- コラム
平成軍事メモリアル(7)「軍事知識の拡散」~インターネットによる情報共有の時代~
2019/03/8
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2019/03/18
菅野 直人
平成時代以前から過去の戦争を主題にしたアニメや、遠い未来のSF世界で繰り広げられる戦争を舞台としたアニメは多数ありました。ゲームの類もコンピューター・ゲーム登場初期からむしろ切って離せないくらいでしたが、そこに一石を投じるどころかビッグウェーブを起こしたのが平成時代後半に盛んとなった兵器の擬人化による萌えキャラ化や、少女たちが主人公として登場し、兵器を操るアニメの登場でした。
ゲームの中でもいわゆるシミュレーションゲームなどボードゲームはともかく、近代的な意味でのゲームといえばやはりゲームセンターやファミコンで気軽に遊べるようになったコンピューター・ゲームでしょう。
それらが登場した頃はまだグラフィック能力が貧弱なため、侵略してきた宇宙人を砲台で迎撃する『インベーダー』はじめ、単純なシューティングゲームが多かったのでリアルな戦争を感じさせるものではありませんでしたが、アニメは一足早くその分野に踏み込んでいます。
有名どころでは筆者が生まれた昭和49年(1974年)にTV初放映となった『宇宙戦艦ヤマト』が「最新技術で宇宙戦艦として蘇った過去の大戦艦が、地球に侵略戦争を挑んできた宇宙帝国の迎撃を撃破し、放射能除去装置を回収して放射能汚染された地球を蘇らせる」という宇宙戦争をテーマにしています。
しかしこの時点ではまだロボットアニメを含むアニメ全般で多かった勧善懲悪モノの域をまだ出ておらず、時代劇『水戸黄門』のような様式美の世界に留まりました。
本格的に生々しい戦争を描き出したのは昭和54年(1979年)に初放映された『機動戦士ガンダム』(いわゆる『ファーストガンダム』)で、地球連邦のモビルスーツ(ロボット兵器)パイロットを主人公としつつ、『敵』であるジオン公国側にもスペースノイド(宇宙移民)の独立という大義を持たせます。
つまり『主人公の敵が悪者であり、その悪者にどれだけ魅力があろうとも結局は悪者なので、最後には倒してハッピーエンド』という勧善懲悪モノを脱し、ロボットアニメを通して生々しい戦争をかなりリアルに描き切ってみせました。
さらに昭和57年(1982年)初放映のマクロスシリーズ第1作『超時空要塞マクロス』では実在する兵器(グラマンF-14トムキャット)をモチーフに戦闘機(ファイター)が格闘形態のロボット(バトロイド)へ変形するなど実在兵器とロボットアニメの融合が図られます。
『マクロス』では軍隊組織や反戦思想なども『ファーストガンダム』以上に描かれたので、これもアニメを通して戦争の表裏、つまり華々しい戦闘シーンのみならず裏で悩み苦しむ人々をアニメ化した先駆けのひとつと言えました。
ポジション的にはガンダムがメジャー路線でマクロスがマニアック路線を歩むことになりますが、この2シリーズは時代とともに表現方法やメディアミックスの形を変えつつ現在まで長く続く長寿シリーズとなっています。
他にも『戦闘メカ ザブングル』『重戦機エルガイム』『大洋の牙ダグラム』『聖戦士ダンバイン』『銀河漂流バイファム』など後々まで語り草となるロボットアニメが登場していますが、いずれもゲリラなど反政府勢力だったり、少年少女宇宙漂流記でもある『バイファム』では「戦争は自分のビジネスだ」と達観した敵キャラの登場など、それぞれ特徴的。
これらは2足歩行巨人兵器(いわゆるスーパーロボット)というファンタジー要素を多く含みながら、舞台に生々しい戦争を選んだことで、ロボット以外に各キャラクターの人間的魅力を引き出すのに役立っており、生死の狭間で人間がもっとも正直になるというリアル路線だったと言えます。
