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2018/09/5

菅野 直人

北朝鮮最新情勢『ベストに染みを作ってまでトランプ大統領が北朝鮮への態度を硬化させた意味』

毎月お伝えしている北朝鮮情勢。米朝首脳会談からの一時期、「何かが良くなるのか、あるいはそうではないのか、どうなのだろう?」と懐疑的な声が多かった中、発表された合意内容そのままに「何となく良くなってるような気がしたり、そうでもなかったり」という曖昧な状況が続いています。かつて第2次世界大戦初期にポーランド戦以降戦火の少なかった『まやかし戦争』という時期がありましたが、さしずめこれは『まやかし合意』でしょうか。







ついにトランプも認めざるを得なかった『現実』


8月中旬に至るまで、北朝鮮を巡る問題は「かの国は果たして、本気で非核化に応じるのか?」という懐疑的な見方に終始してきましたが、米朝首脳会談(2018年6月12日)から2か月を過ぎた頃から「どうもその気が無さそうだ」という『確信』に変わりつつあります。

一部が確認されていた弾道ミサイル関連施設の解体が一向に進まず『ただのポーズ』に終始していた事実がハッキリしてきた事や、8月20日にIAEA(国際原子力機関)が「北朝鮮は寧辺(ヨンビョン)の核施設を依然稼働させている」という報告書を発表したからです。
非核化のための行動が停滞しているだけならば「誰かが書類にサインし忘れているのだろう」という手続き上の問題も考えられますが、核施設の稼働は非核化とは全く真逆の行動であり、あってはならない事。

結局、北朝鮮が平和に向けて起こした行動は『韓国との交流を回復するための実務者レベル協議』と『朝鮮戦争時の米兵遺骨一部返還』に留まり、事実上何もしていません。
これまでは「いや、実は実務者レベル協議は進んでいるし、やるべき事を始めているよ」と北朝鮮を、というより自らが執り行った米朝首脳会談での合意を擁護していたアメリカのトランプ大統領も、ついに渋々ながら重い腰を上げなければいけなくなりました。

8月27日に非核化に向けた対話を行う予定だったポンペオ国務長官の訪朝を8月24日になって突然キャンセルさせ、その理由として「北朝鮮が非核化を進めていない」と認めたのです。

北朝鮮への揺さぶりか、あるいは深刻な事態なのか

トランプ大統領としては、現実はどうあれ「北朝鮮が非核化に向けて動いている」という調査結果さえあれば、それを自らの成果として中間選挙(2018年11月)に挑む予定だったはずですが、調査結果は全て北朝鮮にそのような動きは無い、と断ずるものでした。

このままでは『米朝首脳会談の成果』どころか、『北朝鮮から手玉に取られた無能な政権』として、政敵から追求の口実を与えるだけです。
この段階に至ってまで北朝鮮を擁護し、自らの成果を自画自賛していては中間選挙に勝てないと所属政党の共和党重鎮からの突き上げがあったのかもしれません。

実際、トランプ大統領の大統領選挙をはじめとする数々の疑惑に対して関係者の証言が始まっており、どうも『身内』も含めてトランプをかばいきれない、という雰囲気が増しているとさえ言えます。
こうなってはトランプ大統領も自らの『成果』に傷をつけつつ、北朝鮮への追及を再開しなくてはならなくなりました。

もっとも、この「上げたり落としたり、すねてみたり持ち上げられて喜んだり」と喜怒哀楽の激しすぎるのがトランプ大統領最大の問題なのですが、ほんの半歩でも北朝鮮が譲歩すればそれを足掛かりに北朝鮮を擁護するところ、それすらも無い状況なのでしょう。

繰り返しますが、これまでトランプ大統領が示してきた『北朝鮮を甘やかす姿勢』は、米朝首脳会談での合意という『自分の成果を自画自賛』を意味してきました。
つまり北朝鮮への批判は今や全て自分に帰ってくる状況なのに、それでもなお踏み切るという事は、北朝鮮問題は今までに無く深刻な事態になっている可能性があります。

