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2017/03/26

菅野 直人

懐かしの仮想戦記名タイトル(3)~第二次太平洋戦争~大石英司

日本の「真の独立」を目指し、自衛隊に無血制圧された在日米軍基地。アメリカはその意思を示すため、もっとも市街戦を併発しにくい三沢基地奪回へ。米軍からの激しい攻撃の矢面に立つ自衛隊は、タカ派同士である日米指導者が冷静さを取り戻す時間を稼ぐため、悲愴な覚悟を決めるのであった…タイトルとは裏腹に、現場の将兵による人間ドラマが見所の一作です。

199X年、在日米軍占領さる


過激な発言で有名な元・都知事をモデルとした人物、芦原氏が日本国総理大臣へ。かねてから考えていた「日本のアメリカ属国状態からの脱却」を図るべく自衛隊を動員して制圧、在日米軍からの撤退を迫るのでした…。

これだけでは「よくある仮想戦記」なのですが、よく考えてるなと思う部分もあります。

・日付は米軍の警戒も緩み、日本政府や自衛隊の要人が参加するパーティも行われる「サンクスギビングデー」(アメリカでは11月の第4木曜日に行われる感謝祭)に決行。

・在日米軍の方が圧倒的な規模を持ち、その気になれば凄惨な市街戦になってしまう沖縄は最初から休戦協定を結んで除外。

・あくまで籠城を決め込む在日米軍部隊や組織があれば、包囲するだけで何もせず、食料や医薬品など人道的物資は供給する。

つまり、計画を知る人間は最低限で、パーティに出席する日本側要人にすら知らされず、目を丸くしてしまうという機密保持と、あくまで米軍と戦闘を行ってまで急いで制圧しない、無血作戦ということ、それは見事に成功しました。

コンビニで買った地図で侵攻作戦?


一方、アメリカ側の大統領も強硬派もいいところな人物が就任しており、アメリカの威信を示すべく在日米軍基地の奪回を命令。

米軍は市街戦に発展する可能性が少ない三沢基地を奪還することとして、早速計画立案に取り掛かる…と思いきや、太平洋戦争以来の同盟国であり、自軍の基地まである日本に侵攻するなど考えたことも無かったもので、上陸適地を探す地図1枚ありません。

永住資格を得て米陸軍の空挺部隊に所属していた日本人兵士に尋ねると、「通信が遮断されていないなら、現地のコンビニならどこでも売っている地図をFAXでもらえばいい」と言われ、ポカンとする始末。

当時は詳細な地図と言えば軍事機密もいいところで、そんなものが手に入るのは日本くらいだったのです。

B-2 ステルス爆撃機 対 九三式艦上戦闘攻撃機「海燕」

B-2 Spirit original.jpg
By Staff Sgt. Bennie J. Davis III – この画像データはアメリカ合衆国空軍が ID 060530-F-5040D-22 で公開しているものです。

http://www.af.mil/shared/media/photodb/photos/060530-F-5040D-220.jpg (Originally from en.wikipedia; description page is/was here.), パブリック・ドメイン, Link

仮想戦記と言えばお約束の新兵器ですが、この作品では日本の航空機産業と航空自衛隊が極秘で開発した九三式艦上攻撃機「海燕」が登場します。

かつてノースロップ・グラマンとマグドネル・ダグラスが共同開発してロッキードF-22に競争試作で敗れたステルス戦闘機YF-23にソックリな機体で、主翼に装備したリフトファンと尾部の可変ノズルで垂直 / 短距離離着陸が可能なV / STOLステルス機。

そしてコンテナ船名目で建造した偽装空母「赤城」「加賀」

これに加えて、既存のミサイルシーカー(センサー)の常識を覆す、超高度なマルチモードシーカーを装備した「MODミサイル」が、日本と自衛隊が持つ自信の根拠です。

実際、先制攻撃をかけた米空軍のステルス戦略爆撃機B-2は、海燕のMODミサイルで発射したミサイルのほとんどを撃墜されて攻撃に失敗。

三陸沿岸に接近した米第七艦隊は、キャプター機雷(目標が接近するまで海底で待機する誘導魚雷)にイージス鑑を撃沈された挙句、陸自の地対艦ミサイルに空母インデペンデンスを撃破されます。

物量の米軍 vs 地の利を活かす自衛隊

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しかし、そこはまだ冷戦の名残で精強だった米軍です。米本土やアラスカ、グアムなどから空中給油を駆使して戦闘機や輸送機の大編隊と空挺部隊を送り込み、態勢を立て直した第七艦隊も海兵隊を上陸させます。

