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2017/11/2

菅野 直人

まことにブリテンらしく連邦構成国への嫌がらせも忘れない、駄作珍兵器イギリス編

最近は埼玉県に絡んだジョークのうまい軍事評論家のおかげもあり、すっかり「イギリスは変な兵器ばかり作っている」「またイギリスか!」その名も高きブリテン兵器群ですが、実際はどうかと言えば……いや、素晴らしい兵器を作っていると思います。大英帝国万歳!

問題です! 今発砲してるのは何門?「ポムポム砲」

HMAS Nizam AWM-009496.jpg

パブリック・ドメインLink

第2次世界大戦モノの戦記ならばフィクション、ノンフィクション問わずイギリス海軍の主兵装であるかのごとくたびたび登場するのがこのポムポム砲

ムルマンスク航路でひたすら不幸と疲労とドイツ軍の攻撃に悩まされる男達を描いた「女王陛下のユリシーズ号」でも、凍結防止のフタを取らずに発砲したポムポム砲が、ゼロ距離の砲弾炸裂で従軍牧師を吹き飛ばしたりしてましたね。

正式名称を「ヴィッカース QF 2ポンド砲」通称“pom-pom gun”と呼ばれるので日本ではポンポン砲と呼ばれることも多いのですが、正確にはポムポム砲なようです。

元はそれより小型の1.5ポンド砲や1ポンド砲の“pom-pom gun”があり、2ポンド砲はその後継。イギリス海軍の専売特許のように思われていますが、実は日本でも戦前から「毘式四十粍機銃」(ビッカース式40mm機銃)の名で単装または連装機銃が使われており、第2次世界大戦中でもまだ使われていました

本家イギリス海軍では増大する空からの脅威に対抗して8連装タイプの通称「シカゴピアノ」と呼ばれるタイプ(Mk.VIII)が開発されて猛烈な弾幕射撃を目論んでいましたが、実際には凝りすぎた設計で故障が多かったようです。

マレー沖海戦でイギリス戦艦が日本海軍中攻隊(九六陸攻、一式陸攻)の攻撃を受けた際も、「これさえあれば援護戦闘機が無くても!」と期待されたポムポム砲に故障が多発して全門射撃は困難、おまけに短銃身で初速が低く、射程が短く弾幕もバラけてしまうので、効果は薄かったらしく。

それでもポムポム砲を使い続けていたイギリス海軍でしたが、戦争中盤にはいい加減嫌気がさして、米海軍などと同じ傑作ボフォース40mm機関砲に更新されてしまいました。

前方機銃無いけど当選「ポールトンポール デファイアント」

Boulton Paul Defiant Mk I in flight.jpg

パブリック・ドメイン, Link

まごう事なき珍兵器なのに結構な数が量産され、期待のままに初期にはそれなりの戦果は上げたけれども、最終的には「あーやっぱりね」駄作入りした代表がイギリス空軍の複座戦闘機、ポールトンポール デファイアント

そもそもイギリス空軍では第1次世界大戦中に「ブリストル ファイター」という傑作複座戦闘機が活躍し、戦後もその栄光を引きずっただけでなく、他国も2匹目のドジョウを狙った複座戦闘機を結構作っていました(日本でも中島キ8など)。

しかし、航空機の性能が発達すると後席の機銃員は敵機の動きに追従できず自機の性能が高ければ高いほど急旋回のGで失神してしまったりとロクなことがありません。

そこでイギリス空軍は「よろしい、それなら動力銃座をつければ敵機に追従できるし、自機がヒョイヒョイ旋回しなくても撃ちまくるだけで敵機をバリバリ撃ちまくれるぞ!」と言わんばかりに動力銃座つき複座戦闘機の試作を要求。

そして採用されたのは動力銃座メーカーでもあるポールトンポール社案で、1937年に初飛行して「デファイアント」として採用されたのでした。

折しも第2次世界大戦が始まろうという時で「間に合った!」とばかりに早速配備されたデファイアントですが、戦争初期からダンケルク撤退戦の頃までは確かに戦果を上げて「間に合って良かった新戦闘機」だったのです。
その原因はドイツ軍が単座戦闘機と間違えて不用意に後方から接近しては動力銃座に撃ちまくられたからで、その意味で開発コンセプトは大成功でした。

しかし、その誤認を把握したドイツ軍はデファイアントを見つけるや、前方に回り込みますが、そうなるとデファイアントは手も足も出ない……そう、コトもあろうにデファイアントには前方機銃が無く、頼みの動力銃座も真正面に撃てない仕様だったのです

そのためバトル・オブ・ブリテンの初期には大損害を受けるとアッサリ「戦闘機失格」の烙印を押され、レーダーをつけて夜間戦闘機へ転身
しかし、もともと動力銃座で重量過大、動きもモッサリしていたデファイアントはそもそもどこで戦闘機に使おうにも不適で、本格的な夜間戦闘機(モスキートやボーファイター)が登場すると、最後はイギリス駄作機群の定番、標的曳航機となったのでした。

なお、「新スターレック」シリーズにもTV版「ディープスペース9」や映画「ファースト・コンタクト」でU.S.S.ディファイアントという惑星連邦初の本格的戦闘艦(それまでは基本的に戦闘力のある調査船)が登場しますが、こちらは機動性の高さで大活躍!

