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2017/10/25

菅野 直人

軍事学入門(11)日本における核武装議論のメリットとデメリットとは何か?!

北朝鮮のおかげで再び高まっている「日本の核武装議論」。議論すること自体に意義があり、本当に保有するかどうかはまた別な話と言われていますが、そのメリットとは何か? 本当にメリットなのか? 違うアプローチは無いのか? を解説します。

核武装議論とは何か?


まず最初のポイントですが、そもそも「核武装議論とは何か? 何を意味するのか? 」ということです。一般的には、仮想敵国または現在進行形で敵対している国家が核兵器を保有している場合、それに対抗するため自らも核兵器を保有し、いざとなればその使用をためらわない姿勢を示すこと、ということになります。

核兵器を最初に開発し、それを日本に使用したのはアメリカ。アメリカと共通の敵(日本やドイツ)が無くなったことで、敵対するようになったソ連が続き、ソ連と敵対するイギリスやフランスが続き、ソ連にもアメリカにも敵対した中国……という形で、「核の拡散」が起きました

相手が核兵器を持たなくても、持っていることが疑わしい将来的に持つ能力があるということで核武装するケースもあり、インドやパキスタン、イスラエルなどがそれに該当し、また違う基点から核が拡散しています。

その目的は「自らも核兵器を保有することにより、相手が核兵器を使えば同じように報復する能力を持つことで、結果的に互いに核兵器の使用をためらわせる」これがもっとも大きく、核武装議論も技術的課題よりも、その目的にかなうかどうかが第一です。

妙な話ですが、核武装議論の第一歩は、「核兵器を保有することで、自らもそれを使うような事態を防ぐ」つまり核兵器が使われない世界を目指すため核兵器が必要だということになります。

日本における核武装議論


これは世界中どこでも同じで、日本での核武装議論も基本的には同様です。
若干異なるのは、「核兵器開発」「核武装議論」必ずしもイコールでは無いことで、日本における核武装議論は「アメリカ軍基地の核武装を許容するか否か」が主流となっています。

日本が自ら核武装するには当然自力開発となりますが、核兵器というものは通常兵器とは異なり、とりあえず作ってみて演習場で爆発させて試す、というわけにはいきません。

1963年にPTBT(部分的核実験禁止条約)が締結され、調印しなかった国も含め、北朝鮮ですら地下核実験以外は行っておらず、その規模も制限されています。となると限られた国土で地下核実験を行うため封鎖できる場所などまず無い日本では核兵器を実験的にでも爆発させることはできません

核兵器というのは非常にナーバスな兵器で、理論上はともかく現実で正常に作動し、想定した威力を発揮するかどうか、そしてその機能を維持する能力も含めて、実験によるデータの蓄積は不可欠です。

もちろん実験を経ずに「核兵器を作った」と公開してもいいわけですが、本当に作れたかどうかを証明しない限り、脅威としてみなされないのでは意味がありません。

だからこそ北朝鮮は盛んに地下核実験を行っているわけですが、国土の制約からそれが不可能な日本はアメリカの核実験場でも使わせてもらえない限り、独自の核兵器開発は不可能です。
それでも相手に対する核攻撃能力を持つ手段があり、それが在日米軍による核兵器持ち込みを許容し、いざという時その使用に反対もしないという姿勢となります。

日本は法的拘束力こそ持たないものの「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則を長らく国是としていたこともあり、現在も消極的ながらそれが生きていますが、その原則を完全に撤回しようというわけです。

日本における核武装議論のメリット


日本の核武装議論のメリットは、当然ながら北朝鮮の核武装に対抗しようという意味合いがあります。現在でも日本はアメリカの「核の傘」に守られていることになっており、仮に日本が核攻撃を受ければ、アメリカが報復する、そういうシナリオが大前提です。

しかし、現実的にアメリカが自国に核攻撃を受けていないのに、核報復を行う意思があるのか、あるとしてもそれを相手が確信しているか、その点がまず問題になります。

さらに「相手に核兵器の使用をためらわせる」という核武装の目的からすると、日本に核兵器が存在しないことは、相手(つまり北朝鮮)に対するプレッシャーとならないのではないか、そのためには在日米軍の核武装を容認すべきという意見です。