対する自衛隊も北海道から90式戦車を送り込み、増強された陸上自衛隊第九師団で対抗。
ただし、地の利があって迎撃準備も万全、米軍が押し寄せても片端から撃破できるはずの自衛隊は、意外な苦戦を強いられます。

それは、「自衛隊が本気になると米軍に悲劇的大損害を与えてしまうので、あくまで米国内の厭戦気分を盛り上げる程度の被害にとどめること」という、政府からの命令。

だったら自衛隊が大被害を受けるのは構わないのか…と苦悩する自衛隊指揮官ですが、前線では命令通りに一撃を与えては後退を繰り返す、という「土地を捨てて時間を稼ぐ」戦術を採りました。

始まった「戦場からのメモ」

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しかし、それでは時間が経つごとに自衛隊は米軍に圧倒され、最後は後退する場所すら無くなるのが目に見えています。

しかも、アメリカにそれだけ気を使っているということは決定的対立にまで発展したくないということですし、そもそも日米ともに現地の将兵には積極的に相手を憎む理由がありません。

アメリカの威信を守るという理由が一応あった米軍はともかく、ただ命令に従い、殺らねば殺られるという理由で戦うことに疑問を持っていた陸上自衛隊では、第9師団戦車隊で74式戦車に乗る、ある隊員の発案で「戦場からのメモ」が作られます。

自分たちの置かれた戦場の状況、なぜ戦わねばならないのかという疑問が率直に書かれたメモは、前線の戦車から後方へと送られました。

いよいよ追い詰められた自衛隊と、先を争うように突入する米軍

その間にも激戦は続き、続々と送り込まれる米軍の増援の前に、自衛隊の戦線は崩壊しながら後退していきます。

空爆で戦車や地上部隊が吹き飛び、海自の偽装空母も「赤城」が米原潜の対艦ミサイル攻撃で撃沈、制空権をF-15Jとともに支えた「海燕」も次々に撃墜され、隊長機は海岸に上陸する米軍へ突入。

そのような地獄の中でも、「戦場からのメモ」を送り出した74式戦車は、隊員が持ち込んだラジカセから井上陽水の曲をヤケ気味に流しながら、米軍に反撃しつつ普通科(歩兵)の隊員とともに三沢基地へと後退を続けます。残弾残りわずか、補給は無し。

そしてその頃、日米経済界と国連が極秘で立ち上げ、ロシアや中国も協力した平和維持部隊が編成されつつありました…。

突きつけられた戦場の現実、そして停戦

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いよいよ三沢基地になだれ込んだ米軍は、陸自残存部隊と施設や建物の1つ1つをめぐり、激しい激戦を繰り広げます。戦場はただ混乱した殺し合いの場となり、誰にも収拾がつかないのではと思われたその時。

日米双方で戦場を把握するため、将兵が身につけていた小型カメラの回線がジャックされ、戦場の過酷な現実が、日米双方の放送電波に乗せられました。

そして、国連事務総長の登場。
突然介入してきた国連平和維持部隊の行動に誰もが呆然とする中、一冊の手帳が芦原総理の元に届きます。

幾人もの手を経てボロボロになり、そのたびに明日をも知れぬ運命にさらされた自衛隊員たちの率直な想いを書き加えられた、「戦場からのメモ」です。

映像による現実と、「戦場からのメモ」に打ちのめされた日米双方の指導者はその場で停戦に同意し、全軍に戦闘停止を命令します。

まさにその瞬間、メモの主である74式戦車は最後の105mm戦車砲弾を撃ち尽くして後退していましたが、、砲口を向けた米軍の戦車長には戦闘停止命令はまだ届いておらず、発砲を命じない理由が無かったのです。そして静寂が訪れ、雪が舞い降りました…

まとめ・最後のニュース

もう動くことの無い鉄塊の中で、かろうじて機能を失わなかったラジカセから、井上陽水の「最後のニュース」が流れていました。

とても、とても悲しいとしか言いようのないシーンには、読んだことのない者が仮想戦記に思い浮かべる、華やかさや勇壮さは欠片もありません。

なぜ戦わねばならなかったのか、なぜ戦ってしまったのか、なぜ生き残れなかったのか、なぜ生き残ってしまったのか、なぜ、なぜ。

戦争や軍隊に対してどのような想いを持っているかを問わず、誰にでも一度は読んで欲しい一冊です。
あなたならその時、「戦場からのメモ」に何を書くでしょう?

次回は、世界の果てでの英ソ機動部隊対決、第三次世界大戦ジャンルの傑作、ジャン・アレン・プライス著「レッド・デルタ浮上す」をご紹介します。

第二次太平洋戦争 上 (C★NOVELS)

第二次太平洋戦争 下 (C★NOVELS)

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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