- コラム
ステルス機発展史「電波が『透ける』プラスチック製ステルス試験機ウィンデッカーYE-5」
2019/02/20
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2019/03/29
菅野 直人
By US Air Force from USA – F-15 Flies to Arctic Challenge, パブリック・ドメイン, Link
今でこそ「ステルス戦闘機最強!」というノリが強い戦闘機業界ですが、1990年頃までの冷戦期最強戦闘機といえば何といってもマグダネル・ダグラス(現ボーイング)F-15『イーグル』でした。かつてはあまりに高額で購入できるのはお金持ち国家だけと言われていましたが、現在は「ステルスより安い」と採用国が増えており、アメリカでも何とF-35の調達費用不足でF-15の新造機を購入しそうな流れ。「最高のF-15は最新のF-15だ」ということになるのでしょうか?
アメリカ空軍では現在も連邦空軍および州空軍へ配備し続けているF-15Cおよび複座型F-15D『イーグル』の後継として、これまでステルス戦闘機を配備する予定で予算獲得に奔走してきました。
しかし、1990年代に初飛行して今なお世界最強クラスの実力を誇ると言われるロッキードF-22『ラプター』や、それより1ランク下なものの最新鋭のロッキードF-35『ライトニングII』はいずれも開発遅延に高コスト体質で、いかに世界第1位のアメリカであろうと容易に予算は回せません。
というより、特に2001年の9.11(アメリカ同時多発テロ事件)以降、世界中のあちこちで戦争ばかりしているアメリカは戦費がかさんで予算がかなり厳しくなっており、空軍に限らず5軍(陸軍・空軍・海軍・海兵隊・沿岸警備隊)ともピーピーで、このうえ宇宙軍まで創設するというのですから、どの軍も最新鋭兵器を揃えるどころか、戦力維持に一苦労。
そのため、これまでは最新鋭戦闘機を配備し続けてきたアメリカ空軍も、ついに『型落ちの最新鋭機』を選択肢に含めないと、戦闘機の数を維持できない事態に陥りました。
そりゃ最新鋭機もいいけど、戦いは数だよ、兄貴!
国防総省か統合参謀本部で誰かそう言ったかわかりませんが、本音ではF-35で全機更新したいF-15C/D後継として、F-15の最新型F-15EXの調達が2020年度予算で決定しそうな勢いです。
そもそもF-15『イーグル』とはどんな戦闘機かといえば、1960年代後半に検討の始まったアメリカ空軍の次期主力戦闘機計画に基づき、1972年に初飛行した当時の最新鋭・最強戦闘機です。
次期的にはベトナム戦争で諸事情によりAAM(空対空ミサイル)での空中戦を制約された空軍が、「やっぱり戦闘爆撃機ばっかり持ってちゃダメだ、ちゃんと機動性が高く空中戦にも強い戦闘機がないと!」と考えて作ったように思えますが、話はそう単純ではありません。
ベトナム戦争では確かに格闘戦能力も優れていないと、AAMでの空戦でも優位に立てないことが証明されましたが、それより衝撃的だったのは1967年にモスクワの航空ショーで披露されたソ連の新型戦闘機、ことにミコヤン・グレヴィッチMiG-25『フォックスバット』戦闘機の性能を過大評価した影響が強かったと言われます。
もっとも、MiG-25やその他のソ連最新戦闘機は、ICBM(大陸間弾道ミサイル)全盛時代に入ってとっくの昔に不採用が決まっていた、アメリカ空軍のマッハ3級超音速爆撃機ノースアメリカンXB-70『ヴァルキリー』へ対抗するため開発されたものです。
既に存在意義が怪しくなっていたMiG-25でしたが、F-15は何だかよくわからないが強そうなソ連最新戦闘機を圧倒すべく開発に精を出し、その甲斐あってか初飛行時点では上昇速度記録や速度記録でMiG-25と争う高性能戦闘機となりました。
それだけでなく、迎撃と偵察は得意なもののマッハ3での飛行は素材の限界から短時間のみ、長距離侵攻や爆撃など他の任務への転用が利かないMiG-25と比べようもないほど、拡張性や多様な任務への対応能力に優れていました。
1974年から部隊配備の始まったF-15Aおよび複座型F-15B、そして現在も使われている発展型F-15C/Dは、『アメリカが誇る世界最強の戦闘機』として宣伝されたものの当時としては非常に高価な戦闘機で、前任機のF-4『ファントムII』と違って配備できる国は限られました。
当初導入・配備できたのはアメリカ(1974年配備、以下同)以外ではイスラエル(1976年)、日本(1981年)、サウジアラビア(1981年)の4か国のみで、よほどのお金持ち(日本・サウジアラビア)か、アメリカのバックアップを得ないと生き残れない国(イスラエル)くらいしか、欲しくとも買えなかった高級戦闘機だったのです。