北朝鮮の態度次第では、再び動く韓国や中国

もちろん、トランプ大統領の姿勢に影響を与えているのはただ北朝鮮1国のみならず、貿易摩擦拡大による関税引き上げによって、経済戦争の様相を呈している米中関係も大きな要因です。
事実上の宗主国』と言える中国(中華人民共和国)がアメリカとの闘争に入った以上、『事実上の属国』である北朝鮮が『アメリカとの単独和平』には踏み切りにくい、という現状は、米朝関係にも大きな影を落としています。

そのため、トランプ大統領による北朝鮮への態度硬化は中国への間接的なメッセージとも考えられますし、逆に北朝鮮が次に起こすアクションが中国からアメリカへの間接的なメッセージという見方もできます。

それは北朝鮮がポンペオ米国務長官の訪朝中止に対してどのようなアクションを起こすかで明らかになる見通しで、中国が何も関連した動きを見せなければそれは『中国からのメッセージ』。
逆に北朝鮮のアクションに中国が慌てて反応するような事があれば、『またもや北朝鮮が中国のコントロールを外れかけている』証拠とも言えるので、今後中国すべきは『北朝鮮のアクションと、それに関連した中国の動き』です。

なお、トランプ大統領の態度硬化に関連して、かつてはアメリカとの関係をとりもって米朝首脳会談につなげた韓国、および同国の文大統領は目立った動きを見せていません。

一応、8月26日には韓国大統領府の報道官が失望と今後の懸念、一層大きくなる韓国の役割といった点を強調していましたが、8月24日に発表されたポンペオ国務長官訪朝中止という動きに対して、ついていけていないようです。
そのためアメリカと韓国の連携がうまくとれていないという指摘も見られ、今後の韓国の動きがどのようなスピードでアメリカの(というかトランプ大統領のツイートの)動きについていけているかも、注目すべきポイントでしょう。

日本は『破壊措置命令』を再強化するか? そして9月9日の北朝鮮軍事パレードは?

折しも2018年9月9日には北朝鮮が建国70周年記念日の軍事パレードを首都・平壌(ピョンヤン)で行う予定です。
今年2月に開催されたパレードより大規模になると言われてはいますが、規模よりはパレードでどのような兵器が現れるのかが注目点で、ここでこれみよがしに弾道ミサイルまでパレードされた日には、目も当てられません。

そもそも北朝鮮はICBM(大陸間弾道弾)の開発終了を宣言した上に、その放棄まではまだ表明していないのだから、むしろパレードに加わるのが当然。」

と、今から冷静な対応を呼びかける意見もありますが、もし登場すればメディアが大々的に報道しますし、関連国の政治家は何らかのコメントを求められます。
通常ならば慎重に検討した上で、差し当たり当たり障りの無いコメントに終始するところでしょうが、過激発言で有名なトランプ大統領の場合は何が飛び出すかわかりません。

とはいえ、どれだけ北朝鮮を『口撃』しても大した話では無く、問題があるとすれば金委員長への『ロケットマン』呼ばわりを再開した場合です。
どうもトランプ大統領と北朝鮮の金委員長には『国家元首としての立場を超えた個人的な何か』があるようで、トランプ大統領は金委員長に対して、そして北朝鮮もトランプ大統領個人に関しては過激な意見を避けています。
この関係が続く限りは最悪の事態は避けられるはずですが、それが終わった場合は注意しねばなりません。

最後に日本に関してですが、飛来する弾道ミサイルに対する『破壊措置命令』がポイントです。
現在も発令続行中なものの、2018年6月下旬に海自(海上自衛隊)のイージス艦による24時間即応態勢を解除するなどいくらか緩和されており、最近になって来航する海外の軍艦とイージス艦が親善訓練を行う様子が報じられるなど、緊張緩和ムードが伝えられていました。

まさか日本が先頭を切って緊張を高めるわけにいかないので、米朝中韓といった他の関係国の動き無しに単独で『破壊措置命令の強化』が行われるとは思えません。
しかし、もし海自イージス艦の動静があまり報じられなくなったら、それだけで緊張が高まる予兆だと考えた方がいいでしょう。

逆に海自イージス艦が呑気に親善演習に参加している内は、まだまだ北朝鮮情勢には余裕があるということです。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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