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2018/09/3

菅野 直人

今月の軍事トピック「女王陛下に栄光あれ!HMSアルビオン日本へ来航」

毎月起きる中で注目したい軍事的な出来事を紹介する『今月の軍事トピック』。2018年8月ははるばる日本へ来航し、8月4~5日に艦内一般公開が行われたイギリス海軍の揚陸艦『アルビオン』です。英国面に堕ちたブリテンマニアだけでなく、なぜかガンダムマニアまで巻き込むちょっとしたイベントの様相を呈したようで?







晴海で公開されたHMSアルビオンってどんなフネ?

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By Photo: LA(PHOT) Joel Rouse/MOD, OGL, Link

2018年8月3日、東京の晴海ふ頭に1隻の軍艦が入港しました。
その名はHMS『アルビオン』、イギリス海軍のアルビオン級揚陸艦のネームシップ(1番艦)です。

元々、イギリスは第2次世界大戦後の大英帝国縮小期にあってもまだまだ維持されていた海外領土を守るため、『フィアレス』級揚陸艦2隻を保有していたものの、国防予算削減で1980年代前半には2隻とも後継艦も無いまま退役させることになっていました。

しかし1982年のフォークランド紛争でイギリスは揚陸艦戦力の必要性を痛感、フィアレス級を延命させるとともに後継艦の建造を決定。
その間に冷戦終結による国防予算減額もあり、結局実現したのはフォークランド紛争から20年以上たってからになりましたが、2003年6月にようやく1番艦アルビオンが就役したのです。

日本の海上自衛隊で同ジャンル艦『おおすみ』級輸送艦と比較すると、全長178mは同じながら『おおすみ』の全幅25.8mに対し『アルビオン』は28.9mと一回り大きく、基準排水量8,900tに対し14,600tとだいぶ重量級。
おおすみ』が全通式甲板に車両やヘリを載せて上部構造物はアッサリしているのに対し、『アルビオン』はフラットな後部甲板の前に堂々たる艦上構造物を持つのが大きな違いです。

エア・クッション型揚陸艇(ホバークラフト)の搭載数はどちらも2隻ですが、『アルビオン』では通常艦内のウェルドック(艦内に注水して舟艇や水陸両用車を直接海上へ発進可能)に戦車揚陸艇4隻、小型揚陸艇4隻を搭載可能な柔軟性重視仕様。

兵員収容能力や車両輸送能力は『おおすみ』の方が上回っていますが、基本的には専守防衛のため用途を限定できる日本と異なり、1つ1つの能力は小さくとも任務の多様性や遠隔地への進出能力を重んじていると言えるかもしれません。

実際、『おおすみ』級を逆にイギリスに派遣して多様な任務につけようと思っても、今回の『アルビオン』のように手慣れたものとはいかないかもしれないわけです。

Youは日本へ何しに?

そんなアルビオンですが、遠くイギリスからどのような任務で日本に来たのでしょう?

通常、遠い外国から軍艦が来航する場合は練習艦による遠洋訓練航海、あるいは親善訪問といったケースが多いと言えます。
例外は日本の横須賀や佐世保に基地を持ち、原子力空母以下強力な艦艇も配備しているアメリカ海軍くらいですが、『アルビオン』が日本に来たのも、どちらかといえばアメリカ寄りの事情です。

すなわち、イギリス軍は朝鮮戦争(1950-1953年)に国連軍として参戦、結果的に朝鮮戦争は休戦のみで『まだ戦争は終わっていない』状態のため、普段はほとんど米軍のみながら朝鮮半島における国連軍も組織的には継続しています。

そして現在、朝鮮半島では核兵器と弾道ミサイル開発と実験を強行し続けていた北朝鮮に対して国際的な経済制裁を実行中であり、『制裁破り』を行って洋上で石油や物資を北朝鮮の船に移送しようとする『瀬取り行為』を監視しなければなりません。

この監視は国連軍やそれに協力する自衛隊も加わっていますが、その一翼を担い、かつ未だにイギリス領土もあるアジア太平洋地域での存在感を強め、アメリカにも協力する姿勢を見せるべく、イギリス海軍は国連軍の一員として軍艦を派遣してきました。

なお、『アルビオン』のみならず23型フリゲート『サザーランド』も同時期に派遣して2隻で2018年4月より朝鮮半島周辺に展開しており、12月には『サザーランド』の同型艦『アーガイル』も展開予定。
さらに将来的には、2018年8月現在F-35B戦闘機の搭載テストを行うべくアメリカに向かった空母『クイーン・エリザベス』など空母機動部隊も日本への来航が見込まれています。

