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2017/11/8

菅野 直人

行く先は北極海か太平洋? ロシアの将来型原子力駆逐艦「リデル級」とは

「世界最強のシーパワー」を誇るアメリカ海軍や、急速に拡張中の中国海軍ほどではないものの、未だに海上での影響力確保をあきらめていないロシア海軍。予算不足でかつての旧ソ連海軍ほどの成長力はもちませんが、それでも新たな水上戦闘艦として原子力推進の大型艦を建造することが決まっています。この「原子力駆逐艦」と言うべき戦闘艦はどんなフネになるでしょうか?

ズムさんのライバルは原子力


引用:ロシア通信社ノーボスチ
ロシア海軍プロイェクト23560「23560型」あるいは「リデル級」と言われる大型艦を、ロシアは新たな艦隊の柱にしようとしています。

早ければ2019年には起工されると言われるこの大型艦、一般的な軍艦の艦種としては「駆逐艦」に分類されるものですが、決定したと言われる最終設計案では排水量17,500トン

これが基準排水量(厳密ではありませんが、フネそのものの重量と考えてください)なのか、満載排水量(同じく、計画上搭載すべき燃料弾薬など全て搭載した重量)なのかまでは定かではありませんが、近年の慣例としてはおそらく後者でしょう。

これはアメリカ海軍の最新鋭駆逐艦(というより、実質的にステルス戦闘実験艦)「ズムウォルト級」(満載排水量14,797トン)を上回り、しかも動力には原子力を採用すると言われています。

最終的に原子力とするかガスタービンとするかはまだ確定していないようですが、この「原子力駆逐艦」が実現すれば、「世界初の原子力駆逐艦」であるとともに、旧ソ連時代に建造された原子力ミサイル巡洋戦艦キーロフ級(現在のアドミラル・ウシャコフ級)以来の原子力水上戦闘艦です。

「テトリス」の背景にいそうな尖塔型上部構造物

引用:ロシア通信社ノーボスチ
この大型駆逐艦は通称「リデル級」と呼ばれており、完成予想図にあたる模型では縦横比で言えば非常に細長い艦体と、後部に非常に広いヘリコプター甲板を持っています。

上部構造物は極端にステスル性を意識しているものの、ズムウォルト級のように単純なレーダー波を吸収または上方にそらすような、上にすぼまったデザインではなく、多角形の構造物を何層かに積み上げたような形状。模型ではおそらくガスタービン機関用かと思われる太い煙突らしきものもあるので、最終的に原子力機関へ確定すればさらなる変更が予想されますが、全体的な印象として角ばった尖塔が前後に並んでいます

つまりイメージとしてはクレムリン(モスクワの宮殿)を思わせつつ、ステルス性を持たせた「角ばった宮殿」というものです。艦体もステルス艦の方程式として喫水線から上は内側に向かって傾斜しており、武装の類もVLS(垂直発射式ミサイル発射機)と、あとはやはりステルス形状の砲塔が目立つくらいで、砲身も実際には格納式になるのでしょうか。

排水量17,500トンの「艦載水雷艇」ってなんだ


このリデル級は満載排水量17,500トンという「駆逐艦」としては異例の大型艦

かつての原子力ミサイル巡洋戦艦キーロフ級が満載24,500トンでしたから、それに比べれば確かに小さいものの、1万トン越えの「駆逐艦」は非常に珍しいものです。

しかもロシア海軍では、旧ソ連時代を通じ伝統的にこの艦種を「艦隊水雷艇」と称してきましたから、余計に「これのどこが水雷艇?」と言いたくなります。

ただし、リデル級はあくまでロシア海軍向けで、「シグヴァル」と呼ばれる輸出版の存在も伝えられています。その意味でも、対外的には「駆逐艦」と称したいのでしょう。
昔のワシントン条約やロンドン条約で厳密に艦種が定義される時代では無いので、外洋での使用も想定した多用途水上戦闘艦は全て「駆逐艦」かそれに類する艦種が当てはめられています

我が日本にしたところで実質的なヘリ空母を「護衛艦」、DDHという艦種記号から対外的には「ヘリコプター駆逐艦」と称している現実からも、もはや大きさや用途に関わらず、空母や潜水艦以外の全てが「駆逐艦」と呼ばれてもおかしくはありません。

原子力機関で目指すのは北極海?


