- コラム
キスカ島奇跡の撤退(完)「本日ノ天佑我ニアリト信ズ」
2017/06/3
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2017/11/22
菅野 直人
北朝鮮が弾道ミサイルの発射実験を行い、全国瞬時警報システム(Jアラート)が早朝の日本に鳴り響いたのは2017年8月29日。数日後の9月3日には地下核実験も行い、とりあえず一旦「鳴りを潜めた」北朝鮮ですが、まるで時々噴火する火山のようです。2017年10月26日現在の情報から、北朝鮮情勢の現在と今後の見通しを予想します。
北朝鮮情勢が一気に動くキッカケとなったのは2017年8月末、米韓合同演習「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」の際中でした。
同月26日に短距離弾道ミサイル3発を発射すると、29日には日本の北海道・東北地方上空を通過して太平洋上に落下する中距離弾道ミサイルを発射。さらに米韓軍事演習が31日に終了後、9月3日には地下核実験を行いました。
演習に伴う緊張の高まりを避けるためか、韓国政府が米空軍のB-1B長距離戦術爆撃機の派遣を断ったと伝えられたリ、報道で「演習に米原子力空母2隻を派遣」と伝えられた割には参加しなかったなど、北朝鮮への刺激を緩めた中での出来事です。
演習そのものに反発したのか、それとも演習内容を緩めたために、もう1押しとばかりに各種実験を強行したのかという推測が流れていますが、いずれもそれなりに事前準備が必要なこともあって、現実には「スケジュール通り行った」に過ぎないという推測もあります。
北朝鮮を取り巻く各国の情勢、特に米国の軍事力展開に関しては盛んに報道されており、「あえてそうしている」と思えるほどひんぱんに情報が流されています。
時には情報通りに兵力が展開したり、時には「乙支フリーダムガーディアン」のように空騒ぎで終わることもありますが、それによって北朝鮮がどう動くのかを伺っているようなフシがあるのではないでしょうか。
米国が北朝鮮周辺への兵力を強化すると報じれば、北朝鮮がそれに反発して朝鮮中央通信などを通し過激なアピールをするのは既に「当たり前」過ぎるので、そこから一歩進んで、言ったとおりにしなかったらどう反応するのかな?と探っているように見えます。
たとえば「演習で原子力空母を2隻も派遣する」という情報を流し、それをやめてみたら北朝鮮はどうするか? 弾道ミサイルを発射し、核実験を行いました。
次に9月下旬、予告無しにグアムを発進したB-1B爆撃機が朝鮮半島東岸沖を北上、「朝鮮戦争以来もっとも北方まで飛行」しましたが、逆に何ら積極的な反応を示していません。
あまりに反応が薄いので米国が発表したところ、急に北朝鮮空軍の戦闘機が東岸の基地へ移動したと言われるほどです。
一部報道では「北朝鮮のレーダーはB-1Bをとらえておらず、防空網が機能していない」とすら報じましたが、その一方で対空ミサイルの捜索レーダーからの電波を捕捉したとも報じられているので、そこは曖昧なところ。いずれにせよ、北朝鮮に「挑発」というよりは「フェイント」をかけて、様子見しているという状態で、ある意味では米国がイニシアチブを握っているとも言えます。
前項で取り上げた米国による一連の動き、それに対応した北朝鮮の動きから推測できるのは、以下のポイントです。
●ただし行動には準備が必要で、一度動き出すとなかなか取り消せない。
●事前発表が無い突発的行動に対処する能力は低い。
●その結果、「事前に決めたスケジュールへの整然とした対応」と「突発事態への慌てふためいた対応」という、硬直化したお役所的仕事と見える。
●北朝鮮は現状をあくまで「平時」と認識?
