- コラム
3つの大戦争を戦った攻撃機、ダグラスA-26/B-26/またA-26インベーダー
2018/04/6
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2017/11/20
菅野 直人
第2次世界大戦末期、最新鋭機を集中配備した日本海軍最後にして最強の戦闘機隊、海軍第三四三航空隊。そこで活躍した最新鋭機が、川西航空機の局地戦闘機・紫電改(しでんかい)。スペック上は陸軍の四式戦闘機・疾風(はやて)ほどのインパクトは持ちませんが、空戦では強かったと言われる帝国海軍最後の「精鋭」は、本当に最強だったのでしょうか?
By Imperial Japanese Navy – http://forum.valka.cz/viewtopic.php/title/Kawanisi-N1K1-11/p/232032#232032, パブリック・ドメイン, Link
時は戦前、日本と中国が戦争を始めていた1930年代後半。
日本海軍は最新兵器の航空母艦とその艦載機を実戦投入する一方でフロート(水面に浮くための浮舟)をぶら下げた水上偵察機も積極的に前線に投入、特に小型軽量、複座(2人乗り)の九五式水上偵察機などは空戦にも強く、補助的な戦闘機としても活躍しました。
それならいっそ、最初からフロートつきの戦闘機、「水上戦闘機」を作ればいいじゃないか、という話が持ち上がり、1940年(昭和15年)、日本海軍は水上機や飛行艇のエキスパート、川西航空機に十五試水上戦闘機(十五試水戦)の試作を命じます。
実用化までの繋ぎとして中島飛行機に開発させた、零戦の水上機版「二式水上戦闘機(二式水戦)」は零戦の素質をそのまま受け継いだ高性能で太平洋戦争初期から大活躍しますが、問題は全くの新開発となった十五試水戦です。
滑走距離が長くても問題無い水上機の方が高性能だったこともある1930年代までとは異なり、陸上機でも高速性能と短距離離着陸性能の両立が可能になっており、十五試水戦には過剰な性能が要求されました。
川西航空機では可能な限り大馬力のエンジンと数々の新機軸を盛り込んだ野心的な設計を行うものの、大馬力過ぎるエンジンのトルクで離着水時に左へ首を振るクセがあるなど、扱いにくい上に要求仕様は達成困難、開発は難航します。
それでも水上戦闘機「強風」として1943年12月に制式化、いくらか実戦配備されたものの、水上機としては高性能とはいえ連合軍の新型戦闘機ほどではなく、期待された活躍はできませんでした。
十五試水戦(強風)は開発が難航したものの、設計そのものは優れていたため、フロートを外して着陸脚を装備し、陸上戦闘機に転用すれば従来の戦闘機より高性能が見込まれました。
局地戦闘機「雷電」(局地戦闘機=日本海軍の基地防空用迎撃戦闘機)の開発難航に困っていた日本海軍も十五試水戦陸上型の開発を指示、1942年12月に初飛行すると局地戦闘機「紫電」として採用されます。
これは「強風」を単純に陸上機化したもので、中翼(胴体の上下ではなく中部から翼が生えている)配置の主翼など特徴はほぼそのまま。エンジンは強風の「火星」からより小型大馬力の「誉(ほまれ)」に換装され、強風が主翼に装備していた20mm機銃2門を主翼下面の「弁当箱」とも呼ばれた機銃ポッドに移設 (20mm機銃は後に主翼内に戻り4門に増加)。
この機銃ポッドによる抵抗増大や、「誉」がカタログ性能をなかなか発揮しないのはともかく機体とのマッチングが良くなったこともあって性能は期待ほどではなく、根本的な改設計機「紫電改」が開発されることになりました。
By USAF – National Museum of the U.S. Air Force photo 050317-F-1234P-015, パブリック・ドメイン, Link
胴体を新設計して主翼も低翼配置に改めるなど大規模な改設計が施された「紫電改」は高性能と実用性・生産性・信頼性が大きく向上、海軍も喜んで採用し、紫電改の主力戦闘機化を決定(1945年1月)。
海軍航空のエキスパート、源田 実 大佐により紫電改と紫電を集中配備する第三四三航空隊(343空)を1944年12月に編成します。
343空は新人パイロットも多く、紫電改の生産が間に合わないため紫電で数を埋めるなど通説通りの「精鋭揃いの紫電改部隊」ではありませんでしたが、それでも部隊長、編隊長クラスには技量優秀な歴戦パイロットを揃え、多数の紫電改が配備されました。
日本海軍ではまだ大々的に取り入れていなかった新戦術、無線で連携しながらの編隊空戦などのため猛訓練を行い、米空母艦載機による1945年3月の呉軍港空襲で初陣を飾ります。そこで米海軍の主力戦闘機F6Fを問題にしない空戦性能や零戦を上回る大火力で「圧倒的勝利」を上げ、以後終戦まで、迎撃から特攻機の援護までフル回転で活躍しました。