前方銃座つけたら落選「ホーカー・ホットスパー」

ホーカー ホットスパー
it.wikipediaCC 表示 2.5, Link

ところでデファイアントが採用された時の要求仕様F.9/35では他にも試作機があり、それがデファイアントの前任機デモンを生産していたホーカー社の「ホットスパー」

機体性能はちょっと物足りなかったものの、これはちゃんと機首に7.7mm機銃が装備されており、デファイアントと違って前方から敵機が来てもバリバリと……撃つには運動性能が不足してたんで、どのみち失敗作だったわけですね。

何よりハリケーン(戦闘機)やヘンリー(単発軽爆撃機)の開発と生産で忙しかったホーカーはあまりホットスパーに力を入れていなかったようで、初飛行した時には既にデファイアントが高性能(と思われていた)を示した後。
あっけなく不採用となったホットスパーはモックアップとバラストのみで本物の動力銃座を積むこともなく、各種試験機として使われたのでした。

これが不採用でホーカーが困ったかと言えば、ハリケーンや後継機タイフーン、テンペストで十分忙しかったので別に困らなかったそうな。

スタッフがおいしくいただいたかは不明「ブルーピーコック核地雷」


第2次世界大戦中もかの有名なロケットつき巨大ボビン、ならぬ自走爆弾パンジャンドラムを開発するなど戦争を適度に楽しんでいたイギリスですが、戦後も誇るべき珍兵器を作り続けます

その代表格、しかも核兵器なのが「ブルーピーコック」で、まずソ連軍(とワルシャワ条約機構軍)が攻めてきたら、ドイツのライン側流域に埋めておいた核地雷でみんな吹き飛ばしてしまえ! どうせウチの領土じゃないし、というコンセプトからして乱暴!

しかし問題は当時の電子装置だと冬の寒さで凍結して、核爆発装置を作動させられないかもしれない…というところ。ある程度は攻撃を予測してその直前に埋めるとはいえ、真冬だとそれでも怪しいもので、どうにか核爆発装置を保温しなければなりません

だからといって「何でそれで保温しようと思ったのか」が英国面の真髄発揮というべきで、何と保温のためニワトリを入れることにしたのでした……卵かっ!

餌と水も一緒に入れておくから一週間は生きてるし、十分に時間的余裕はあるよ……と、そういう問題でいいのかどうか、ともかく10発発注されたブルーピーコックでしたが、いろいろもっともな理由をつけてプロジェクト自体が中止になったのは幸いでした。

なお、ブルーピーコックに関する情報は長年機密とされており、2004年4月1日に機密解除された時には日付の問題で「今年のエイプリルフールのネタは面白いね!」と誰もが本気にしなかったそうで。

暖房無いなんて聞いてないよ! 全カナダ軍が泣いた「軽空母ウォリアー」

HMCS Warrior (R31) ca1947.jpg[1]CC 表示 2.0, Link

最後は一応マトモな兵器のはずだけども、「どうしてそうなった」という理由で珍兵器扱いになってしまった例。それもいかにも大英帝国らしいというか、嫌味なのかジョークなのか判断に困る理由です。

第2次世界大戦中、イギリスではコロッサス級という戦時急増ながらそれなりに性能と拡張性、運用の柔軟性に優れた軽空母を10隻建造していました。しかし、全て完成する前に戦争が終わってしまい、完成していた6隻も含め余剰戦力となったものは別目的(航空機整備艦)へ改装されて完成したり、同盟国や英連邦諸国に貸与または売却されていったのです。

最終艦(10番艦)のウォリアーもそのような経緯で英連邦の1国、カナダに貸与されることとなって、1946年1月の就役から2ヶ月と経ずにカナダ海軍へ移籍します。しかしそこで致命的な問題判明!

なんと、「どうせ消耗品の急増空母だし、インド洋専用ということにすれば暖房いらないでしょー」というコンセプトで建造してしまったため、カナダ海軍へ就役と同時に「え? 暖房無いの?」と大問題になりました。

基本的に極寒の北大西洋で使うつもりだったカナダ海軍は建軍以来初の空母だワーイ! と喜ぶ間もなく、冬の寒さを避けて西海岸へ期待の新型空母を避難させる始末

「いやもう無理! どうにかして!」と宗主国イギリスに泣きついて後付けのヒーターをつけようかどうしようか……と、欠陥中古車をつかまされた哀れな初心者ドライバーのような有様になります。

結局、2年ほどして戦争終了により建造中断していたマジェスティック級軽空母「マグニフィセント」と交換してもらえることになり、今度こそカナダ海軍の将兵は暖房付きの空母で快適に過ごしたのでした。

いや、宗主国イギリスがクレームに応じてくれたからいいようなもの……というより、貸与する前に一瞬「あれ? この空母暖房無いけどカナダで使うんだよね?」と考えなかったのでしょうか。とりあえずクレーム対応に満足したカナダ海軍は、その後も後継のボナベンチャーを経て1970年まで空母保有国として運用を続けています。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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