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2018/10/3

菅野 直人

北朝鮮最新情勢『トランプ先生のダメ出しと、南北トレッキング外交』

2018年8月にはアメリカのポンペオ国務長官が訪朝中止、一時的に緊張が高まった北朝鮮情勢ですが、その後の流れを見る限り「もはや全てが米韓中朝首脳の個人的配慮で動いている」と言えそうです。2018年に入ってからの朝鮮半島情勢全てがそうであったように『現場レベルの困難をトップ外交で乗り切る、あるいはやり過ごす』のは良いのですが、いつになったら現場レベルでの進展が見られるのでしょうか?

『トランプ先生のダメ出し』で動いた北朝鮮情勢

Mike Pompeo official photo.jpg
By United States Department of Statehttps://www.state.gov/secretary/photo/283588.htm, パブリック・ドメイン, Link

米朝首脳会談(2018年6月12日)以降の急激な朝鮮半島雪解けムードに『ちょっとしたほころび』が生じたのは8月24日。
一応は核関連施設の稼働停止や地下核実験施設の爆破、その他一部施設の解体などが見られ、朝鮮半島(1950-1953年)時の米兵遺骨返還再開など進展しているように見えた米朝関係ですが、非核化協議のため訪朝するはずだったポンペオ国務長官の予定が急にキャンセルされました。

仕掛け人はもちろんアメリカのトランプ大統領。
うーん、非核化が十分に進展してないみたいだから、アメリカとしてもまだ時期尚早じゃないかと思い始めたんだよ、キミはどう思う?」
とばかりに、北朝鮮への『ダメ出し』をしてみせたのです。

まさにトランプ先生による赤ペンチェック! が炸裂したわけで、さすがにいつまでもニコニコと「いや、北朝鮮は頑張ってるよ信じてるよ。」とはいかなくなったのかもしれません。
あるいは大統領選挙時からの数々の不正疑惑の捜査や報道が一向に収まらないので、ここらで一発外交ポイントを稼ごうという戦略かもしれませんが、ともかく北朝鮮に対して『不満』を述べた上で半歩退いて見せました。

それまで北朝鮮当局は「ここまで譲歩したんだから、早く朝鮮戦争の終戦宣言をそして経済制裁解除を!」と訴えてきたわけですが、トランプ大統領の機嫌を損ねては金委員長に粛清されかねないのか、ともかくトランプ大統領個人への攻撃はしていません。
どうやら北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長による指導力には、まだ大きな陰りは無いようです。

控えめの北朝鮮軍事パレードにトランプ先生ご機嫌! 気になる中朝関係は

ちょっとした緊張下』で北朝鮮建国70周年軍事パレードが行われたのは9月9日。
節目となる年でもあり、さぞかし大々的に行われるのか、はたまた緊張を抑制すべく控えめに行われるのか? 会場となる首都・平壌(ピョンヤン)郊外には経済制裁下で厳しい燃料事情もあるだろうに多数の車列が衛星画像で確認されました。

しかし、結果的には例年通り多数の軍人や兵器によるパレードは行われたものの、『ICBMの発射トレーラーは無し』など、対外情勢に配慮した内容となったほか、パレード自体の様子も翌日に録画放送されるなど、北朝鮮国内での扱いもかなり小さなものに留まります。

これにニッコリしたのがトランプ大統領で、「北朝鮮が緊張緩和に向け努力しているのはよくわかった、これからも頑張りなさい」という趣旨のメッセージを発表しました。
パレードの内容を受けて態度こそあからさまに変えたもののそれだけ、少なくとも緊張をこれ以上高めるつもりは無い、ということで『現状維持』を伝えたわけですが、北朝鮮もそれに対して表立った反発をする様子も無し。

さらに中朝関係。事前の報道では「もしかしたら中国の習近平国家主席そのものが訪朝するかも?」とも言われていましたが、実際に訪朝してパレードを閲覧したのは習国家主席の特使、栗戦書常務委員。
金委員長と栗常務委員がにこやかに談笑、会場の民衆の前で抱き合って中朝関係良好なことをアピールはしたものの、深読みすれば『北朝鮮の指導者を相手に中国の国家主席が訪朝するまでもない』と冷淡な態度のようにも見えます。