なぜガン〇ムネタが……

滅多に見ないイギリス海軍、それも練習艦やフリゲート艦ではなく揚陸艦ですから、軍事マニアとしては注目し、余裕のある人は8月4~5日の一般公開も楽しみにしていたところ。
しかしインターネットではSNSを中心に「ガンダムはガンダムはどこ?」という声多数。

40代以上のファーストガンダムを見たっきりな人、『逆襲のシャア』以降はもはやガンダムなど自分に関係無いと思っている人、筆者のように実はマクロス派という人にとっては「一体何の騒ぎだ?」と思いたいところでしたが、深い理由があったようです。

すなわちOVA『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』(1992~1993)で主人公たちが乗るペガサス級強襲揚陸艦7番艦(ちなみにファーストガンダムの『ホワイトベース』はペガサス級2番艦)の名前が『アルビオン』。
そして作品冒頭、ファーストガンダムの舞台だった1年戦争から3年後の宇宙世紀0083、オーストラリアの地球連邦軍基地へ『ガンダム試作1号機と2号機』を搬入してきた『アルビオン』がジオン軍残党の攻撃を受け、ガンダム試作2号機を奪われ……というお話。

ファーストガンダムオンリー派からすれば「あれ? ガンダム試作2号機ってアムロが乗ってたRX78-02だよね? ア・バオア・クーで撃破されたじゃん?」と思うはずですが、『ガンダム0083』のガンダム試作機はアムロが乗っていたガンダムと無関係です。

何でも、『地球連邦軍再編成のため、改めてガンダム開発計画を始動、その成果として開発されたいくつかのガンダムGPシリーズ』というものらしく、この場合のガンダム試作2号機とはGPシリーズの核攻撃型ガンダム、RX-78GP02なんだそうな。

OVA製作から四半世紀、筆者のような人間はそのようなサイドストーリーが進んでいる事なぞとんと知りませんでしたが、今回の『アルビオン』日本来航のおかげでこうして無駄な知識がつくもんですから、人生わからないものです。

なお、「そんな知識、マニアしか知らないだろ!」と思うかもしれませんが、在日英国大使館が『アルビオン』の東京晴海ふ頭入港に際し「ガンダムは搭載していません」とツイートするものですから、大英帝国を失ったとはいえさすがブリテン、その情報収集能力は侮れません。

晴海ふ頭での展示は大賑わい!

なお、連日猛暑日が続く酷暑の中を8月4~5日に一般公開された『アルビオン』ですが、大勢のマニアが家族連れで押し寄せ大賑わいだったようです。

中でもイギリス海軍・海兵隊(揚陸艦なので当然乗艦しているほか、警備要員にも海兵隊員がいます)はサービス満点だったようで、列に並んでいる段階から「子供をこんな炎天下で並ばせちゃダメだよ優先するから、ハイこっちこっち!」という親切ぶり。
さらに乗艦後は各種装備や搭載車両などを見学できただけでなく、車両の搭載機関銃(もちろん弾は抜いてある)を構えさせてくれるサービスもあり、いい記念写真が撮れた人も大勢いたのではないでしょうか?

車両甲板やふ頭で展示されていた搭載車両も、スウェーデン製の全地形追随連結装甲車両『ヴァイキング』や、高機動車『スパキャット・ジャッカル』など日本ではまずお目にかかれないような車両がバラエティ豊富。

中でも話題だったのがレオパルト1戦車のシャシーをベースに、海岸にとりついた揚陸艇を砂浜から海へ押し戻す役割を担う『BERV海浜専用回収車』。
そ、そんな車種があったとは知らなかった……」とマニアでも感動のあまり白目をむいて泡を吹き倒れるレベルのユニークな展示の数々でした。

なお、英国面に堕ちた方々の多くがL85小銃を持っている海兵隊員に「弾はちゃんと出るのか?」と質問したようですが、「実に使いやすくていい銃だよ!」と予想外の反応が返ってきたことも驚かれています。
まあ、ブリテンゆえにどこまで本当の事を言っているのかは想像にお任せします、と考えた方が、英国面に堕ちた側としては「これぞまさしくブリテンですな!」とモルトウイスキーがはかどるのかもしれません。

なお、8月7日にはメディアによる艦内取材が予定されていた『アルビオン』ですが、台風から避難するため予定時間を大幅に短縮されてしまい、晴海ふ頭では「あああ、せっかくのアルビオンが……」と嘆く軍事評論家諸氏が名残り惜しそうに艦尾の門扉(舟艇出入口)を見送ったそうです。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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