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2017/09/9

菅野 直人

軍事学入門(10)「兵站の重要性~兵隊1人動かすために何人必要?


戦争を、軍事を理解し、そこに自分の意見を持つためには学んだ方が良い「軍事学」。なぜ人は、国家は戦争という手段に訴えるのか? そこに兵器や軍隊があるから戦争になるのか?

今回は「兵站」一般的には補給とか輸送とかそういうお話。戦争するのにどれだけの物資が必要なのを考えると、近代国家ほど簡単に戦争できないことがわかります。

最初のお題「兵士1人に対し、1日にどれだけ補給がいるか?」


まず大前提として、兵士とは人間です。であるからには、ただ生きているだけでも腹が減っては戦はできませんし、服も着ずに裸で戦争するわけにはいきません。着たきりスズメじゃ衛生面でもよくありませんし、衛生面と言えばケガや病気をした際の医薬品も必要です。

そして、そこで生きているためだけに存在しているわけでは無いので、武器が必要。現代なら剣や槍で戦うのは少々しんどい話なので、小は拳銃弾から大はロケットランチャーや対戦車ミサイル、対空ミサイルまで、弾が必要です。

さらに前線の兵士だけではなく、そこに物資を輸送する際の損害まで考慮しますと……1人の兵士が1日に必要とする物資は実に約8~14kg程度と言われています。

あくまで1人あたりに必要な物資を準備した上で、それを運ぶために必要な物資も含めて人数分で割った結果ですから、毎日補給部隊から10kg以上の大荷物を渡されるわけではありませんが。それが1週間なら約56~84kg、1,000人の部隊だったとして、約56~84tの物資が必要になります。

ちなみにこれは、車両などに乗らない歩兵だけの話であって、仮にそれが機械化部隊(トラックや装甲車に乗れる歩兵部隊)だと、最大でその10倍程度になるそうで、1,000人規模の機械化部隊を1週間行動させるだけで5.6万~8.4万トンの物資を準備しないといけません

現実はそんなに甘くありませんが……


もちろん、戦争映画など見るまでも無く現実は過酷で、補給も無いまま残りわずかな武器弾薬と乏しい食料で、規模も不明な敵を相手に死守せよ、など理不尽な命令が降ってわいてくるものです。

前項で書いたのはそういう意味では理想論ですが、少なくとも兵士に体力や士気、戦闘能力を維持させようと思えば、それだけの物資の準備を覚悟しないといけないと思ってください。遠くから飛行機やヘリで運ばないといけないケースもあるでしょうから、そうなるともっと必要ですね。

特に食料と医薬品は重要で、ベトナム戦争のケサン海兵基地攻防戦では、敵に包囲されたケサン基地に立てこもった米海兵隊は孤立無援で輸送機による補給が頼り。

「次の便ではコカコーラが来るぞ!」などという情報が入ると、武器弾薬の時より輸送機が下りるための援護射撃に一層身が入り、コカコーラ回収決死隊が出動したとも言われています。

そう、輸送部隊も単なる「運び屋」ではなく砲煙弾雨の中を強行着陸してくるわけで、輸送機とか補給部隊とかは楽なんだろうな~という想像はやめた方がいいでしょう。そうやって数々の犠牲の上に届けられた物資があってこそ、前線部隊は戦えます。

補給のためなら戦争も辞さない?!


このように前線で兵士を戦わせるのは凄まじい量の物資とそれを運ぶための兵站組織、つまり補給部隊が必要です。

この補給部隊が通過するルートは「補給線」と呼ばれ、これが切断されると前線部隊は途端に弱体化されるものですから、味方は守ろうと、敵は切断しようと必死になります。

時にはそれが戦争全体に影響を及ぼすもので、日本が太平洋戦争前にフランス領インドシナ(現在のベトナム)に進駐してアメリカやイギリスの機嫌を損ね、全面戦争不可避になってしまったり、その後もビルマ(現在のミャンマー)に侵攻したのもそれが理由でした。

つまり中国に対する補給線切断が目的で、太平洋戦争でアメリカやイギリスを相手に必死になっているようで、実は日中戦争を勝利に導くための作戦が戦争の引き金になったり、戦況悪化の原因になっていたのです。

ならば最初から戦争などしていなければ、補給線切断のため頑張る必要も無かったのではないか、と言われればその通りで、第2次世界大戦以降はほぼ独力で大規模な戦争を行う能力を持っていたのは米ソのみ

それ以外は米ソいずれかが作ってくれた補給路を頼みに戦争をするか、逆に米ソいずれか頼ろうとした国に干渉されて戦争をやめるかのどちらか。それくらい兵站(補給)というのは戦争に発展するかを左右するくらい重要だったのです。

ならば補給を潰せばいいじゃない?


そうなると、直接戦争に大部隊を派遣しなくても、最初から「補給線」を潰せばいいじゃないというわけで、戦闘爆撃機などを大量に持っている側はひたすらそれで相手の補給線を動く補給部隊や物資集積所を空爆で叩き潰すようになりました。

真正面から戦争するより早く終わりますし、何よりあまり歩兵を動かさなくていいので、自軍が前線に向けて大々的な補給路を作る必要がありません。

ただし、相手がゲリラなどで補給路も毛細血管のように細く多数ある場合は補給線を潰しきれず、戦争が長期化してしまいます。

アメリカが有志連合軍を組んでイラクのフセイン政権を早期打倒したものの、イラク正規軍が消滅してゲリラ戦やテロ戦術に移行された途端に長期化してしまい、その後シリア内戦まで巻き込みIS(イスラミックステート)をなかなか制圧できないのは、その代表的な例でしょう。

もっと言えば、補給の元を潰せばいいじゃない?


国家間戦争などはゲリラの殲滅より話はよほど簡単で、補給線を潰すだけではなく、攻撃手段さえあれば補給の元を潰してしまえば相手はもうお手上げです。

かつて日本はB-29による本土への大爆撃(家庭内工業や町工場レベルから潰すため都市ごと焼き払った)や、同じくB-29により投下された機雷による海上封鎖でお手上げになりました。

逆に、物資を続々吐き出す敵拠点が目の前にあっても攻撃手段が無ければ、単に敵の補給が短くて有利なだけ、というケースが朝鮮戦争で、日本は朝鮮特需により太平洋戦争後に奇跡の復興を果たします。問題は第二次朝鮮戦争が起こったとして、過去に日本が補給拠点として重要な役割を果たしたことを北朝鮮も忘れていないであろうことです。

敵対する国の補給線を脅かすほどの力を北朝鮮は持ちませんが、補給拠点を吹き飛ばせるだけの力を持つ(という見方もある)のが弾道ミサイル。
そう考えると、最も効果的な兵器開発で周辺国の動きを封じようとする北朝鮮の「軍事外交」の巧さが目立ちます。

それだけ兵站(補給)は大事であり、それを守る力の無い国や勢力は、どれだけ強力な戦力を持っていても、そう簡単に戦争してはいけません。太平洋戦争で苦労した日本人は、それを一番良く知っているはずです。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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