あるいは米中経済戦争のさ中、アメリカとの関係が微妙になりかけた北朝鮮へ中国の国家主席が訪朝することで米中関係の亀裂を広げないように、という配慮があったかもしれません。
つまり北朝鮮も現時点で中国へ表立った積極関与を求めず、アメリカとのバランスを取った外交を目指し、中国もまた北朝鮮への態度を通して『アメリカとは経済戦争以外はしない』と表明したとも考えられます。

『トレッキング外交』で注目、文大統領再び

Sept. 2018 Inter-Korea Summit Gallery (13).jpg
By Blue House (S.Korea) – http://koreasummit.kr/Newsroom/Photos/749, KOGL Type 1, Link

9月18日~20日、平壌を韓国の文大統領が訪れて『南北首脳会談』が行われました。
2018年に入ってから米朝関係改善の前には必ず南北首脳による緊張緩和で『ワンクッション』を置くようになっており、今回もそれを踏襲した形だとすれば再び北朝鮮によるアメリカへの譲歩が続くようになるでしょう。
もちろん、それにトランプ大統領が納得するか、あるいは北朝鮮の金委員長が「もう我慢できない!」と憤慨するまでですが。

ここで注目したいのは、既に報道されている通り文大統領が北朝鮮の白頭山への登山を行ったことです。
過去にも訪朝した韓国の大統領が訪れたこともある白頭山ですが、『北朝鮮にとっての聖地』なため韓国の国内世論としてはあまりウケの良い場所では無く、一応「登山好きの文大統領の希望を容れて」と観光地を訪れた体にされましたが、政治的にはかなりのリスク。

いくら登山好きとはいえ文大統領自ら好んで訪れるものか?という疑問もあり、裏で絵図を描いているのはアメリカ、それもトランプ大統領が「マンネリ化しないよう南北融和を一歩推し進めておいで」と依頼? しているのかもしれません。
ともかく、韓国の国内世論より南北融和を優先させた文大統領の行動により、10月以降の米朝関係に新たな進展が見られるのはほぼ確実だと思われます。

いつまでも『トップ外交』の連続で良いのか

ここで気になるのは、やはりアメリカのトランプ大統領、北朝鮮の金委員長、間に入る韓国の文大統領と、『それぞれの国のトップ外交で全てが進んでいる』という現状です。
ともかくトップ同士はそれなりにツーカーで仲良くやっているように見えますが、現実を見れば軍事演習こそ抑えているものの、単にアメリカがよい機会だからと予算削減、あるいは代わりにイランなどへ圧力をかけているだけにも見えます。

トランプ大統領個人、あるいはそのブレーンにより朝鮮半島情勢がコントロールされており、形としては『トランプ大統領と金委員長が文大統領を間に交えて個人的に仲良くしている』一方、現場レベル北朝鮮の核兵器が廃棄されるような話は全く出てきません。

それでもとにかく北朝鮮が2017年以前のようにミサイルを立て続けに発射する『恫喝外交』に戻らないだけマシなのですが、問題は世襲制独裁者の金委員長と異なり、トランプ大統領も文大統領も民主主義体制下で選出された国家首脳という点。

つまりスキャンダルなど何らかの理由で両大統領のいずれかが失職したり、そうならなくとも任期満了となって影響力を失えばどうなるのか? という意味では、現状の『トップ同士がニコニコと仲良くしていればいい』という現状はちょっと危険です。

金委員長が『トランプ大統領や文大統領は、ヘタすれば死ぬまでその座に留まる自分と立場が異なる。』ことをどの程度理解しているのか、どちらか一方がいなくなれば雪解けムードが一気に崩壊する危険と隣り合わせな事を自覚し、行動を早めるかどうかが、今後の注目点と言えます。

もっとも、金委員長の独裁体制もそれに従う側近や軍部あっての話ですから、急激に大ナタを振るえるとも思えず、あくまで『金委員長の本意を忖度した周囲が自発的に融和を進める』形で、事態はゆっくり進行していくのがベストでしょう。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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