しかしそれだけの価値はあり、常に戦争しながら歴史を刻んできたイスラエルでは1979年にシリア空軍機との空中戦で初勝利を挙げて以降、レバノン侵攻(1982年)でも同じくアメリカ製F-16『ファイティング・ファルコン』ともどもシリア空軍を圧倒し、対地攻撃でも活躍。
サウジアラビア空軍もイラン・イラク戦争中の1984年にイラン空軍機を撃墜、本家アメリカ空軍も湾岸戦争で初出撃して戦果を挙げて以降、空中戦での勝利を積み重ねてきました。
もちろん、敵方もF-15の撃墜を主張していますが公式には『空中戦で敵に撃墜されたF-15』は存在しないとされており、それが初飛行から47年たった今でも『世界最強クラスの戦闘機』と呼ばれる理由です。
なお、公式に『空中戦で撃墜されたF-15』は皆無ではなく、日本の航空自衛隊が演習中にF-15同士の模擬空戦中、誤射で1機を撃墜してしまったのが唯一の記録とされています。
ちなみにアメリカ空軍には戦闘機ナンバーがついているものの実質的には侵攻爆撃機であるF-111『アードバーク』がかつて配備されており、F-15がその後継機にも指名されて、侵攻爆撃型F-15E『ストライクイーグル』が1986年に初飛行、以後配備されました。
さらにアメリカでは最新鋭ステルス戦闘機F-22の量産型が初飛行(1997年)して以降、F-15の輸出制限を緩和したことや、F-15Eおよび輸出用派生モデルの生産が続いて機体価格も下がってきたことから採用国も増えています。
F-15C/DおよびF-15E、それらの派生型の採用国は前述の4か国のほか、韓国やシンガポール、カタールでも採用され、日本でもF-4EJ/同改の後継機として提案されるまでになりました。
もともと非ステルスの第4世代ジェット戦闘機では最高クラスの機動性と汎用性、信頼性を持つだけでなく、比較的大型な機体で拡張性も高いことから近代化改修で長く使い続けることが可能なのも評価され、21世紀にはいってしばらくたった2019年3月現在でも第一級の戦闘力を誇ります。
さすがにステルス戦闘機の編隊から電子的に連携したAAM攻撃を受けると手も足も出ませんが、そもそもそんな実力を持つ空軍はそうそういないので、F-15で通用してしまうのです。
おまけにステルス機はそもそもそれ自体が非常に高価な上に、ステルス性を維持するための整備補修コストなども莫大であり、それでいてソフトウェア面の問題で機能をフル発揮できるのかいつになるか、予算の問題も考えると将来が意外と不透明。
そのためF-35導入国でもF-4EJに加えて改修費用がかさむ初期ロットF-15Jを抱えた日本がF-35A/Bの大口注文を入れたものの、それより多く年間75機ペースでF-35Aを到達したいアメリカ空軍は、ついに議会の要求に屈することになったのでした。
とはいえ、アメリカ空軍がF-15C/Dの後継として採用予定と言われるF-15EXは主に最新電子装備で戦闘力を向上させたほか、機体寿命も大幅に延長され、さらに非ステルス機相手なら空戦は今でも強いのですから、決して『型落ちをガマンして使う』とまでは言えません。
F-15EXと並行してスローペースで配備されるF-35の数が揃うまでの『繋ぎ役』としての能力は十分で、特に維持補修コストはF-35より格段に低いことから、アメリカ空軍の戦力維持に大きく貢献するものと思われます。
さて、本家アメリカでそういう事になると気になるのが日本の航空自衛隊ですが、既にF-35AおよびSTOVL(短距離離陸/垂直着陸)型F-35Bの大量採用を決めていますし、後期ロットF-15Jも近代化改修で今後しばらくは使い続ける見込みです。
現在F-15のメーカーであるボーイングも日本へ発展型F-15を提案したものの、F/A-18E/F『スーパーホーネット』(通称『ライノ』または『スパホ』)へ一本化した挙句落選しています。
日本のF-35系大量採用は日米貿易摩擦解消という側面もあるので、安いからとF-35以外を購入する事は考えにくく、また航空自衛隊の戦闘機がほとんどF-15になってしまうと、何かの事情で世界中のF-15が飛行停止になってしまった場合に、はるかに数が少ないF-2でしか防空ができなくなるのもネックです。
そんなわけで、日本でF-15最新型が採用されることはなさそうですが、嘉手納(沖縄県)に展開する在日米空軍機などで今後見る機会が出るかもしれませんね。
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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