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2017/11/29

菅野 直人

風の谷のナウシカの巨大飛行機バカガラスのモデル Me321 / 323 ギガント

宮崎駿の名作アニメにはしばしば「強大な軍事力を持つ勢力の巨人機」が登場しますが、それらのモデルが実在し、実戦投入までされていたことは意外に知られていないかもしれません。第2次世界大戦中最大級の航空機であり、最大の積載量を誇った輸送グライダー、メッサーシュミット Me321、そしてその動力化版Me323、その名も「ギガント」。

昔は効率が良いとされた軍用グライダー

Marine Corps gliders - Parris Island.jpg
By Alfred T. Palmer – This image is available from the United States Library of Congress‘s Prints and Photographs division under the digital ID fsac.1a35134.
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時は1930年代末から1940年代半ばにかけて、つまり第2次世界大戦真っ只中の頃ですが、「軍用輸送グライダー」が多数用いられていた時期がありました。

その頃すでにヘリコプターは登場していたものの、性能不足で運用方法も確立されていない実験的兵器の扱い(本格的に大量使用されたのは朝鮮戦争から)。
軍用輸送機も重量物、あるいは大量の兵員や兵器、物資を長距離輸送するにはまだパワー不足、あるいはハイパワーエンジンが戦闘機や爆撃機に必要なため使えない時代です。

さらに、ある程度大量の輸送機を確保できたとして、兵員や物資をパラシュート降下させていては、着地点が分散するため集合に時間がかかります。
そうした欠点を一挙解決するのが軍用グライダーで、ある程度兵員や物資がまとまった状態で直接敵地に強行着陸できる上に、エンジンなどが無いので再使用できなくともコストの負担が小さい、そうした利点があったのです。

主にヨーロッパ戦線でドイツ軍や連合軍により多用されたのですが、中型以下のグライダーでは数を揃えれば多数の兵員や物資を運べる反面、大きさのかさばる物資や車両、兵器は運べなかったので、その対策が求められました。

大型グライダー、メッサーシュミットMe321“ギガント”誕生

Messerschmitt Me323.jpg
By Royal Air Force official photographer –
This is photograph CH 15670 from the collections of the Imperial War Museums.
, パブリック・ドメイン, Link

この問題に対し、連合軍側はとにかく数を投入して上で空挺部隊用のバズーカ砲やジープなど軽便な兵器を開発し、海岸から上陸した強力な部隊が侵攻するまで持ちこたえる、あるいは敵後方をかく乱するという役目を持たせ、対策としました。

一方、より直接的な対策をとったのはドイツ軍で、1940年に広大な東部戦線(対ソ戦)で使用するため大型グライダーの開発を開始。
鋼管パイプフレーム式の構造に布張りという頑丈ながら軽量で生産や補修が容易な試作機がメッサーシュミットで完成し、Me321として正式採用されました。

総積載量23トンまたは完全武装の兵員120~130名、荷室長はドイツの鉄道貨物車の寸法に合わせて、「鉄道輸送可能なものはたいてい積める」がコンセプト。
ギガントと呼ばれたMe321により一度に大量輸送を可能にしたドイツ空軍でしたが、これだけの大型機で積荷を積めば大重量だと操縦に力が必要でかなりの重労働、離陸のため曳航するにも適当な機体がありません。

そのため初期には双発戦闘機メッサーシュミットBf110を3機使って引っ張る危険な曳航方式や、ハイケンルHe111爆撃機を左右2機結合して中央エンジンを追加した5発大型爆撃機He111Zを用いて、さらに飛行場によっては補助ロケットまで離陸に使いました。

しかししょせんは非動力のグライダーですから使い勝手は悪く、安全で整備された飛行場が近くに無いロシアの平原ではあまり役に立たずにMe321は放棄、動力型へ移行します。

第2次世界大戦最大の輸送機、Me323“ギガント”へ発展

Gigant italie 1943.jpg
By my father – estate of my father, パブリック・ドメイン, Link

そこで、高性能な戦闘機や爆撃機以外で多用されたフランス製ノームローン・エンジンを6基搭載したMe323が1942年に初飛行、基本的にMe321の主翼にエンジンを追加しただけのような構造だったので、愛称も“ギガント”のままでした。

自力で離着陸できるため運用の柔軟性が改善され、「普通の輸送機」として使えるようになった反面、エンジンや燃料の分だけ搭載力はやや落ちたと言われますが、実際の運用では25t級のIV号中戦車すら積むなど、過積載ながらかなりの輸送能力があったようです。

公式には搭載量20tまたは兵員60~80名と言われますが、それでも第2次世界大戦中最大の輸送機でした。
ただし、1,000馬力級エンジンを6基も追加したとはいえ“ギガント”の規模ではあまりにアンダーパワーで、実質的には輸送機というよりモーターグライダーと言った方が良いという代物。

構造が簡易だったのでコックピットやエンジン、燃料タンクに被弾しない限り撃墜困難と言われたものの、地中海超えの北アフリカ戦線補給ルートに投入されたMe323“ギガント”はその多くが撃墜されてしまいました。

ドイツ空軍の輸送機隊もそれ自体が戦争末期の大反撃、航空電撃戦“ボーデン・プラッツ”で戦闘機などの誘導機として使われ壊滅したので、Me323もそのほとんどが失われています。

宮崎アニメで乱舞する「魅力的なやられメカ」の原型

この「巨人輸送機・ギガント」はミリタリーマニアや航空マニアには、第2次世界大戦の時代に、後の戦術輸送機を先取りした先進的な飛行機として人気のある飛行機です。
その1人が日本アニメの巨匠、宮崎 駿監督で、1978年のTVアニメ「未来少年コナン」(NHK)に、その名も「ギガント」と呼ばれる巨人機を登場させます。

実在の“ギガント”が輸送機だったのに対し、未来少年コナン版「ギガント」はかつて世界を滅ぼした超兵器として描かれ、その大きさも全長、全幅ともに3倍以上という超大型機というよりまさに空中要塞。

カノン砲やレーザー砲を多数搭載した重武装機で、構造も実在の“ギガント”のように簡易ではなく、強固なブロック構造で損傷部分を切り離すギミックなども多数搭載、何か「ナチスドイツの超兵器」のようで、いかにも軍事オタクの宮崎 駿監督らしいメカでした。

その後1982年に原作漫画が連載開始、1984年には映画化されて、いわゆる宮崎アニメの出世作となった「風の谷のナウシカ」に、風の谷へ侵攻したトルメキア軍の巨人機「バカガラス」が登場。

これもMe321 / Me323“ギガント”をモデルとしており、戦闘用というより補助武装を多数備えた強襲輸送機(強襲揚陸艦)として描かれており、攻撃にあうと簡単に火を噴き僚機を巻き込み墜落するなど、基本的にはやられメカの扱いで、名前は違えど「バカガラス」の方が実在の“ギガント”に近いと言えます。

幻想的かつ大人びた世界観の構築で人気となったアニメを多数輩出した宮崎 駿監督ですが、“ギガント”に代表されるミリタリーマニア魂を劇中で存分に発揮しているのは、同類ならばよく知るところです。
「風の谷のナウシカ」ではほぼそのまんまの形でドイツ軍のIII号突撃砲モドキも登場していますし、ミリオタなら宮崎アニメには一般人と別の楽しみがありますね。

Stug III Dresden 1.jpg
By Darkone at de.wikipedia, CC BY-SA 2.0 de, Link

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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