平成時代初期までは昭和路線を引きずるアニメと戦争の関係ですが、そこに大きな一石を投じたのが平成7年(1995年)初放映の『新世紀エヴァンゲリオン』だったかもしれません。
物語自体は幼いながらも才能を認められた少年少女が汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオンを動かし、未成熟な精神ゆえに悩み苦しむという、表現方法こそ斬新だったものの昭和時代のアニメ作品とそう変わりなく。
しかし登場する兵器は近未来という時代設定に合わせた改変こそなされているものの、実在するものをベースにしたリアル路線であり、『国連軍』や、国連軍に編入された自衛隊の代替組織である『戦略自衛隊』など、現実に存在する組織やそれをモチーフにした組織が登場。
遠い未来ではなく近未来という舞台設定ゆえに、現実に存在する風景や組織と架空世界の融合は昭和63年(1988年)OVAで初出の『機動警察パトレイバー』という革命的作品があり、基本的に警察組織の作品ではありましたがTV版や劇場版含め自衛隊や米軍も登場、戒厳令下でありながら今ひとつ緊張感に欠けた東京などをリアルに描いていた前例があります。
『エヴァンゲリオン』ではそこから一歩推し進めて、「現実にはそうならなかったけど、もしまかり間違っていればありえたかもしれないパラレルワールド」を表現し、戦争や国家間の陰謀などを見事な作画や音楽とともに、当時の視聴者へガッチリ刷り込む作品でした。
昭和時代末期から『超兵器とそれを操る主人公たちや組織』が、戦争の中でどう翻弄されていくかを描くのは定番になっていましたが、そこで登場する国家や大組織が実在する、あるいは実在しそうな組織も平然と描かれるようになっていき、物語と現実の境目は縮まり、より身近なものへとなっていったのです。
『パトレイバー』や『エヴァンゲリオン』による現実の世界と近いパラレルワールド的作品で軍事が表現される路線は平成時代全般を通じて常に何作かは進行していきましたが、そこに猛烈なインパクトをもって登場したのが、平成25年(2013年)より配信開始されたブラウザゲーム『艦隊これくしょん』、略して『艦これ』でした。
出典:DMM GAMES
主に第2次世界大戦時に活躍した旧日本海軍の艦艇を『艦娘(かんむす)』として、少女の姿へ各艦艇の特徴を鎧のように着こませたような『擬人化』を行い(擬人化対象はその後各国の軍用艦艇などにも拡大)、さらに艦艇以外の飛行機や各種装備もコミカルに描いて、兵器の『萌えキャラ化』を一気に推し進めたのです。
しかもかつての乗艦が萌えキャラ化された感想を実際に従軍した老兵に尋ね、「可愛くていいんじゃないか」という感想が伝えられるに至って、英霊がどうのという批判を封じて兵器の擬人化は『解禁』。
以降、戦車や飛行機、銃など小火器、刀剣類に至るまで、およそ擬人化されていない兵器はないのではないか? と思える状況が現出します。
もっとも、旧日本海軍の艦艇を擬人化する手法は、各種艦船がなぜか女性(彼女)として扱われることが多かったためか、第2次世界大戦前にも当たり前のように存在し、アニメや漫画的手法での艦艇擬人化も平成時代に入ってから誌面などで登場していました。
いわゆる『萌えキャラゲー』としても平成19年(2007年)に発売された『萌え萌え2次大戦(略)』に『鋼の乙女』として擬人化された各種艦艇が登場しており、平成21年(2009年)に台湾でイラスト作品『陽炎少女-丹陽-』として発表され、平成23年(2011年)に日本で漫画連載の始まった『Battleship Girl -鋼鉄少女-』など、後の『艦これ』に極めて近いコンセプト。
いわば『艦これ』はマニアック層で盛り上がり始めていた兵器擬人化コンセプトを積極的に取り込み、さしてお金もかけずに手軽に遊べるブラウザゲームとして爆発的ヒットさせたところが最大の特徴で、売れてしまえば官軍とばかり、現在はこの路線のフロンティア的存在と見られています。
