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2018/12/5

菅野 直人

北朝鮮最新情勢『訪米をドタキャンした金英哲副委員長、トランプの中間選挙敗北は北朝鮮情勢にどう影響するか』

今年も日本海の大和堆(やまとたい)では北朝鮮の漁船団が大挙して不法操業を行い、核兵器の廃棄は進展する様子も無く、トランプ政権下のアメリカでは中間選挙で与党の共和党が敗北するなど、どうも明るい兆しが見えない北朝鮮情勢。こんな時に聞く北朝鮮関連のニュースは、普段よりネガティブな印象で受け止めてしまいがちです。







KTの火災でソウルが大混乱!あの漫画をつい思い出す

2018年11月24日、韓国の首都ソウル中心部地下にある通信ケーブル溝で火災が発生、消火までの10時間で通信回線や光ケーブルの焼失により約83万人分の通信網が損害を受け、3日間にわたって携帯電話やインターネットが使えない地域が出たとのこと。

韓国は日本よりクレジットカードや電子マネーによる電子決済が進んでいて現金を持ち歩く人がだいぶ減っているらしく、現地は現金を求めてATMに並ぶ人や、携帯電話が使えないので公衆電話に並ぶ人が多数出るなど、かなりの大混乱に陥ったようです。

まさに現代の情報化・電子化社会において、通信手段の喪失がどのような結果を招くかという典型的な例ですが、日本では2011年3月の東日本大震災で既に経験済み。
あるいは日本で電子決済が進まないのは、『有事の脆弱性をみんなわかっているから』なのかもしれませんが、筆者にはそれよりあるミリタリー漫画の一場面が思い浮かびました。

冷戦末期、ソ連軍による新潟・東京同時侵攻作戦と、混乱しながらも限られた戦力で迎撃する自衛隊を描いた『レイド・オン・トーキョー』(作:小林源文)では、初動段階でソ連軍の工作によりNTT大手町交換所が火災を起こし、首都圏中心部の大規模通信障害が発生しています。


レイド・オン・トーキョー

今回のKT(韓国の最大手通信事業者。日本でのNTTに相当)通信ケーブル火災が北朝鮮による侵攻作戦の序曲だった……と書けば漫画のような展開ですが、朝鮮半島有事にソウルを大混乱へ突き落とすのは、それほど苦労では無い、とわかる一幕でもありました。

アメリカ中間選挙で厳しさを増したトランプ政権と、来なかった金英哲

11月6日、アメリカでは就任後2年、任期の折り返し点を迎えたトランプ大統領への評価がくだされる中間選挙が行われ、即日開票の結果として与党の共和党は上院でこそ過半数を維持したものの、下院では民主党に敗北、過半数を奪われてしまいます。
これにてアメリカは上下院で『ねじれ』状態となり、トランプ大統領としては「これだけ好き勝手やった割には上出来だ」とばかりに強気ですが、次の大統領選挙で勝てるのかどうか、かなり微妙になってしまいました。

よほど焦ったのか中間選挙直後の11月8日には司法長官を解任、国土安全保障長官も近く解任するらしいと報じられており、自身が当選した大統領選挙を含む数々の疑惑をかわすのに必死さを増しています。

Kim Yong-chol.jpg
By United State Department of Statehttps://www.flickr.com/photos/statephotos/41752357664/, パブリック・ドメイン, Link

本来ならそんな真っ只中へ北朝鮮の金英哲(キム・ヨンチョル)副委員長が訪米してポンペオ国務長官と会談、2度目の米朝首脳会談に向けた調整が行われるはずでしたが、中間選挙に敗北した翌日の11月7日、突如として会談は延期になりました。
その原因たるや『乗ってくるはずの飛行機に金英哲が乗っていなかったのを知った国務省が、慌ててキャンセル』だったそうですから、正式な連絡すら無かったようで何ともお粗末な話です。

再開された対米批判と効き目を見せない経済制裁

さらに11月も下旬に入ると、それまで国営メディアで南北融和やアメリカとの関係改善などをアピールしていた北朝鮮国内で一般住民向け政治講演会が行われ、アメリカを批判するとともに『最後まで戦い決着をつけねばならない!』という思想教育が再開されたと言われ始めました。

北朝鮮国民としては今までが今までだっただけに「本当に平和が来て豊かになるもんなのかね?」と平和路線に半信半疑だったようなので、思想教育で対米批判の再開に「やっぱりそんなもんだよね」とすっかりあきらめムードな模様。

しかも経済制裁で北朝鮮への物資流入をガッチリ阻止しているつもりが、冬が近づくと日本海の好漁場『大和堆』へ今年も北朝鮮のイカ釣り漁船が大挙来襲、もちろん日本のEEZ(排他的経済水域)内ですから違法操業です。
海上保安庁や水産庁の監視取締船が奮闘しているものの多勢に無勢、しかも北朝鮮漁船に銃口を向けられたケースもあるとかで非武装の監視取締船は対応に苦慮し、一般漁船も怖くて近寄れず、日本のイカ釣り漁は深刻な危機に見舞われています。

結局、経済制裁をかいぐぐって北朝鮮には大量の物資・燃料が流れ込み続けていて効果が無く、軍から出動を命じられた北朝鮮漁船団は半ば海賊も同然で、北朝鮮はむしろ自信を強めているとしか言えません。

トランプが北朝鮮に見捨てられる日?

自信をつけた北朝鮮、中間選挙で勝てず苦境に陥っているアメリカのトランプ大統領、北朝鮮への融和政策を続行している韓国という構図の中、金英哲は訪米を中止し、北朝鮮国民への反米思想教育も再開したことで、平和に向かっているとは思えない状況です。

いずれも個別に見れば大した話では無いように思えますし、北朝鮮の国内向けプロパガンダや高官の予定キャンセルも「いつものことだ」で済む話ですが、タイミングよくパタパタと発生すると、この流れが行き着く先はどこなのだろう?と不安になってきます。

そもそも米朝の融和とは両国が国家として互いを認め……という性質のものではなく、単に北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長と、トランプ大統領の『個人的な合意』に限りなく近いので、どちらが欠けても先行きが見通せません。
中間選挙の結果、トランプ大統領とは長い目で見た付き合いはできそうにないと考えた金委員長はじめ北朝鮮指導部が、トランプ大統領を見限る可能性を示したのが、金英哲の『ドタキャン』だったのではないでしょうか。

まだ北朝鮮による対米批判は『アメリカに対して』に留まっていますが、これが『トランプに対して』の批判になると、いよいよミサイル発射実験など軍事的挑発再開のカウントダウンなのかな、と思います。

なお、強気の裏には中国の影が見え隠れしていても良さそうですが、アメリカの原子力空母が南シナ海での『自由の航行作戦』を行わず素通りしたり、香港に寄港したりと米中関係が急に悪化した動きが無いのも、かえって不気味です。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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