車とは異なります。

それではオートバイやオート三輪のようにバー式のハンドルを左右に振って、前輪で方向を決めるかといえば然にあらず、主な方向変換は曲がりたい方向の内側履帯にブレーキをかけ、左右履帯の回転差で曲がるので、この点でオートバイやオート三輪とは別。

どこまでも「オートバイと戦車の中間的な乗り物」なケッテンクラートですが、それゆえ実は前輪が無くても普通に走れます。
前輪はあくまで舗装路面など平坦な道を走る時、車体の向きを変えるのに便利という程度です。

その軽便さから東部戦線の泥濘地で活躍

Bundesarchiv Bild 101I-154-1986-03, Russland, Kettenkrad mit Anhänger.jpg
By Bundesarchiv, Bild 101I-154-1986-03 / Knobloch, Ludwig / CC-BY-SA 3.0, CC BY-SA 3.0 de, Link

搭載量や乗車人員(運転手以外は2名)、牽引力は限られましたが、構造が単純で軽量なことから不整地走破能力は高いため、戦車のような全装軌式車両ですら走行が困難、ましてや普通の車輪式オートバイやサイドカー、トラックではまず走れない場面で役立ちます。

それが対ソ戦で雪解けの泥濘地に悩まされた東部戦線で、ケッテンクラートは本来の空挺用というより、路面を選ばずどこでも走っていける連絡用、あるいは電線や通信線の敷設用として大活躍したのでした。
これは現代でいえばスズキ ジムニーがさほどパワフルでなくとも軽量かつ頑丈なため大型オフローダー顔負けの悪路走破性を持ち、世界中で重宝されているのと理由を同じくしています。

実用的な最高速度は50km/hほどだったようですが、未舗装路の多い場所で使われることが多いケッテンクラートにそって、それだけの速度が出れば十分でした。

また、前輪無しでも走行可能な特性を活かし、東部戦線では前輪に泥が詰まって抵抗で不具合を生じないよう、最初から前輪無しで使われることが多かったようです。
その意味では戦前にイギリスで開発された軽装軌車、ユニバーサル・キャリアに似ているとも言えるでしょう。

軽便な装軌車として重宝されたので、無線操縦自走爆弾ゴリアテに代わり、途中まで有人運転、目標めがけて進路をとった後は無線操縦で突っ込む爆薬運搬車としても使われましたが、装甲を持たないため積極的な武装装甲車としては使用例があまりありません。

戦後も民生型が活躍、近年はアニメ「少女終末旅行」にも登場


このように使い勝手の良い車両だったので、戦後も西ドイツ(冷戦時代、統合前の西側世界にあった側のドイツ)のNSU社で民生型の生産が続行され、農業用や林業用などで引き続き使われました。

ドイツ軍を描いた漫画作品などでもしばしば登場していましたが、近年制作されたアニメ「少女終末旅行」では、科学が発展したものの人類がほとんど生存していない都市を、あてもなく彷徨う2人の少女が乗る主要メカとして、このケッテンクラートが使われています。

物語のかなりの部分で重要な役割を果たすのですが、この作品からケッテンクラートの存在を知った人も多いのでは無いでしょうか?
あるいは実在のメカと知らない人もいるかもしれませんが、第2次世界大戦のドイツ軍には欠かせない兵器です。

なお、第2次世界大戦後は技術の進歩で全装軌式、あるいは6輪、8輪駆動の装甲兵員輸送車や牽引車が実用化されたので、ハーフトラックの衰退とともにケッテンクラートのような車も作られなくなりました。
まさに時代の狭間で一時期のみ有用だったレア兵器と言えます。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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