しかし、紫電改の生産は遅々として進まず343空の補充で手一杯、それ以外では横須賀航空隊などに少数配備されたのみで、日本海軍戦闘機隊は最後まで零戦を主力として戦わざるをえなかったのです。
By 日本語: 石川島造船所 荒川浩技師 – 呉市海事歴史科学館所蔵品。, パブリック・ドメイン, Link
なお、零戦(零式艦上戦闘機)の後継としては、局地戦闘機が「雷電」、艦上戦闘機が「烈風」と、いずれも三菱飛行機が開発した戦闘機を採用予定でした。
ところが、中島飛行機に零戦の生産の大部分を順次移管したものの、改良型の開発と並行して複数の新型機開発まで担わされた三菱飛行機は、雷電と烈風の開発遅延の穴を埋めるため零戦の改良も続行、オーバーワークになる悪循環に陥ります。
雷電は何とか部隊配備が始まり、生産不足は紫電や紫電改が多少埋めましたが、烈風は初飛行後も性能向上に苦戦して完成の目途が立たず、艦上戦闘機の後継が決まりません。
そこで紫電改の試作機を艦上機仕様に改修、竣工直後の超大型空母「信濃」での着艦テストにも合格し、艦上戦闘機「紫電改」としても採用が決まります。
しかし、その直後に信濃は潜水艦に撃沈され、残る空母にも空母機動部隊を編成・運用するための燃料も空母から発着可能なパイロットも無く、結局艦上戦闘機「紫電改」が空母から出撃することはありませんでした。
雷電の開発遅延から、その穴埋めを狙った「紫電」、そしてその改良型「紫電改」ですが、本来は紫電改も次期主力機までのつなぎ役に過ぎませんでした。ではその次期主力機と言えば、本来は「烈風」のはずのところ、こちらは開発が進まないので、川西航空機が試作戦闘機「陣風(じんぷう)」を開発していたのです。
陣風は十七試艦上戦闘機(烈風)と同時開発の十七試陸上戦闘機として始まりましたが、完成の見込みが立たない烈風に代わり、十八試艦上戦闘機として再出発。しかし、一度に多数の新型機の開発を命じて開発現場の混乱を招き、どれも戦力化が進まないのに業を煮やした海軍が開発機種の整理を行います。
その結果、川西航空機をテスト結果が良好だった紫電改へ集中させる意向もあって、陣風は1944年7月に開発中止となりました。
その後も川西独自に開発は細々と続行、1945年5月頃に試製「陣風」の計画が再開したとも、検討段階で終わったとも言われていますが、いずれにせよ終戦まで陣風の実機は製作されずに終わっています。
By USAF – National Museum of the U.S. Air Force photo 080603-F-1234P-001, パブリック・ドメイン, Link
終戦とともに「日本海軍最後にして最強の戦闘機」として伝説化した紫電改ですが、その実態は意外にも明確ではありません。
まずその戦場での実績の面ですが、唯一の紫電改部隊となった343空は初陣をはじめ何度か大戦果を報告しているものの、主に対戦した米海軍に大被害を受けたという記録は無いのです。逆に損害は激しく、飛行隊長クラスも続々と撃墜されて戦死するなど終戦時の343空はガタガタの状態で、これは漫画「紫電改のタカ」でも描かれている通り。
戦果の誇張はどんな軍隊にも時代を問わずつきものなので仕方がありませんが、数の不足もあって「最後に連合軍を圧倒した最強戦闘機」というほどでは無かった、というのが真実と言われます。
ただ、連合軍側からすると「零戦よりかなり厄介な相手」だったのは事実らしく、むしろ「連合軍と互角に戦えた最後の海軍戦闘機」と言った方が正解だったかもしれません。
前述のように、343空も新米パイロットの技量不足を紫電改の性能とベテランのサポートで補っていたのが実態でしたから、最強では無いにせよ最後に善戦したのは確かでしょう。
戦後にアメリカに持ち帰られてテストした時も、最高速度687km/hを記録して「日本の戦闘機で最高速」と言われた陸軍の四式戦闘機「疾風」のような正式記録は残っておらず、最良の状態で同程度の性能だったのだろう、という出所不明の情報や推測が残るのみ。
ただ、米国製戦闘機を含め、様々な機種で模擬空戦をしてみたところ紫電改に勝てる戦闘機はいなかったらしい、という伝聞だけが「最強の戦闘機・紫電改伝説」の最後に華を添えています。
A&W Models 1/144 川西 J6K1 十八試甲戦闘機 陣風 144050
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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