現実にはどこに核兵器があろうと、その気になれば米本土や海上の軍艦や潜水艦から発射すれば済む話ですが、これにも問題が無いわけではありません。
たとえば米本土からのICBM(大陸間弾道弾)や潜水艦からのSLBM(潜水艦発射型弾道弾)は、あまりに長射程すぎて周辺各国(つまりロシアや中国)から「自国を狙ったものではないのか」と過剰な反応、自動的な核報復の開始による核戦争誘発が懸念されます。

もちろん、発射後すぐ弾着地点も予想がつくので現実には起こりにくいのですが、それでも使いにくい兵器なのは確かです。

そのため、ごく近距離から目標を明確にした核攻撃を行えた方が使いやすいですし、近くに使用可能な核兵器があるということは相手へのプレッシャーにもなります。
この最後の相手へのプレッシャーが一番大事で、北朝鮮へのメッセージ性の高さが最高のメリットです。

日本における核武装議論のデメリット


ただし、こうしたメリットには条件があり、これが整わない場合そのままデメリットとなってしまいます。以下に2つほど紹介しましょう。

◆相手が核報復をされては困ると考えるか?

まず相手が「体制維持さえできれば後はどうなってもいい」と考えている場合、核報復をされて困らない可能性があります。

かつての日本は国体維持(つまり天皇制の維持)にこだわってポツダム宣言を黙殺し、それが叶うとわかって瞬間に事実上の無条件降伏を行いましたが、もし国体維持が不可能であれば、そのまま本土決戦が行われる可能性は皆無ではありませんでした。

その意味で日本の降伏に広島と長崎への核攻撃は関与しておらず、どう考えても国体維持など認めそうも無いソ連参戦と、連合国によるポツダム宣言さえ受け入れれば占領下でも国体は維持できるという説得が降伏の要因だったと言えます。

北朝鮮指導部も同様に考えているとすれば、間近の日本が核武装しても、大きな影響は与えられないでしょう

◆自国や周辺国が核兵器を使っても構わないか?

実はこれが日本にとっては大問題で、北朝鮮に対して核攻撃が行われ、大量の放射性物質が巻き上げられるようなことになった場合、それが偏西風によって東日本にそのまま流れてくる可能性があります。

偏西風、またの名をジェット気流とも呼ぶこの気流は、かつて日本もそれを利用して風船爆弾によるアメリカ本土攻撃を行った過去があり、台風の進路をねじ曲げるほど強力な高層気流です。そのため北朝鮮で山火事が発生するとその煙が日本の東北地方に流れてくることはよくあり、2017年5月にもそれが発生しています。

北朝鮮で核実験が行われた際に、空中に放射性物質が巻き上げられなかったか自衛隊機が調査を行うなど神経質になるくらいですから、北朝鮮に核攻撃など行った日には、少なくとも日本の東北地方まで放射能汚染される可能性が高いのです。

これでは事実上、日本からであろうとアメリカからであろうと北朝鮮への核攻撃など不可能で、仮に「東京が核攻撃されたので、東北地方が汚染されてもいいから北朝鮮に核攻撃しよう」などと言っても、住民にとってはたまったものではありません

これでは核報復などできませんからプレッシャーにも何もならず、実質的に日本での核武装議論は無意味、あるいはこうした影響を無視して議論されていると言えます。

それでも核武装議論に意味はあるのか

しかし、こうしたメリット、デメリットを天秤にかけた上で、デメリットが大きいほど核武装議論に意味があるという考え方もできます

それだけリスクがあっても核武装を議論するほど日本は本気で追い詰められ、怒っているという姿勢そのものが、北朝鮮へのプレッシャーになると期待できるからです。

現実に軍事的報復手段が非常に限定されているからこそ、「姿勢を示す」ことが最大の意義であり、本当に核武装するかどうかより、議論自体に意味があります。そのため、賛成と反対双方の意見を激しく戦わせつつ、議論自体をタブーにしないことが日本の対北朝鮮政策の中では大事だと言えるでしょう

もちろん、そのような議論が必要無い世の中になるのが一番なのですが、今はまだその時では無いのです。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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