それまで左翼的思想の人からは『人殺しの道具』『軍国主義的』などと言われていた兵器は一気に人気キャラとしてスターダムへのし上がり、カワイイ女の子の事は二次元であれ何でも知りたい人々によってその軍歴は調査や研究対象となって、wikipediaの当該項目は猛烈な文字数で埋まり、Googleで検索しても艦これ関係が上位にくる始末。
かつてミリタリーマニアくらいしか知らなかった兵器の知識を二次元マニアがガッチリ頭へ叩きこむようになるのに、さして時間はかかりませんでした。
筆者もそこそこアニメは見る方ですが、兵器はあくまで兵器と見ているものの、『艦これ』など擬人化からミリタリーの世界へ足を踏み入れた人の場合、スペックや戦歴の説明とともに頭に浮かぶ兵器の姿は、実在するもののほかにもう1種類、可愛い美少女の姿だったりするわけです。
出典:BANDAI NAMCO Arts Channel(YouTube)
『艦これ』よりちょっと前の話になりますが、平成24年(2012年)初放映の『ガールズ&パンツァー』も衝撃作でした。
女子のたしなみとして『茶道』ならぬ『戦車道』が存在し、第2次世界大戦あたりの洗車を駆る女子高の美少女戦車道部員が、戦車砲や機関銃を発砲して互いに撃破しあう大会(戦車戦)が開かれている……もし初めてこの文章を目にする人がいたら「何がなんだかサッパリ」と目を白黒させるかもしれません。
しかし多少性能はデフォルメされているとはいえ、おおむね史実通りの性能を持つ戦車がかなりしっかりとした考証で描かれており、それでいて発射される弾は命中しても仲の乗員を殺すまでもなく単に『撃破』判定されるだけのダミー弾。
操るのはもちろん学校の制服を着こんだ女子高生ですから、リアルなのか何なのか次第に混乱してきますが、雪中戦では軍歌『雪の進軍』が歌われますし、ポルシェティーガーはエンジンをふかし過ぎると簡単に過負荷で火を噴きますし、イタリア軍装備の学校が登場すれば弱小装備の中で最後の切り札はもちろんP26/40重戦車。
つまり単純に美少女キャラが好きな人はもちろん、ミリタリーマニアが見ていても「うむむ……」とうなるネタ満載で、どう考えても『こりゃものすごく真面目に作られた作品だ』と認めざるをえません。
前述の『艦これ』とともに『ガールズ&パンツァー』、略して『ガルパン』もミリタリーマニアを増やすのに大きく貢献したほか、萌え系ミリタリーゲーム&アニメファンの需要に応えるべくゲームにせよアニメにせよ続々と新作が登場。
2019年3月現在では、同年1月に放映が始まった『荒野のコトブキ飛行隊』が、これも美少女の駆る第2次世界大戦当時の戦闘機やその機動が妙にリアルで、演出上で求められるデフォルメも最低限となっているのが話題となっています。
これらは全て『兵器をモチーフとして採用した娯楽』であり、ガンダムやマクロスのような戦争の悲劇を伝えるような重い要素は省いて肩の力を抜いた娯楽作品として仕上がっており、いわば『猛獣も動物園にいれば人気者になれるようなもの』かもしれません。
もちろん、世の中には二次元の世界を忌避する人も数多くいるとは思いますが、むやみやたらに忌み嫌われるよりはマシではあります。
あまり行き過ぎると、実際に戦争が起きた時の反動が怖いような気もしますが、逆に考えればこのような作品が人気を得ており、その影響で自衛隊などにも親近感があるくらいなら平和な時代が続いているということです。
できることならば、平成に続く新しい時代もこのような作品をノンキに楽しむ時代であってほしいと思います。
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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