このリデル級駆逐艦は最高速力30ノット以上最大90日間の戦闘航海を行うことが可能で、60発の対艦ミサイル128発の対空ミサイルをVLSに収めると言われ、その他おそらくは格納式の16発の対潜ミサイル(ロケット爆雷)発射機その他の武装を持ちます。かつてのキーロフ級よりVLSセル数では上回り、それに応じた兵器の同時誘導・管制能力を持つでしょう。

ただし、それ単体では優れた能力を持ったとして、問題はそれを「どこで、どのような任務に投入するか」です。ロシア海軍における配備先としては、ムルマンスクを母港として北極圏を担当する北方艦隊と、ウラジオストクを母港として太平洋を担当する太平洋艦隊に2隻ずつ配備されると推定されます。

空母機動部隊の護衛艦としては数を揃えるのに向かず、そもそもロシア海軍は新型空母の建造すら計画しているとはいえ、現状は予算不足で唯一の空母「アドミラル・クズネツォフ」の近代化改装すらままならず、オーバーホールがやっとです。

そのため、ロシアから遠く離れた場所に空母機動部隊を展開して影響力を行使するような用途は考えられず、どちらかといえば長大な沿岸部を要するロシア近海の航路警備が主任務になるかもしれません。
そこで注目されるのが、地球温暖化の影響で流氷が減り、商用航路としての目途が経ちつつあるとともに、海底資源の採取もコスト面で折り合いがつきそうな北極海

ロシアはこの北極海に面した長大な沿岸部を持つため、黒海やバルト海とは異なり、同じ沿岸警備でも外洋に等しい長期間の航海能力が求められます。従来はここに原子力砕氷船を投入してきましたが、「普通の海」となる北極海での影響力を行使するため大型原子力駆逐艦が求められた、そう考えると筋の通る話です。

おそらくはムルマンスクを母港とする北方艦隊所属艦が北極海沿岸西部に、ウラジオストクを母港とする太平洋艦隊所属艦が同東部へと展開するようになるのではないでしょうか。

キーロフ級後継になるか?

Kirov-class battlecruiser.jpg
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キーロフ級ミサイル巡洋艦
 
現在、ロシア海軍では1980年代から1990年代にかけて整備したキーロフ級原子力ミサイル巡洋戦艦4隻のうち1隻(ピョートル・ヴェリーキイ)が現役です。
同艦は北方艦隊旗艦としてインド洋まで進出、インド海軍との合同演習やソマリア沖での海賊対策任務などにあたるなど活発な活動を見せています。

残る3隻について、ピョートル・ヴェリーキイを完成させるため部品取りとなった「アドミラル・ウシャコフ(旧キーロフ)」は状態の悪さから解体が決まったようで、艦名も既にソヴレメンヌイ級ミサイル駆逐艦に受け継がれています。

「アドミラル・ラーザリェフ(旧フルンゼ)」は太平洋艦隊で、「アドミラル・ナヒーモフ(旧カリーニン)」は北方艦隊で予備役ながら未だ洋上に留まり、近代化改装の上で復帰するとも言われていますが、定かではありません。

ピョートル・ヴェリーキイは延命のため既に近代化改装が始まったとも言われていますが、他の2隻、あるいは3隻についてはロシア海軍が常々悩まされる予算問題により現状および将来は不透明です。

今回の原子力駆逐艦リデル級が早ければ2019年に起工される、という情報が確かであれば、キーロフ級の近代化改装と同時進行は難しいと言わざるをえません

リデル級がピョートル・ヴェリーキイを除くキーロフ級の後継となるのか、あるいはキーロフ級の改装を待ってリデル級の整備が進められる可能性もあります。

その場合、「オルロフ・チェスメンスキー」になるとも言われるリデル級1番艦のみが先行して建造されて北方艦隊または太平洋艦隊に配備され、以降建造される同型艦のプロトタイプになることもありえるでしょう。それはキーロフ級でも採用された手法なので、意外と現実味があるかもしれません。

最近のロシア海軍は北極海だけではなく、成長著しい中国海軍を脅威に感じているという話もありますので、リデル級1番艦がまず太平洋艦隊に配属され、改装成ったキーロフ級アドミラル・ラーザリェフと大型艦2隻体制となる可能性もあるのではないでしょうか

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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