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2018/12/3

菅野 直人

軍事学入門「国家が国民から信用を得るための領土防衛」

今回は軍事学の根っこのようなお話。「なんで国防のための組織などあるのだろうなんで国は国防などするのだろう?」と考えたことはありますか? そもそも人は自由であり……と考える人もいると思いますが、最後の土壇場で国を頼る国民がいて、それを守る責任が国にはあり、その一環として国防も存在すると考えれば、どうでしょう?







国民の権利とそれを尊重しなければいけない国家


国家と国民の関係において大事な事とは何か?
国によってさまざまな事情による違いがありますので日本を例にして説明しますが、大雑把に言って日本国憲法第12条と13条がもっともわかりやすいかもしれません。

●日本国憲法第12条

この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

●日本国憲法第13条

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする



公共の福祉に反しない限り』、つまり他人の迷惑になるほどその権利を乱用しない限り国民とは個人として自由で幸福を追求する権利があり、国はその国民個人の権利を最大限に尊重しなくてはいけない、ということです。
要するに犯罪や、そこまでいかないまでも他人から見てよほどハタ迷惑な存在でも無い限り、国は国民の自由でいたい権利、幸福になりたい権利を尊重せねばならず、そのためには国民を不自由にしたり不幸にする存在から守らねばならないと。

「何だと! じゃあ国家そのものが国民を不自由や不幸にしてるから、国家から国民を守らなきゃダメだな!」
と言いたい人もいると思いますし、実際国へ裁判を起こす人もいますが、それはひとまず置いておきます。

国民の権利を侵すやつは誰だ!

日本という国家そのものに対するアレコレはさておくとしまして、他に国民を不自由や不幸にしてしまう存在とは何でしょう? ざっとすぐ思いつく限りで列挙します。

●海外旅行中に何らかの危害を加えられた。
●国内にいてどこかの国や組織、個人が危害を加えてきた。
●地震、風水害など各種天災。
●その他の人災。
●金が無い。

このうち、『金が無い』に対しては生活保護などのセーフティネットが(正常に機能しているかはさておき)存在し、それ以外は程度に応じて自治体や警察、消防、外務省などが対応していきますが、それらの組織には予算や人員装備その他の理由による限界があります。

さらに、国民を不自由や不幸にする相手によっては警察その他が出かけてどうにかなるものではない、つまり軍事力による攻撃へ交番のおまわりさんが拳銃持ってかけつけても意味がありませんから、相応する組織を国で持つ必要が出てくるわけです。
そしてその組織は、そもそも国民に不自由や不幸を強いる存在を、最初から日本に来ないよう普段から警戒して追い払ったり、無理やり日本に来るようなら実力行使で叩き出す能力も求められます。

もちろん台風が来るなと言って軍事力を行使してもどうにかなるものではありませんが、どうにかなりそうな相手には対処するのが『領土防衛』です。

国民を重大な危機から守る、効率的な領土防衛組織のあり方

領土防衛』などと言うと「そらやっぱり戦争するつもりだろう!」と言いたくなるかもしれませんが、相手が戦争を起こすような気を無くさせるべく普段から準備を怠らず、いざとなれば無傷で済むと思うなよ? という意思を示すのも『領土防衛』です。
さらに、自然災害に対する災害派遣、昔の戦争中の不発弾処理も、ある意味では国民の自由と幸福を守るための『領土防衛』とも考えられます。

単に災害派遣や不発弾処理だけなら防災専門組織を立ち上げてもいいのですが、災害が無くとも普段から訓練して人員や装備を維持し、いざ出動ともなれば国民へ負担をかけないよう自力で輸送や現地で自分たちの生活の面倒を見られる組織となると、結局それは軍隊並の組織です。

日本でいえば自衛隊をもう1セット作るようなものですから予算の無駄、税金の無駄遣いでこれまた国民の不自由と不幸の元ですから、あらゆる『領土防衛』を一手に引き受けられる組織として、自衛隊に任せるのが一番効率的であり憲法の理念に沿うのがわかるでしょう。

もっとも、今でも「人殺しに助けられたくない!」と主張する人はいますし、「災害現場に迷彩服を着てくるな! 他の作業着を着ろ!」など、その主張が国の予算と税金に過度の負担をかけると気づけない人もいます(そんな予算があれば社会福祉などに回した方がいいと思いますが)。
ただ、そうした人たちの最終的な目的は『恒久的な世界平和』なので、あんがい個々の主張の妥当性は割と適当で、真剣に考えても意味が無いかもしれません。

領土防衛のできない国家を、国民は信用しない

あなたが海外で何らかのヒドイ目にあった時、現地の日本大使館や領事館が何もしてくれなかったら? お金に困って生きていけなくなっても、国が生活保護を拒否したら? 犯罪が起きても警察が相手にしてくれなかったら?
どのケースでも、国民は国を恨み、信用しなくなります。

実際そうした国では「もうこんな国に住みたくない!」と脱出して難民になってしまうケースが世界中にありますが、日本でも国が国民を見放した! 国民も国を見放してやる! と考えれば、出て行く人も出るでしょう。
実際そうやって出ていく人はお金持ちくらいなものですし、貧乏人が命懸けで出ていくほど日本国民は国を見限ってはいないし、そうする必要もまだ無いのが現状です(単に出ていくのがメンドクサイだけの島国根性かもしれませんが)。

同様に、外国から軍事力をチラつかせられても何もできない、例えば占領されたわけではないにせよ、ある日突然外国の軍隊が大挙して押し寄せ、その国の観光客や労働者が好き勝手やっても日本人が何も口出しできなくなったら、「もうこんな国イヤだ!」とは思いませんか?

そんな事態になっては国民は不自由で不幸になりますし、そうなれば国家を信用しなくなり、そんな国は他の国からもマトモな国家として扱われず、誰からも信用されなくなります。
そこで国家にザマーミロと言っても国民の不自由や不幸に変わりはありませんから、誰にとっても不幸なことにならないよう、国防の必要性や領土防衛の意義を理解しましょう

もちろん、領土防衛のためなら何をしていいわけではなく、それがあくまで『国民の自由と幸福のためになるのか』を考え続け、予算の無駄遣いなど見つけたら言うべき事はキチンと言うのが一番大事であり、国民の権利なのは言うまでもありません。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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