我が国がかつて米国に仕掛けた真珠湾攻撃のように、「突発的事態への対処」というのは時代や国家体制、軍事力を問わず、容易ではありません。それでも「戦時」なら警戒を強化していますから、たとえ慌てふためき混乱したとしても、それなりに早く行動を起こします。
たとえば弾道ミサイルや核兵器の実験は「米の挑発に応じて」ならば、その挑発を引っ込めても実施する必要性があったのか疑問で、さらにB-1Bが突然飛んできても、迎撃機による監視くらいは行うべきです。現状はこのいずれもが行われず、すなわち北朝鮮は戦時体制、あるいはそれに準じた警戒を行わない、「全くの平時」にあると言えます。
ただし、それが意図的なものか、その能力が無いのかまでは全くわかりません。
米国のトランプ大統領が「我々はいつでも準備ができている」と余裕の構えでいることには、米国がその軍事力をいつでも行使できることを証明した一方で、北朝鮮が挑発的言動とは裏腹に、それに対する対抗姿勢を見せていないのが理由かもしれません。
普段の言動と、それを伝える報道、そして無責任に米朝対決をあおるような推測とは異なり、北朝鮮は米に対する敵対姿勢を持っていない、少なくとも口で敵対してもそれだけの話だと言えます。
北朝鮮の外相は「太平洋上で水爆実験を行うと示唆」しましたが、その一方で北朝鮮の高官が「実は米国と対話するチャンネルは常時ある」と発言しており、全ては米国に告知して「容認なり黙認」を受けて行っているのではないでしょうか。
そうなると、北朝鮮の行動は全て「予告した通りに、必要があれば修正して行っているだけ」で、米国が「その気」になった場合の対応は不可能なのかもしれません。
8月末の中距離弾道ミサイル発射実験も「グアムに撃つと米国が怒るというので日本の東方に変更した」と考えられますし、太平洋での水爆実験が実際に行われたとして、それも米国の容認、あるいは黙認を受けて行われる可能性があります。
さらに気になるのは、中国やロシアと北朝鮮の関係。
中国は今でも「北朝鮮にとっては」重要な貿易相手国ですし、ロシアも同様のはずです。しかし、この両国と北朝鮮の関係はギクシャクしていることが伝えられており、報道による推測はともかく、「ロシアとの船による定期便の運航停止」や「中国共産党大会への祝辞の内容が簡素化された」という事実があります。
本来なら米国をけん制する北朝鮮の動きを歓迎してもいいはずの両国ですが、その関係の冷え込みは「ロシアと中国がアメリカに気を使っている」ので無ければ、「北朝鮮が米国に気を使っている」ことへの不満という可能性も否定できません。
さらに、韓国に至っては経済制裁に関わらず人道的支援を行うと表明していますが、あえて無責任な推測をすれば、これは「韓国を通じたアメリカからの援助」という見方もできます。
韓国は周辺国の流れを無視するかのように対北朝鮮融和政策に転換、日米どころか国内からさえ批判の声が上がっていますが、米国に関して言えば「一応批判の姿勢はするものの、一方でTHAAD(弾道ミサイル迎撃システム)の配備は進める」という状況です。
これはアメリカが韓国に姿勢転換を促しているとも受け取れますが、韓国の国内世論を考えれば現状で対北朝鮮融和を行う必要性が薄く、どうも唐突に過ぎます。戦争に発展すれば、勝敗に関わらず致命的打撃を受ける可能性が高いという韓国の事情もくみ取りつつ、対北朝鮮政策において韓国はアメリカの出先機関、あるいは仲介役として機能しているのかもしれません。
10月下旬に入り、米国によるステルス戦闘機F35Aの増派や、アジア極東地域を主に担当する米第7艦隊に派遣される空母の増加などが伝えられる一方、北朝鮮の動きは低調になっています。
おそらく核ミサイルを搭載可能な潜水艦、そして新型ミサイル用のロケットエンジン実験など北朝鮮も地道な活動を続けていますが、「米国の顔色をうかがいつつ適度な緊張を保つ北朝鮮」という関係が、今後も続くのでは無いでしょうか。
全ては、米国のトランプ大統領が2018年11月に控えた米国の中間選挙に向けた外交ポイント稼ぎの一環、と考えれば、現状の緊張は2018年夏か秋ごろまで続き、その後劇的な転換点を迎えるのかもしれませんが、その程度で済めばと思います。
ただ、「北朝鮮など無くなれば平和になるのに」あるいは「この際だから戦争でも何でもして北朝鮮をつぶしてしまえ」という論調が強い今の世の中では、このような分析はなかなか受け入れられないかもしれませんが。
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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